2013年3月28日木曜日

Sound of.










Sound of.

鍵付き小説の予定ですがFC2不具合のため明日まで表で公開します。
明日以降はリンク先に進み、パスワードを入力してお読み下さいませ。














———魂の底、目を閉じて
意識が鼻筋を通って、喉の奥をストンと落ちて、呼吸の湧き上がるもっと底。


体幹の真ん中。
ハートの軸。



その辺りから、低くて、重いビートを刻む音が聞こえる。



最初は心臓の音だと思ってた。



だから胸に手を当てたけど、そこで、鳴るのは違う音。
一拍、一拍、一拍。


魂の底から聞こえるのは、俺のどんどん早くなる呼吸と。


小刻みに漏れる声と。


120bpmくらいの、1拍、2拍、3拍、4拍、変拍子?

タン、タタン、タン
タン、タタン、タン


拍動に、攫われるみたいに指の第一関節が弾ける。


明かりは落としているのに、光のように俺を導いていく。


命の終わりまで、感じ続けるんだろう。

誰も知らない、この拍動。



————踊りたい、踊りたい、踊りたい。


時間が許すだけ、足が動く限りずっと。









Sound of.
====================================================











「ヒョクチェ…」

シウォンがヒョクチェの隣で優雅に肘をついて横たわり
脇腹へ優しく手を這わせると、ゆっくりと、腿の付け根まで撫で下ろした。



ヒョクチェは仰向けのまま無言でチラと
横目でシウォンの顔を眺め、次の言葉を待つ。

腕は頭の後ろに組んだまま。



もう一度シウォンの首に腕を回したい気はしたけど
開けた窓から吹き込んで来る弱い風をもうちょっと感じていたくて、やめた。



「うわの空、だろ?」



シウォンが微笑んでヒョクチェの脇腹に目を落としたまま呟く。


「ん?」


「してる間、ダンスの事考えてただろ?」


シウォンがヒョクチェの目を見つめた。



怒って居るような雰囲気はちっともなく
いつも通りその視線は楽しそうにきらきらと周りに光を散りばめる。


「うん」


いつも、ついその優しさにずぶずぶに溺れてしまう。
駄目な男は俺。



「———やっぱり」



シウォンはヒョクチェの二の腕を掴んで、少し自分のそばに引き寄せる。


組まれていた、細く見えるのに鍛えられたその腕は
ほどけてシウォンの顔のそばにパタリと手の平を落とす。


シウォンはその手の平の真ん中にキスをして
そのまま、そこに顔をうずめた。



ヒョクチェはまた何も言わずシウォンを不思議そうに眺める。



シウォンは手の平に顔をうずめたまま、小さく音を立てて何度もキスをする。



「シウォン、———良かったよ?」



シウォンが、んん、と低い声を漏らしてヒョクチェに背中を向ける。


「なんだよ…。」




無言。




風が気持ち良くて、こんなやり取りをして居るのについ
眠気が瞳をかすめて行く。



「シウォン」



シウォンが軽く背伸びをして、うつぶせになり
顔は枕に伏せたままヒョクチェを見ない。


さすがに、ヒョクチェが見兼ねて、口を開いた。


「———子供達。」


「あの子達見てたら、さっきからずっと踊りたくなっちゃって。」


「…シウォナ」


「おい、聞いてんの」


シウォンが首を回して、枕から目だけを少し覗かせてヒョクチェを見る。




「———子供達と、会ってくれて、ありがとう。」




「それさっきも聞いた」


「一度じゃ足りない。」


「…俺あの子達、好きだよ。本当に。」


「…最高のお姫様達だろ?」




今日はテレビ番組の外ロケの撮影の後に、自由時間を貰えたので
シウォンと一緒に、シウォンの———2人の養子の少女と会いに行った。

シウォンは最初は経済支援だけを行っていたのだけれど
去年正式にシウォンの母親と施設を訪れ、法的な手続きをいくつか済ませたのだ。

現状その子達の養育を引き受けてくれている施設の先生が、2人を連れて
