2012年9月30日日曜日

Happy Together vol.10





Happy Together vol.10











シウォンは、暫くヒョクチェの寝顔を眺めて居た。
自分の腕の中で眠る愛しい人。

ーー行為の後、シウォンはヒョクチェの体を綺麗に、何もなかったかの様に整えた。

そして今、ヒョクチェは穏やかな寝息を立てながら俺の腕の中に居て。
上下する胸を眺めながら、シウォンは沢山の事を反省する。
シウォンは特大のため息をついた。


自分の強引過ぎる性格に、生まれて初めて暴走した感情。


…冷静沈着、微笑みの貴公子。


ビジネスで付いた自分のあだ名が聞いて呆れる。


二度目の、今度はもっと、重い溜め息。


目が覚めたらヒョクチェは、きっと俺を軽蔑して去って行く。
引き止める術もない。


甘い紅茶か?イチゴ牛乳か。
濃厚なフレンチトーストか、熟れた高級フルーツか。
美しい景色か、欲しいものを全部与えて。
取引をしてみようか。
それとも、もう一度泣いて訴えてみようか。


ヒョクチェは涙に弱いからーーー…。

シウォンは苦笑いを漏らす。
幸せにしたいって思って、今日はきっかけを作りたかったんじゃないのか。

何を、弱みに付け込むような事を考えているんだ。

こんな俺じゃ、格好もつけられない。
嘘もつけない。
近道も出来ない。
幸せにも出来ない。




ああ。
行き止まりだ。

だが俺はこの一度掴む事の出来た、ヒョクチェのほんの…
指先にも満たないような小さな縁を
きっと放してやれない。









==============================









ドンへは、一人仕事を終えて夕暮れの路を歩いた。

バイクに乗る気分では無かったから、バスを乗り継いで、
またヒョクチェの家のそばまで来てしまった。

ドンへはなんだかよく分からない色の水が流れる、用水路にそって歩いている。
夕暮れの、オレンジ色の空気と小さな水音に心が掻き乱された。



なんで、来ちゃったのかな。



ドンへは足元を見ながら、つい考えてしまう。

いつもなら何の理由も無く、仕事が終わったから、ヒョクチェに会う。
それだけで良かったのに。

何かが変わってしまった。

何が変わったのかは分からないけれど、胸が寂しさでいっぱいになった。
きっとこんな風にぐるぐるしているのは俺だけで。

ヒョクチェとシウォンに何かが始まってしまったとしても
2人は俺の気持ちなんか知らないから、俺の事なんて考えもしないだろう。



いつだって、ヒョクチェの一番横に居るのは…俺なのに。

俺はもう、いらなくなるのかな。

そう思うと、ドンへは歩みを止め、その場にしゃがみ込んでしまった。

目を閉じて、自分で自分の心を宥めすかす。

そんな事は無い、ヒョクチェはそういう人間じゃない。
いつだって自分の周りを全て大事に大事に、抱え込んで行く人間だ。


俺みたいにヒョクチェ一人だけしか見えなくなるような事は無くて
皆の手を引いて、幸せになろうとする。
そういう人間だ。

でも。

俺は…


そのヒョクチェの、一番で、居たい…。


宥めていたつもりが、またとてつもなく寂しい気分を煽り始める。
ドンへは涙がじわりと湧いてくるのを感じて、目を開けて涙を牽制した。


砂利と泥の道が瞳を刺す。


今のドンへの心の表面みたいに、ざらざらとして、ほこりっぽくて。


ふと、視界の端に黄色い物が入り込んで来た。

薄い、黄色の小さな花。

ドンへはそっと手を伸ばす。

愛おしくて、少し花びらを撫でると、花が揺れた。

その花を摘もうと、ドンへは根元に手を伸ばす。


その時、背後から突然話しかけられた。


「何してるの?その花、摘むの?」


「え…?」


地面に手をついて、後ろを振り返るとそこにはリョウク程の小さめの背丈の
なんだかふんわりとした雰囲気の少年の様な人が立っていた。

背後の夕日のオレンジと被さって、なんだか空気に溶けそうな。
