2012年12月24日月曜日

We wish. vol.4













クリスマスまで、あと2時間。

時計の針が22:00を回った。

ヒョクチェは、夜のミサを終えて実家に戻って来ていた。



————シウォンの口から聞かされたのは、ヒョクチェの言いたかった事を
全て言えなくしてしまう言葉だった。

涙が…全部、溢れ出すかと思った。

色々考えて、伝えようと思っていた言葉が全て効力を無くす。



「俺は、クリスマスは必ず家族と過ごしたいと思ってるから、」
言い辛そうに、シウォンが言葉を捻り出す。



どんなに、傷つけないように伝えてくれたとしても、もう、遅い。



「分かってるよ」
他に、言える言葉なんて無いじゃないか。
なんて言えば良いんだよ。


シウォンは、言葉を失った俺の頭を抱き寄せて囁いた。
無駄に優しくて、そんなのでも嬉しいとか思っちゃう俺がバカみたいだった。


「すまない、今はどうしても悲しませてしまう。」


「————でも、絶対に笑顔にする。」


ヒョクチェの肩がピクリと震える。


「約束、するから」
シウォンの声まで、少し震えたようだった。
俺はせめても声が震え出さないように、喉に神経を集中させて
頷きながら分かってる、と繰り返した。



I Promise you...I'll be home for Christmas, You can count on me…


どこかの窓から、切なげなクリスマスソングが
流れ出して来る。


タイミングが悪いにも程があるじゃないか。

あれじゃあ、泣けって言ってるようなもんだ。


そうやって、シウォンがもう一度俺を抱きしめて
去り際にあれだけ勿体を付けていた”プレゼント”の包みを渡して来た。

涙をぼろぼろに流す俺を置いて、シウォンは名残惜しそうに走って仕事に
戻って行った。


———仕方が無い。

分かってる。

分かってたさ。





そして今、俺はその包みを開けて
取り出した物を手の平で転がして、遊んでいる。


月の光を集める石。


説明書が付いていて、この銀の輝きを放つ水晶【シルバーチルクォーツ】は
夜の月明かりに当てることでパワーアップすると書いてあった。
そのパワーの効果は、書いていない。

なんだよ。

正直そう思った。

効果も書いてない、そんな石のキーホルダーをくれて。
ただ月に照らせと。

仕方が無いから、窓を開けて、精一杯手を伸ばし、月に当ててみる。


その時、手の平に冷たい物がふわりと舞い落ちる。


「———雪、だ…」






















We Wish.







♦Together, Forever.







「雪だ」

雪に誘い出されるように、ヒョクチェは上着を着てふらふらと玄関先に
出て行く。

その様子に気付いた誰かが、家の中から「夜中に出て行く馬鹿息子!!」と
面白おかしく叫んでいた。





…だって、雪が降ってんだ。

一緒に見る筈だったんだよ。




また、じわりと涙が沸き上がってくる。


いっぱい、本当は企画してたんだ。


クリスマスは家族と過ごしても、イブの夜は一緒に過ごそうと思って。

一緒にDVDを借りて見ようとか、普段シウォンの食べそうにない
ケンタッキーを買って一緒に食べようとか。


プレゼントも、あげる場所とか、そういうの、めちゃくちゃ考えてたのに。


———馬鹿野郎。

ばかやろう。


玄関の扉に手をかけたまま、目の奥からどんどん熱いものが込み上げて来た。


一人で雪見るよ。
仕事だったんだろ、ざまぁ!って今度からかってやる。


涙が、ポタリ、とドアノブに落ちる。


ガチャリとドアを開けた瞬間に、ピンポン、と、やけに明るいチャイム音が
鳴り響いた。


また奥から、「あんた出て頂戴!!」と聞こえる。


こんな泣きはらした顔でやだなあ、まあどうでもいいや…。

そう逡巡して、そのまま扉を押し開く。

外から、凍るような寒い空気と、それから嗅ぎ慣れた優しい、甘い香りが
吹き込んで来た。

目を見開いて、ヒョクチェが視線をあげる。







「…Merry Christmas、 ヒョクチェ!」







ヒョクチェが出たことに少し驚きながらも、そこには満面の笑みのシウォンが
立っていた。


しかも、髭まで付いた、サンタクロースの格好をして!



…I just want to see my baby,  Standing right outside my door!!
 (私のドアの前に立っている、ベイビー、そんな貴方が見たいの!)



唖然として、声も出ない。

シウォン、マイベイビー!