近くのホテルまで出向いてくれていた。

タイに来る前から、会って欲しいと、シウォンから話を聞いていた。




ヒョクチェは、うつ伏せのシウォンの首に手を伸ばす。


自分達の泊まるホテルに戻って来て、シウォンはプール、俺はジムに行き
一日のトレーニングスケジュールをこなすと、自然と一緒に少し休む…事にした。

出発まで時間があったし。


まだ乾かずに跳ねた髪をもてあそび、なんだか可愛いなあと、思った。


そして白い歯を見せて、ヒョクチェは声を出さずに笑う。



「丁度さ、守らなきゃいけないお姫様が欲しいと思ってたんだよね。」



シウォンが顔をあげて、上半身を起こす。


すかさずヒョクチェはシウォンの首に腕を巻きつけて
お互いに裸のままの身体を、密着させた。



—————やっぱり、シウォンが欲しい。



風よりも、眠りよりも、気持ちいいこの身体。



シウォンの乾いた柔らかい唇に、濡れた自分の唇を押し付ける。



罪悪感なんか、とっくにない。



こうする事が、自然過ぎるほどに自然。



窓の外に見える、プールに張られた水や吹き抜けて行く風よりも自然。



「ヒョクチェ、俺たちは…お姫様達が王子様を見つけるまで
 一緒に見守って———いける?」


「うん、決めた。ていうかさ、あの子達の顔見た瞬間に決まってたよ。」



シウォンが、安堵と喜びが混じったような
———この世界の何よりも美しい顔で、笑った。


そしてヒョクチェの前髪を掻きあげると
額にキスを落とし、頭ごと抱きしめて背中を撫でる。


ありがとうと、
あいしてる、が両方。

心の器からどんどん溢れ出して。



「———それに、お前が一人であの子達を守るんなら
 誰がお前を守るんだよ…。」



ベッドサイドのカーテンが、風で大きく舞い上がる。
柔らかい、鼻孔をくすぐる南国の花の香り。




「俺だろ。」



「俺しか、居ないだろお前みたいなやつ、守れるの。」



「ヒョクチェ」



お互いに、身体の全てを押し付けて。


触れた部分に、温度が宿り、
そして、チリチリ、チリチリと焼けるような、今度は
もっと早い変拍子の音楽が生まれる。



「さっきのさ、俺がちょっとぼーっとしてた事なんて、気にすんなよ。」



シウォンの手が、するりとヒョクチェの両脚を抱え上げて
膝小僧に唇を落とす。



「一生離さないからさ、許して。」



ふざけて甘えるように、ヒョクチェは唇を舐めて猫の様に身体を捩った。


シウォンはその腰を捉えると、腰骨から下へ、内側へと、指を這わせる。



「———全然気にしてないよ。」


「…?」


「お前の”音”が聞こえたから、確かめたかっただけ。」


「…うそ!」


「嘘?」


「なんでシウォンに聞こえてんだよ…」


シウォンが身を屈ませて、悪戯な瞳でヒョクチェの唇を舐める。


「ここ。」


そして、指へ。


「ここも」


それからシウォンの下半身に力が込められ、ヒョクチェの身体に侵入する。


「…んっ」


「ここも。」


「あっ…、シウォ、」


「全部、ヒョクチェの音楽を俺に伝えて来る。」


「…ん…あ、あ…シウォン、は…」


「聞こえてる」


「全部」


「っはぁっ…!」





愛おしい…。


シウォンは、恋人が顔を赤くして欲情するのを一瞬眺めて
自分より一回りだけ小さな身体を強く抱きしめた。



————空っぽだ。


心が空になるくらい、止められなくて、この溢れ出す思いが止められなくて。


泣いてるみたいに喘ぐ声も、お前の身体中が叫んでるリズムも
聞き逃すわけないだろう。


お前の音が満たしてるんだよ。


ヒョクチェ。


365日、お前が生まれた事に感謝している。

365、730、1095、1460——————




ああ、もっと、それよりも長く。

お前が、自由に踊れる足枷とならない、限界まで。




そして、ヒョクチェの指が、ピクリと動いた。

————さっきとは違う、リズムで。


これは、俺だけの音。




そうだろう。










Translate