そんな印象を受ける。


「花、摘んだら可哀想なんじゃない…」


その人は、ふわふわとそのままドンへに近寄ってくると隣にしゃがみ込んだ。

「ほら、こんなに固い地面から必死で花を咲かせたんだよ。」
地面を触りながら、ドンへの方をちらりと上目遣いで見る。

「あ…そうだね。」
ドンへは、現実に戻ったように頭を掻くと、申し訳無さそうに花を見つめた。

「余計なおせっかい、ごめんね。」
その人も、なんだか恥ずかしそうな顔をしてまた花に目を戻した。

「いや…全然」

「僕さっきから後ろ歩いてて、君がなんだか突然しゃがみ込んだから…驚いて。
様子を見てたんだ。手を貸した方が良いかなって。」

「わ、まじ?全然気付かなかった。ごめん。」

「…あのさ、この道の先のご飯屋さんに行く所?」

「え、ああ…うん。なんで…」

「覚えてない?いつも大体となりのテーブル。もう一人男友達といつも
来てるんだけど。」
少しだけその人は儚げに笑う。

「えー…あ〜…」

「…覚えてないよね。君いつも隣の派手な子の事しか見てないもんね…?」
今度は、目を三日月型にしていたずらっぽく笑うと「言わないから」と言った。

ドンへは、返す言葉を失って口を開けたままその人を見返す。

「ふふ。言わないから、ご飯付き合わない?」
にこにこと笑ったまま、その人はドンへに手を差し出す。

「ちょっと…そんな気分じゃ…。なんで…」
ドンへは、真意を伺うようにその人を見詰める。

「実はね、今日ちょっと嫌な事があって…。今、一人でご飯食べたくないんだ。」
ぷっと唇をとがらせると、その人は、だから、ね?という様にドンヘを促すように見る。

「あー…」

「僕はソンミン。君、ドンへでしょ、いつも大声で呼び合ってるから知ってる。」

「…」

「行こ!」

ソンミンは、さっと立ち上がるとドンへの手を掴んで立たせる。
されるがままに手を引かれると、ドンへはふらふらと、結局一緒に歩く。

ソンミンは店まで、ずっと楽しそうに一人で話しながら歩いていた。

ドンへはなんだかよく分からないまま相づちを打ちつつ、いつの間にか店に着くと
リョウクが驚いた顔で2人を迎えた。

「兄さん達!えー?なんで、知り合いだっけ?」

「いや、」
ドンヘが言いかけるのをソンミンが遮る。

「最近ね。だから仲良くなろうと思って…」
あたかも本当の様に、ソンミンがふふ、と笑う。

「そうなのー?面白ーい。」
リョウクはぱちぱちと手を叩きながら笑う。

「ここいい?」
ソンミンが席を指して尋ねると、いいよいいよといいながらリョウクがテーブルを
セットしてくれる。

ドンへはなんとなく流され、普通に座ると居心地悪そうに自分の首をさする。

「普通に、さ、仲良くしよ。」
ソンミンが微笑む。

「うん…」
ドンへはソンミンをじっと眺めて、小さくうなずいた。


2人の間に、気まずいような、むず痒いような沈黙が訪れる。

ドンへは、どうして良いか分からず、下を向く。
ソンミンは真っすぐにドンヘをじっと、見つめていた。




「…正直、言って良い?」
ソンミンが呟く。

ドンへは、また一つ頷く。

「言わないと…伝わらないよ。」
ソンミンが、ほんの少しだけ厳しいまなざしでドンへに言い放つ。

「これもおせっかいだと思う。でも君の気持ち、伝えないで終わらせるの?」

「え…」

「…ずっと気になってた。あの子の事が好きで好きで仕方無いって全身で叫んでる君。」

「好きなんでしょ?なんだか痛そうで、その痛みが伝わって来ちゃって。いつも。」

「嘘…」

「多分ね、僕も今同じような恋をしてるからだと思う…。」

「好きで好きでどうしようもないのに、伝わらないんだ…。言わなきゃ、いつの間にか
誰か他の人と遠くに行っちゃう。」

「…」
ドンへの胸を、その言葉が深く貫く。
呆然として、黙り込むドンへを尻目にソンミンはリョウクを呼んで2、3注文を告げると
リョウクが中に消えたのを見計らいドンへに手を伸ばし、頭を撫でた。