「ば…ばっかじゃねーの!?なにしてんだよ!!」
込み上げてくる笑いは止められずに、サンタの衣装を着たシウォンに
違和感しか感じず、強ばっていた表情は全て緩みきってしまった。


「おや、ヒョクチェ、気に入らなかったかい?」
両腕を広げて、こんなに素敵じゃないか、という顔をしているようだけれど
髭で隠れてそれすらちゃんと読み取れない。


奥から「何事?」と、母親が顔を出した。


「あっ!いいから母さんは中に…」


でも、一瞬で、遮られて。


「メリークリスマス!!お母様、ヒョクチェをお借りします!!」
シウォンはそう言いながら、ヒョクチェの背中と膝裏に手を回し軽々と
抱え上げた。


「え?シウォンさん?」
母親も、目を丸くして驚愕している。
そりゃあ、そうだ。


「いえ、しがないサンタクロースですよ!」
またよく見えない、満面の、笑み。


「ばっか、シウォンだよ!!母さん、こいつシウォンだから、ちょっと出かけ」
言い終わらないうちに、シウォンは待てないと言わんばかりに嬉そうに
ヒョクチェを抱えたまま走る。


「シウォン、何考えて…」

「車まですぐだから」

「お前、撮影は?終わったなら、家族と うっ」

「ヒョクチェ、俺が何をこんなに準備してたと思う?」
シウォンは、自分の髭を外しヒョクチェの顔に髭を押し付ける。

いつものシウォンの美しい顔が現われた。

頬が紅潮し、いつもはスカして王子みたいな顔が、子供みたいに破顔している。

いつものオープンカーに辿り着き、助手席にボスンとヒョクチェを乗せて
車を発進する。

風と雪が顔にあたり頭が冷えて、少し心が落ち着くと
深呼吸をしながらヒョクチェが尋ねる。

「シウォン、もう話せよ、何なんだ、これほんと!!」

シウォンの眉がハの字になって、笑った口を尖らせて勿体を付ける。
「良い顔、してるぞヒョクチェ」

「お前さ…、ほんと」

シウォンがくくく、と心底楽しそうに笑った。


————仕方無い、付き合って…やるか。

本当に、本当にこいつときたら!