「…心が泣いてる…」

「ヒョクチェ…だっけ、あの派手な子。多分あの子は鈍感な感じだから…
ちゃんと言わないと…。」


ドンへは、混乱したのか両手で目を覆ってテーブルに肘をついた。


「俺…そんなに好きってバレバレ?」

ソンミンは一つため息をついた。

「僕は…」

「…君を見てたから。」

ソンミンの顔に、一瞬だけ哀しそうな影が落ちたかと思うと、またふんわりとした
笑顔に戻って優しくドンヘを見つめる。

「…?」
ドンへは、ソンミンの表情に戸惑うが何が引っかかったのかも分からず黙ったまま
彼を見返した。

「…とにかく、結果はどうだとしても伝えないとドンへはずっと辛い…でしょ。」

「…うん。」

「僕はドンへの笑顔が凄く好き。」

「俺の?」

「でなきゃ見てないよ…。」

「人を幸せにする、笑顔だと思う。」
ふわふわと、滑る様に頬杖をつきながら話すソンミンを
ドンへは不思議そうに眺めた。

「ありがとう。」
ドンへは少し照れくさくて、そのまま口を閉ざす。


そうして、2人とも黙ってしまうと、良いタイミングでリョウクが料理を運んで
厨房から出て来た。

「はい、お待たせ〜!2人のお友達記念に、鶏肉多めで作ったからね!」
中華風の鶏肉の炒め物をテーブルに置きながら、リョウクが楽しそうに言う。

「今日は、2人とも相方は急がしいの?」
リョウクが尋ねると、ドンへとソンミンは同時に口を開いており

「「…知らない」」
と、2人の声が重なった。

そして2人は目を見合わせると、一瞬お互いに驚いたがつい笑いがこぼれる。

「やだやだ、何この空気。いつの間にそこまで気が合う様になったわけ?」
リョウクが半笑いで、訝しげに2人を眺めた。



2人はくすくすと笑い続けると、リョウクは僕を差し置いて!と言うと暫く一緒に笑い
また他の料理を準備しに戻って行った。

料理を食べながら、2人は年や、住んでいる場所の事を話しながら談笑した。

ソンミンは、若くみえるが実はドンへと同じ年で、近くの大学で生物の助教をしていた。

ここの店には、数年前に博士号の取得で忙殺されていた時に体調を崩し、
バランスの良い食事を出してくれる店を探していたら出会ったという事らしい。

ここに連れて来ているのは、キュヒョンという名の大学院生で体調管理の為に連れて来て
いるんだとソンミンは笑った。


一方ドンへは、近くの魚市場で働いていて、今は時折漁を手伝いに海へ出たり、
家業の魚屋の手伝いをしているという事を話した。

ただ本当の夢は他にあるのだが、いまは事情があってそれに専念は出来ないという
面倒な話までいつの間にか喋ってしまっていた。

ソンミンは、楽しそうに沢山の質問をしながらドンへの話を聞いた。
聞き上手なんだなあ、とドンへは感心する。



わざわざ俺の事なんか心配して、話した事も無いのに忠言をしてくれた。

有り難い、と思った。

誰にも言わずに蓄積して来たこの想いを、初めて自分外に解放出来た。

こうでもされないと、俺は自分に鍵を駆け続けていたんだろうな。
ドンへはそう思う。


「ありがとう。」
唐突に、話の途中にドンへはソンミンに言った。

驚いて、ドンヘが可愛いなと思った白い歯を覗かせたままソンミンは動きを止めたが
一瞬で納得したようで、うん、と頷いて恥ずかしそうに下を向いた。

「俺、そのうち、ちゃんと言う。」

「…そのうち?」

「うーん…もしかしたらすぐかも。」

「頑張って。いつでも話くらいなら、聞けるから…」

「…それすごく、ありがたい。」

「ほんと?」

「うん。他に誰にも言った事無いし。」
ドンヘが、上目使いで、へらっと八重歯を見せて笑った。

ソンミンはまた少し恥ずかしそうに笑顔を返すと、頷いてすっと席を立つ。

「これ、連絡先…。僕は仕事に戻らないと。」

「あ〜ありがとう。俺のも…」

「大丈夫!僕は君から連絡があったら、またその時に教えてもらう。」

「そう…?分かった。連絡、する。」

「うん。じゃあ、またね。」

バイバイ、と手を振って、さらさらソンミンの髪が横顔に流れて、表情を隠す。

なんだか少し、ドンへはその表情が気になった。


テーブルに、几帳面に向きの揃えられたお金と、きれいな字のメモが残る。

ソンミン…か。

綺麗な人だったな、とドンへは思った。
あんな風に優しくて、綺麗な男に想われている人はどんな人なんだろう。
幸せな人だな、と思う。

片や俺みたいな奴に想われているヒョクチェは、気の毒だ。

泣き虫で、寂しがりで、気持ちを伝える通気も無くて、別に取り柄も無い。
ヒョクチェは、お前は美男子で良いなあとよく言ってくれるけど
俺はヒョクチェの方が何倍も綺麗だと思うし。


せめて気持ちに正直になれる様に、なりたい。

あの人が、俺に言った様に。

俺の笑顔でヒョクチェを幸せに出来たら。






リョウクに、ごちそうさまを伝え、支払いを済ませると

ドンへは足早に、ヒョクチェの家へと向かった。








To be continued...





2012年9月25日火曜日

Happy Together vol.9








第9話、鍵付き限定記事となります。

遅くなりましてすいません!
大変お待たせ致しました…グスン。
雨にふられてしまい、帰宅が遅くなってしまった次第でございます。滝汗

言い訳がましいですが、私、裏小説、下手かも!\(^o^)/

萌えねー!

助けてミン君!(なんかホモ小説とか書くの上手そうだな、という勝手なイメージ)

どうにかこれから精進致しますので、長い目で見て許してつかぁさい…!

うん、頑張ろう。

では。

はい、一通り言い訳もしたし。



もし読んで頂けるという奇特な方がいらっしゃいましたら以下↓



=====================================

A.コメント欄にパスワード請求の旨と以下①〜③の事項を記載して頂き、
連絡先も記載して頂く。
B.管理人のメールアドレスまで、パスワード請求の旨と以下①〜③の事項を
記載して頂く。

①年齢(18禁でございますよ。)
②HN
③推しCP

※管理人連絡先は、リンク先に記載してあります!
===================================== 


このどちらかの方法でパスワードをご請求頂ける様にお願い致します。


以降の鍵付き記事はパスワードを変える予定はございませんので、一度請求
頂けると、また次もそのパスワードで入って頂けます!

こんなしがないサイトのくせに、鍵付きとか…という感じですが、管理人の
インモラルなモラル感にお付き合い頂けると助かる次第でございます…

何卒宜しくお願い致します。
では、お楽しみくださいませ。








Katie








2012年9月24日月曜日

【お知らせ】SMT - Jakarta






どうも今晩は、ウォンヒョクの味方、Katieです。

とんでもない時間に記事Up…裏小説って、頭脳を極限まで使いますね。

第九話、現在もうすぐ出来そうなくらいまで進んでいます。

明日にはUpしたいなと目論んでおりますのでお楽しみに!

ふふ…第八話から間を空けるのはあんまりかな…と思いまして。

そして、どうも裏小説になってしまいまして、遂に鍵付きをお披露目する時が参りました。

面倒な手順を踏ませてしまうのですが、始めたばかりなので用心を重ねたくお手数を
おかけしてしまう次第です。

なにとぞ青い海より広いお心でお許しくださいませ…。




=====================================

連絡先: kay_missing@yahoo.co.jp


鍵記事がアップされましたら、リンク先のパスワード入力画面の方にアドレスを移動いたします。

が、その前にパスGETしておいてやんぜ!って方は上記のアドレスに
①年齢(18禁でございますよ。)
②HN
③推しCP
を明記した上、まあ読んでやんよ!と送信しちゃって下さい。

=====================================




そしてジャカルタSMT、なんたる我等得でしたね。

こちらを読んで頂けている方はウォンヒョクファンが多いかと存じますが

またも出ましたよ、ウォンヒョクEpi!

Oopsにてシウォン氏の「I love you, baby…」からのほっぺキス

からのデレた2人…。見て下さい。





ご飯100杯はいけてしまいますね。

困りましたね!

ウォンヒョク太りです。

ヒョク見て舌なめずりしてるシウォンさんもまあごはん1000杯は行ったでしょうね。

太れ!




あ~ほんと、しかし、これが欲しかったんですよね。

最近別行動が多すぎて私はミイラ化していたので…。ホモという名の栄養が足りなくて。

ああ、ほんと枯れてた日常に花が咲きました。

この身長差、体格差を存分に活かした短編が書きたいったら…!

大体なんで抵抗しないんですかね!

もう、はにかんでますからね!嫁か!  


嫁…ってことは初夜は済か!!

怖ろしい子達…!(白目





はい、そしてオマケですが、なんだかいけない写真に見えて仕方が無(ry



…(^ ^)

ごちそうさまでしゅ!

こんな美味し/可愛いヒョクちゃんを存分に書き尽くして行きたいと思いますので

皆さんお楽しみにしていて下さいね。

お仕事の都合で、本当に亀UP中ですが、辛抱強く読んで頂いている皆様

本当に有り難うございます。

では、皆さん良い一週間をお迎え下さいませ。




Good night beautiful world! x






(このブログは個人で楽しむのものでありサイトで使用させていただいている画像等の著作権・肖像権はその所有者に帰属しています)





2012年9月23日日曜日

Happy Together vol.8





Happy Together vol.8














ホテルまでの道を、ルーフをオープンにして走るシルバーのロードスタージャガー。



しなやかな車体に、滑る様な走行。
周りの景色が見慣れない様相で目まぐるしく、色鮮やかに移り過ぎて行く。



きっとこの男も、このジャガーみたいに…
俺が見てるのとは全く違う世界をいつも見ているんだろうな。


俺が見てるのは、変わらない世界。
ゆっくりと時間だけが過ぎて、変わろうとする人達は、何時の間にかここから居なくなる。

俺だって変わりたいと思うし、何かを変えたくて足掻きっぱなし。


でも…大切な変わらない世界を置き去りにしてまで、変化したく無いと思う。

だから
自分がみんなに変化を起こす事が出来るように、それだけを目標に生きて来た。




ヒョクチェは、丁度良い具合に体の沈み込む快適なシートに深々と体を預ける。
そして猫のようなあくびを一つすると、ウィンドウの縁に肘をついて顔を乗せた。




助手席で、きっと仕事の電話をしている(話の内容は聞いてもちっとも理解出来なかった)
この男は、たぶんそんな俺が抱えているみたいな小さい悩みとは想像もつかないほどに
無縁に見える。


きっとその力強い躰、手足で、常に誰よりも高い所まで駆け上がり飛翔して行く運命。
その間、なんにも顧みずにだ。


そんな感じ。


シウォンの顔を眺めている間に、何かの獣に似ている、ふとそう思った。

ペガサス?うーん…。

いや、肉食獣だな…

ああ…ライオン。

濃い燃えるみたいな黄金色のオーラで、力強い四肢に眼差し。

何物も超越したからこそ溢れ出る誇り高い気品と慈愛。

ライオンじゃん。

強過ぎ。
俺なんて一瞬で食い尽くされる。
むしろこんな骨と皮の餌なんて、食べられもせずに爪で遊ばれてその辺りに捨てられる。
そんな所だ。


…それなのにこの猛獣は俺に、愛してると言う。


干物みたく痩せっぽちで、頭も別に良くない、奪われる様な財産もなんにも持ってない
自分でも溜め息が出てしまう。
そんな俺に、愛してると。

一目で?

馬鹿らしい話。

それにこの男は全く気にしていないみたいだけど、俺、男だし。

男と女みたいに恋愛なんか出来るわけないのに、心底そんな事はどうでも良さそうだ。

ヒリヒリする。

興味がある。動揺する。
ドキドキする。怖い。
気持ち悪い。高揚する。

感情がぐちゃぐちゃ。
でもこの男に触れられたとこがまだ熱くて。
日付けが変わっても、まだヒリヒリする。

俺を好きだと言ってるこの百獣の王が、今まで見た事の無い世界を見せてくれる気がしてる。

ちょっと覗くくらい許されるだろ。

悩みの先回りをしてぐずぐずするのは嫌いだから、何か起きたら、それはそのとき考えよう。

ああ、ねむ…







==============================




ヒョクチェは、難しい顔をして何か考え事をしていたかと思うと
自分の腕に顔を乗せたまま眠っていた。


ゆっくり眠らせてあげようと、ルーフは閉じたが、細く開いたウィンドウから風が吹き込む。
サラサラの金の髪が風に流れて…
シウォンは今すぐその髪に指を絡ませて引き寄せたい衝動にかられた。