暫くすると、シウォンの笑顔がまた頂点に達する。
大きなえくぼがこれでもかと言うくらいに出て。



こっち、と手を引かれとある新築の家まで案内される。

シウォンの別宅か、そう思った。

すると、す、と手を開かされ、チャリ、と銀色の物をその中に落とされる。



————鍵、だ。



「開けて?」
シウォンが嬉そうにヒョクチェを促す。

言われるが侭に鍵を開けて、扉を開く。


———————そこには。


色とりどりの飾り付けの為された、空間が広がっていた。

「———これ、何?」


「プレゼント」


「はい?」


「その鍵が、プレゼントの本体。あげたキーホルダーに、付けると良い。」
満足そうに、シウォンが自分の顎を撫でている。


「…あの、本気で、言ってる?」


「家族が、一緒に住む家を持つことはそんなに驚くことか?」


開いた口が塞がらない、とはこの事で。

ヒョクチェはぽかんと開いた口をどう閉じていいのか分からなかった。


「———愛してるよ。」


シウォンが、甘い声でそう囁いて、後ろからヒョクチェをぎゅっと抱きしめた。


「愛してるんだ。死んでしまうくらい、愛してるんだ…」


ヒョクチェの方が死んでしまいそうになる言葉を
ゆっくり、優しくシウォンは紡ぐ。


「家族と過ごすっていうのは、ヒョクチェと過ごすって言う意味だった。」


「ちょっと色々伏せたのは、心の底から笑ってる顔が見たかったんだ。」
抱きしめる腕を緩めずに、後ろからヒョクチェの首筋に顔を埋める。


「シ ウォン…」


「ずっと、お前は色々あったから————最近いつも少しだけ陰る表情を…
 どうにかして、昔みたいに全力で笑えるようにしてやりかった。」


ヒョクチェは、ほんの少しだけ冷静になると、また涙が込み上げてくるのを感じた。



馬鹿だなあ、という思いが溢れて。


———何でこの男はこんなに。



俺の寂しさなんて、不安なんて、この腕に抱きしめられれば一瞬で砕け散る。


「馬鹿だな…ほんと…くそ」


「…? すまない、何か、気にいらな…」


その、抱きしめられているのか、縋り付かれているのか分からない腕を解くと
ヒョクチェはシウォンに正面から抱きついた。


「ヒョク…」


「お前は!ほんとに!なんで…っ」


「もう、愛してるよ!!俺だって馬鹿みたいにお前の事愛してるよ!!」


「俺はお前がもうちょっと傍に居てくれるだけで良いんだよ、そしたら
 そしたら…」
シウォンの首に回した腕に、ぎゅっと、力を入れる。


「どうしよう、ヒョクチェ、嬉しくて…」
シウォンが戸惑ったように、はは、と笑う。


「お前が思う以上に、俺はお前じゃないと駄目なんだよ。お前が撮影で
 疲れてたら、疲れごと抱きしめたいし、触れたいし、俺が癒したい…」
次から次に涙を流しながら、顔を真っ赤にしてヒョクチェは言葉を続ける。


「一緒に居ないと、笑えないんだ…傍に、居ろよ…」
ふ…と頼りない声を漏らして、ヒョクチェはシウォンの胸に顔を埋めた。

「悪かった、もう、寂しい思いはさせないから。この家で、忙しい時は仕方が
 ないけど、この家で一緒に過ごしてくれないか。」
泣きやませたいのに、嬉しくてどうしたら良いか分からないシウォンは
あやすようにヒョクチェの背中を撫でる。


「———セックス、したい。」
ヒョクチェが、ぽつりと言った。


「え…!?」


「…抱けよ。これからずっと幸せになれるって思い知らせろよ、シウォナ。」
顔を背けたまま、ヒョクチェは甘えたようにシウォンの横腹をなぞる。


「知らないぞ。なんだか壊してしまいそうだ…今日は。」
ギュッと、力を入れてシウォンはヒョクチェの頭を抱いて
柔らかい髪にキスをする。



「シウォナ。もう遅い。お前の事を、考えるだけで、…俺は。
 ———胸が苦しくて、壊れちゃうんだよ。」






それから、崩れるように二人はリビングルームのソファに抱き合ったまま
縺れ込み、お互いを食べ尽くすように交わった。


声も出なくなるほどに、激しく。

融けてなくなりそうなほどに、甘く。


チカチカと光る電飾の光の中、身体の隅々までを。
二人はゆっくりと、撫でて、舐めて、愛した。


肩、鎖骨、腰、膝の窪み、踝… 指の、先。


温かく感じる、お互いの指先が、舌の先が、温かい手の平に溶ける雪の華のように
落とされて、体温に混ざって行く。






大きく外が見渡せる窓の外では、暗闇に美しく雪が舞い散っていた。






シウォンは、このまま、ヒョクチェの事を抱いたまま————

どこか誰も知らない遠い遠い世界まで、翼が生えて、飛んで行けそうだと思う。
大事な何もかもを、捨てて。





ヒョクチェは、この広い世界の中で、もうこの男しか見えないんだと。
一生この男しか愛せないんだと。

———そう、思った。






———We  wish.


We  wish  a  merry christmas


We  wish  we're  one....

 

また。

来年の冬も、その次の冬も、10年後も100年後も。

1000年の先も。

共にこの聖なる一日を、祝福する事が、出来ますように。












===================================================











———神の母聖マリア。

天におられる、我等が父よ。


罪深いわたしたちのために。


今も、死を迎える時も祈って下さい。


Amen.





Fin




7 件のコメント:

  1. katieさん「We wish」ありがとうございました。
    クリスマスイブに最高のプレゼントいただきました。
    ウォンヒョク最高!!
    2人の熱い夜を妄想中です。ウォンヒョクはいつまでもラブラブでいてください(願)
    あ~早く年末の歌謡祭でウォンヒョクを見たい!
    シウォンいますよね(祈)

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  2. Happy Merry Christmas♪

    まさか…Christmas短編で、こんなに素敵な作品を書き下ろしていただけるとは
    思っていなかったので…感激しました!

    お祈りや実際の歌の歌詞を引用した文章のディティールが、非常に細かく丁寧で、
    リアリティー満載ですね。

    相変わらず、Katieさんの表現力の素晴らしさに、ぐいぐいと引き込まれてしまいました。

    ずっとミッション系の女子校に通っていたので、毎日二回、お祈りするのは習慣でした。
    私はクリスチャンではありませんが…校内にはお御堂もあり、校長様もシスターでしたので、
    12月は当たり前のように、毎年Christmasミサにも参加していました。
    この作品を読みながら、あの頃のChristmasの風景が想い出されて…懐かしかったです。

    Christmasは、家族で過ごす…まさに王道ですね。
    「家族」という言葉の重みを、改めて実感しました。

    本当に、シウォンが家買ってそうな気がしてきましたww。
    二人の新居に遊びに行ってみたい…
    いや、贅沢言わないから、陰からこっそり覗かせてほしいですww。

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  3. イブは、リアルでも大変なことが起こりましたねww Katieさんのウォンヒョク愛が海を越えて二人に伝わって良かったです。マジで!