好きだな…。


それだけで胸が一杯になった。


人を好きになる事とはこんなにも幸せになる事だったんだなあとしみじみと感じ
携帯電話を閉じて、ため息をついた。


「シウォン様…。貴方ともあろう方が。そのにやけた顔をどうにかなさって下さい。」

「ん?なんだ、見ていたのか。人が悪いな。」


嫌味を言われようと、さも楽しそうに笑いが漏れている自分に驚く。

いつもなら、気恥ずかしくて黙ってしまうような嫌味だというのに。

人にどう思われようと、俺はどうでもよくなってしまったらしい。

ヒョクチェさえ、ありのままに俺を見てくれれば良いと思う。



ヒョクチェが寝ている間にホテルへ着いたが、起こすのが勿体無い位に可愛く眠って居た。


声を2、3度かけると眠たそうに半目のまま動き出したので、心配になりシウォンは
ヒョクチェの手を引いて歩く。


運転手にはまた嗜められてしまったが、ヒョクチェがホテルのエントランスのガラスに
ぶつかってしまうより良い。


歩きながら話かけても「あー」とか「うん」しか言わないヒョクチェの様子を観察して
いたが、本当に寝起きが悪いんだと確信する。


フロントで朝食を部屋に運んでくれるように事づけると、シウォンヒョクチェを連れて
エレベーターへ乗り込む。


ヒョクチェの冷たくて華奢な手の指先が自分の手の中にあって。


試しに少し手を離すようにしてみると、頼りなげにシウォンの手を離すまいと掴まり直す。

表情を伺っても、開いているか開いて居ないかすら分からない程の薄目でぼーっとしている。


割といつも半開きで、白い歯がちらりと覗いている綺麗な形の唇。


…つい目が行ってしまう。


背徳感。


最上階に着くとそのフロアには一室のみ、キングスイートの部屋だけが存在しており
シウォンはその部屋に滞在して居た。


シウォンは、流石にぼんやりから目覚め、周りの様子を見回すと徐々に怪訝な顔になって
いくヒョクチェの手を引きながら、楽しそうに彼を眺める。


まずヒョクチェは、エレベーターから降りてすぐに毛足の長い絨毯に眉をしかめた。


「床から毛が生えてる…」

「そういう絨毯だよ」

「し、知ってるよ!なんだよ」

「それはすまないな。ほら早く、こっちだよ。」


笑いを堪える事ができなくて、そっぽを向く事で顔は隠せたが、ヒョクチェはしっかり
と気づいてシウォンの手を思いっきり振り払った。



シウォンはそれにすら微笑みを抑えられない。



ーーヒョクチェは、嫌味の無い高級さと上品さを漂わせた廊下を勿体無い位にズカズカと
進んで行き、そしてようやく、部屋へのドアが一つしか無い事に気づく。


「え?これ…」


ドアを指差してヒョクチェはシウォンを嫌な目で見る。

「そうだ。自動で認証してくれるから、鍵は開いているよ。」

どうぞ、と手振りでヒョクチェをドアを開ける様促す。

「そうじゃなくて…この階ってあんたの居る部屋だけ?」

「ラッキーな事にね。」


シウォンはおどけて返すが、ヒョクチェは怪訝さの増した目で続ける。


「何階だっけこの階?」

「35階。」

「うわ…こんな金持ちマジでこの世に存在したのか…。」

「え、何?」

「あんた、漫画男だな。」

「…どういう意味?」

「漫画の中でしか出て来そうも無い、理想的過ぎて嘘みたいな存在って事…」
言いながら、シウォンの無駄に美しい戸惑った顔を見たら溜め息が出た。


顔も完璧なんだった。



その完璧な顔が切なげに笑う。


「面白いな、君は。いつも俺が思いも付かない発想をする…。」


シウォンにとっては目の前のヒョクチェこそが幻みたいで、俺の隣に居てくれて居るのが
嘘みたいだというのに。


「はあ、そうかな?誰でも思うと思うんだけど…」


「初めて言われたよ。理想的?俺はただ、いつもあるべきチェ・シウォンの型に押し…」

自分で途中まで言っておきながら顔の前で大きく手を振ると、言葉をかき消す。


「どうでも良い話だ。中へ入ろう、朝食が来る。」

「なんだよ、いま…」

「ほら、見てヒョクチェ。」

シウォンが重厚な扉をいつの間にか開けていて、中を指差す。

つられてヒョクチェがちらりとその先を見やると、そこには信じられない光景が広がっていた。


「うっわ…すげ…!」


言葉を失うヒョクチェの肩をそっと押して部屋の中へ促す。


玄関からゆうに10歩はあった扉の連なる細長い廊下を抜けて、広間へ行くとそこは全面が
ガラス張りで、ソウルの街並みの大パノラマが広がっていたのだった。


ヒョクチェは感嘆の声を漏らしながらガラスに張り付いて、じっと外を見て動かなく
なってしまった。


シウォンはジャケットを脱いでクローゼットの中のハンガーにかけると、首元を少し緩め
て広間に併設されているバーカウンターに立つ。


「ヒョクチェ、何を飲む?」


「イチゴ牛乳…」


「イチゴ牛乳…は無いかもな…」
バタンバタンと大きな冷蔵庫の中を確認しながらヒョクチェを見ると
まだガラスに張り付いて口を開けたままぼんやりとしていた。


ふっとシウォンは微笑みを漏らす。
他の事が考えられなくて、ただ自分の好きな物が口から漏れただけなのだろうな。
いちご牛乳か、覚えておこう。
可愛いじゃないか。


代わりにシウォンは冷蔵庫からイチゴのリキュールを取り出すと、カウンターに置いて
おき、予め沸かしてあるポットの湯をカップに注ぎ、カップを温める。

そしてわざわざ自分で持ち込んだパリの紅茶メーカーのブルーロイヤルを選ぶと
茶葉を計量して紅茶を淹れた。

シウォンが準備を終えて、窓際に設置してある猫足の華奢なティーテーブルへ一式を
運ぶ。
そして丁度その時、朝食が運ばれて来たベルが鳴った。

ヒョクチェがはっとして後ろを振り返ると、シウォンがドアを開けてボーイが朝食を運
び入れている所だった。


ボーイにチップを渡してシウォンがお礼を言っている。

金持ちなのに腰の低いやつだな、とヒョクチェは思う。

そして自分のすぐ横のテーブルを見ると、美しく整えられたティーセットが並べられて
いた。


「…これシウォンがやったの?」

「そうだよ、全然気付かなかったな。そんなに気に入った?この眺め。」

「ごめん、手伝えば良かったよな。」

「何を言ってる、君は今日俺のゲストだ。自由に楽しんで欲しいんだよ。」

「ありがと。」


シウォンの、ヒョクチェの知ってる金持ちらしからぬ気遣いに、少し気恥ずかしくなる。

俺はこんななのに、気遣いすら出来ない…。

「さあ、座って?」

すすめられるままに、絶景の見渡せるその席に座ると美味しそうな食べ物が沢山載った
カートをシウォンが押して来て、テーブルに並べる。

「すげー…」

「君の所望するイチゴ牛乳は無かったからね、紅茶に趣向を凝らしてみた。」

「え?俺イチゴ牛乳なんていつ言ったっけ?」

「お見通しなんだ、君の事は。」

「え!?」

「まあいいじゃないか。ほら見て。」

シウォンが笑いながら、美しい青い花びらが沢山浮いた透明のティーポットを軽く
揺らす。

「わ…綺麗だな、それ。」

「だろう?旨いぞ。で、これに君の好きなイチゴのリキュールを、ほんの少しだけ。」

そう言いながらシウォンはイチゴの濃厚な香りがする真っ赤な液体を少しだけ
糸の様に紅茶に垂らした。

花の香りと、イチゴの香りが混ざりあい、むせ返る様に甘い香りが部屋に充満した。

「リキュールって…お酒?」

「そうそう。」

「俺、酒のめないんだけど大丈夫かな?」

「ああ、アルコールはほとんど飛ぶさ。大丈夫だと思うよ」

「なら良かった。」

「飲んでみる。めちゃくちゃ旨そう!」

「どうぞ。」

微笑みながらシウォンは紅茶を美しくカップへと注ぐ。

充分に温まったカップに、白い湯気が立ちながらほんのりとピンク色の琥珀が流れ込んだ。

ヒョクチェは嬉しそうな顔で、両手でカップを持つとふーふーしながら、まずペロリと
舌で紅茶の味見をした。

「あま…!美味しい!」

「甘めにしておいたんだ。お気に召したかな?」

「最高!」

ふーふーしながら、少しずつ紅茶を飲むヒョクチェを、シウォンは本当に幸せが胸に
広がって行くのを感じながら、見つめた。


「なあ、これ早く食べたい。」

「勿論、召し上がれ。」


ヒョクチェは、バニラの香りのするフレンチトーストの匂いをくんくんと嗅ぐと
にっこりと笑ってフォークで刺して、口に運んだ。

「うまい!!こんなの…たべたこと……ないんだけど!」

もぐもぐと租借しながら、合間合間に感想をしきりに伝えてくる。

こんなに喜ぶのなら、何百回だって食べさせてあげたい。

「良かったら俺のも食べていいから。俺は君のとこに行く途中に車でちょっとだけ
サンドイッチ食べた。」

「やった!!」

美味しそうに食べているヒョクチェを見ていると胸が一杯でどうにかなりそうだった。
シウォンは気を逸らす為に少し外の風景を見る。

「この風景がこんなに綺麗に見えたのは始めてかもな。」

「…うまい…え?…なんで?すげーじゃん」

「慣れちゃってたのかな…一緒に見る人が居ると、新しい景色を見ているみたいだよ。」

「じゃあ俺がいつでも一緒に見てやるよ。」

ヒョクチェはごくんと飲み込むと、プレートのマスカットをちぎりながら笑った。

「毎回新しい風景になったらお得じゃね?」

「くくっ…本当に君は面白いな。」

「そう?その代わりこの紅茶また飲みたい。飯も!」

「お安い代金だ。」

少し行儀は悪いが、シウォンはテーブルに片肘をつき、手のひらに顔を載せる。

そして優しい眼差しでヒョクチェを眺めた。

また、来てくれるって言うのか、彼は。