    一話の「あらゆる教えに背きながら、俺はシウォンを選んで、生きて行くと決めた。」
    がお気に入りです。そう、もうあの二人にはそんな問題もあるんですよね。
    こんなに好きで、こんなに祝福されてるのに。

    そして、こんなにいいお話なのに、PSに食いついてしまいました。
    やって下さい。ぜひ。やるがいい。物足りなくても、そんなヒョクに激しく萌える。

    二人が事務所で会えた時、嬉しかったなあ。唄さんのイラストもピッタリだったね。すごい、シンクロ!

    そんで、ご成婚した二人が家族! 疲れている方が性欲増すっていうもんね! 良かったね、良かったね!
    二人の笑顔とスキャンダルが、私の栄養。

    それでは、また予言、お待ちしております。

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  4. まさかの4話一挙公開、ありがとうございます。
    Katieさんの描くシウォンさんて、
    本当に理想を押し固めて作ったような彫刻美男です!
    そして、それがシウォンさんにとても似合っています。
    御礼が遅くなりましたが、クリスマスプレゼント、ありがとうございます♪

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  5. Katieさん、あけましておめでとうございます<(_ _)>。 明らかに遅いって感じですが、素敵なクリスマスのお話ありがとうございました。もう2人のクリスマスを実際に見ちゃった気分になり、ドキドキしました。それなのに
    チェ氏のクリスマスのツイ見て、一瞬何もかも?になり   えっ…Katieさんはチェ氏なの(゚◇゚)ガーン とか本当に思ってしました。それか、チェ氏の手先で日本でウォンヒョクがガチってことを広める為・・活動←正解。そして自分一人で納得(^-^*) (少し忙しく頭がいつもより正常になった結果だと思われます。)
    でも、本当に感謝です。ウォンヒョクを知ることができたのは。幸せをスッゴく分けてもらってますもん。
    コンサートとか行く楽しみが増えました。ドンヘさん大好きなのでガン見しつつ、ウォンヒョクをガン見・・
    目が2つでは足りないという壮大な悩みが増えましたがそれすら幸せ。
    今年も素敵な小説、観察楽しみにしてます。

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  6. だいぶ遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます!
    昨年後半はKatieさんという素晴らしい文豪に出会えて、そして奇跡のようなウォンヒョクというCPを
    啓蒙していただき、カッサカサの専業主婦の日常に潤いが与えられました…本当に感謝します…
    ありがとうございました。
    今年も何卒よろしくお願いします(ペコリ)

    そしてこれまた遅ればせながらクリスマス小説、最高でした。あの、普通に感動しました(ρ_-)ノ
    ひょくちゃんにめっちゃ感情移入、シウォンの言葉に同じく淋しくなり、
    まさかのビッグサプライズには顔を覆って噎び泣きましたyo(><)
    もーー良かったね良かったね!って、泣きじゃくるひょくを祝福してる女友達みたいな気分で
    読みました(*´‿`*)ノ

    そう、ふたりは一緒にいる時間が絶対的に少ないんですよね。
    ほんとに同じグループの(ユニットでも)メンバーかっていうくらい。遠距離が過ぎますよね…
    ほんとに同居しちゃえばいいのに!
    ひょくは、遠距離とか向いてないっぽいですよね。誘惑や目の前の快楽に弱そうだし…
    二人で立てた誓いとかすぐ忘れちゃいそう@@;

    最近はツイッターのほうで活動されてるんでしょうか?イラストもすごいですね!!
    Katieさんは本当に才能の塊で2013年も羨望の眼差しです・・・
    私の今年の目標はまずツイッターを始めることなので^^;そうしたら是非お仲間に入れて下さい!!
    小説のほうもまた首を長くしてお待ちしております!

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  7. >皆様

    コメント有難うございました♡♡

    ささいなクリプレでしたが、またイベント事の折には

    記念FFを投下出来たらなーと思ってます!

    お楽しみにお待ちくださいねっ( ˘ ³˘)♡

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