それは約束だと思っていいのか?これっきりかもしれないと何度も逡巡して
どうやったらもっと関係を長いものにして行けるのか考え続けていた俺は道化みたいだな。

天使はなんだって覆して行く。

光のある方に、突然俺の手を引いて行く。

幸せじゃないか。

その先が天国だとして、誰もいない世界だとしても、俺はこの天使に縋りたい。

この天使が消えてしまおうとも、俺の心に残る最後の記憶が彼であるのなら

それですら幸せに、思えてしまうのだろうな。

灰色で、無機質だった、世界。

ただ単調に、何の障害もなく階段を上って行く、そんな世界。

その階段の壁には華やかな絵が描いてあったとしても、俺には足元しか見えていなかった。


君の柔らかさ、温かさ、香り、声、苦しい。
苦しい程に、全部欲しい。


「ヒョクチェ、好きだ。」

「ぶっ!!!!ゴホ」

「食べながらで良い、聞いてくれ。なんで君を好きだと思ったか、どれだけ本気で
好きだと感じているのか、知って欲しいんだ。」

「ええ…好きって言うのは聞いたけど…気の迷いだろ絶対…おかしいよ」

「そう思うと思うよ、普通。だから、ゆっくり知ってくれ。」

「知って、どうしたらいいの?俺は。」

「別に応えてくれって言ってるわけじゃない。君の答えは君のものだ。けれど
俺は君の心を動かしたいと思ってる。それを許して欲しい。」

「…まあ…えーと…」

「頼む。」

シウォンが、ヒョクチェを泣き出しそうな真剣な目で、見ていた。

「…わ、分かった。」



そうして

シウォンは、訥々と語り出す。



これまで、人に恋をした事が無かった事。
女性とそういう関係を持った事は何度かあるけれど、好きだと言われ付き合ったげ挙げ句
理想を求められ、押し付けられ、その度にいたたまれなくなり自ら関係を絶っていた事。


長い間、心の動かなかった自分。
全てがレールの上を動かされていたような感覚。
勝手に準備されて行く未来。
意思を失いそうになっていた現在。


そして、突然に出会った光。
天使だと思ってしまった事から、初めて自分で自分の心が動いた事を感じた瞬間の事。


どうしようもなくヒョクチェが欲しくなってしまった素直な気持ち。

純粋さ、素直さを隠しきれない、ヒョクチェへの感動。

自分と正反対な魅力に心の底から魅入られてしまった事…。


申し訳ないと思いながらも、感情を止められないと。


そう、溢れる様に一気に話した。





「…聞いてくれて感謝する。…ああ、まるで懺悔だ。」

シウォンは、感情が交錯してしまい落ち着き無く自分の整えていた髪をくしゃくしゃにした。




そして、話しが終わってしまうと、部屋に静寂が訪れた。

時計を見ると、いつの間にか針が正午を指している。

ほとんど食べ終わった皿や、飲み干された紅茶のポットが時間の経過を物語っていた。



ヒョクチェが、心無しか顔を赤くして両手で目を押さえる。

そして、口を開く。


「…ごめん、正直に言って良い?」


「怖いな。でも聞かせてくれ。」


「俺分かんない。」


「そうか…そうだよな。」


「えーと、そうじゃなくて。俺も好きとか、恋とかそういうのあんま分かんなくて…」


「今まで付き合った女の子とも、その、セックスとかはしたけど…愛っていう…
なんかそういう感情が分かんなくて…いつも振られてて…」


ヒョクチェは、赤い顔を更に赤くしてどもりながら言葉を続ける。


シウォンは、何が彼の口から出てくるのか分からない恐怖で、両手を握りしめて待った。


「時間をかけたからって言って好きになるのかとかも分かんないし、好きになるには
何かの劇的な理由が無きゃ駄目とかそういうポリシーがあるわけでもなくて…。」
ヒョクチェはこれでもかという程両手に顔を押し付けて絞り出す様に話している。


「だからあんまり恋愛に対してよく分かんないっていうのが俺の気持ちなんだけど
だから、あんたの恋愛がおかしいとも別に思わないって事…それに…」
そして一つ、大きくため息をついた。


「それに、あんたが正直に話してくれたから、話すけど…
俺だって男だし、欲求みたいなのはあるから、なんだろう、あんたの気持ちに対する答
えになってっか分かんないんだけど、キス、あれ、あの、最高に…気持ちよかった。」
そういうと、ヒョクチェは机に突っ伏してしまう。


「あー、ちょっと、聞かなかった事にして。まじで。男同士で気持ちいいとか意味分か
んないし、あんたも意外に俺が即物的でひくだろ。もーひいてひいて。ひけば。」


「ヒョクチェ…」


「ごめん顔見れない!あー!それしか今分かんないんだよ。
あんなにキスで気持ちいいって思った事無いし、ああ、正直言うと、そう。女でもあんな
気持ちになった事無い。だからあん時自分にひいて、失礼だし最低な事言って傷つけた
よな。本当にすいませんでした!」

顔を抑えたまま机に突っ伏したヒョクチェは、捲し立てる様にそう言うと
小さくあーーっと叫びながら足をジタバタした。


「ヒョクチェ…すまない、そのまま待ってて、ちょっと…限界…」


「え?」
シウォンの声に変調を感じて、ヒョクチェはちらりと目だけ覗かせてシウォンを見る。


目に入ったのは椅子から立ち上がったシウォンが、洗面所の方に駆け出して行った姿だ
った。


「え!?ちょっと!人が真剣に…」
ヒョクチェは心外とばかりに立ち上がりシウォンを追って走る。


「ヒョクチェ!ちょっと、本当に少しだけ放って…おいてくれ…」

「なんでだよ!」

洗面所の前でシウォンを追いつめたヒョクチェは、扉に向かいあってこちらに背を向ける
シウォンの肩に容赦なく手をかけた。

頑にシウォンは扉に張り付き、こちらを向いてはくれない。


「ひいたなら、ひいたって言えよ!俺だってめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど!逃げる
とかどういう…」


「近い…ヒョクチェ、近い。体温がまずい。」


「は?いいからこっち…」
ヒョクチェは顔すら向けないシウォンに頭に来て、腕をシウォンの体に回して自分に向
けようとした。


「駄目だ。ヒョクチェ、これは君が悪い。」
そういうと、シウォンがくるりと振り向いて、半眼でヒョクチェを見下ろす様に一瞥して
ヒョクチェの目の前に屈みこんだ。
そして、いとも簡単にヒョクチェを、足から掬い上げる様に肩に担いだ。


「う わっ!!」
突然の事に驚いてされるるが侭に担がれてヒョクチェは運ばれる。

玄関へ続く廊下へと進み、一番手前の扉を、シウォンが開く。

担がれて前が見えないのでシウォンの背中に手をついて身をよじる様にして部屋の中を
見ると、そこは寝室だった。


「え…?ちょ…シウォン」


「お昼寝の時間だろう、ヒョクチェ。子守唄を歌ってあげるよ。」


「待って、嫌な予感しかしない!あっ うわ!」


シウォンはヒョクチェをふわりとベッドに下ろすと、緩めていただけの細いタイを抜き
ながら、ヒョクチェに覆い被さって来た。


シウォンの甘い、セクシーな香水の香りがヒョクチェの鼻孔をくすぐる。



ああ、あの時の香り。



甘くて、熱い。



シウォンがヒョクチェの頭の両側に手をついて、熱い瞳でヒョクチェを見下ろす。



13時を告げる、時計の鐘が、閉じられた扉の向こうから小さく聞こえていた。








To be continued...




2012年9月17日月曜日

【お知らせ】限定記事。






どうもコンニチハ!

毎回小説を亀ペースでアップして申し訳ありません、Katieです。

肺炎で死亡していて、いつもより若干また更新が遅れた感がありますが…

やっとアップしました、Happy Together.7。

一体どうなるのでしょうね!これね!あはは!

ちゃんと構想は有るんですけどね!SJ全員出して行く予定です。

もっぱら最近はウォンヒョク、ヘウン、キュヒョクなんですが、キュミン、ヘミン

ウォンキュ、カンミン、カントゥクも大好物なので全力で妄想に火を吹かせて行こう

と思います。

そして…一体誰が読んでいて通り過ぎていてとか一切分からない現状ではありますが

小説を進めて行くうちに、近々18禁な内容等が出て来てしまうYO・KA・N★

なんです…。

すいません。そういうの求めてない方すいません(土下座)

そしてそれに際しましては、パスワードを設けさせて頂く可能性があります。

なので、その方法としましては


=====================================
A.コメント欄にパスワード請求の旨と以下①〜③の事項を記載して頂き、
連絡先も記載して頂く。
B.管理人のメールアドレスまで、パスワード請求の旨と以下①〜③の事項を
記載して頂く。

①年齢(18禁でございますよ。)
②HN
③推しCP

※管理人連絡先は、リンク先に記載してあります!
===================================== 


このどちらかの方法でパスワードをご請求頂ける様にお願い致します。


以降の鍵付き記事はパスワードを変える予定はございませんので、一度請求
頂けると、また次もそのパスワードで入って頂けます!






♥余談♥

全く需要の無いウォンヒョク小説ですが、現在一日100アクセスくらい迄に増えまして

開設から、5000HITを超えました!

本当に有り難うございます。

まあ、Blogger側のバグなんじゃないかという疑念も尽きませんが、読んでくれている

方がいらっしゃるのであれば、また読みに来て頂けると光栄な次第です。

いつも有り難うございます。

精進致します。




重ね重ね有り難うございます、変態がお送り致しました!

テヘペロ!!











Happy Together vol.7





Happy Together vol.7



















ソウル郊外、星街。
所謂貧民街に当たり、もともと人通りの少ないこの地区は、まだ早朝六時の朝霧に包ま
れて静かに眠って居た。




静けさの中、例えば息をのんで、耳をすませば聞こえる様な音だったが、遠くから小さな
地響きが聞こえる。



寝ていた犬がピクリと耳を動かして音の方向を眺め、桶で水を運んで居た早起きの老人
が、水の振動で後ろを振り返った。












==============================













中通り。


粗末に増築を繰り返した様な家が建ち並び、その中に屋根の一部の剥がれて大きな穴の
開いている二階建てのあばら家が見える。



その家の一階、奥の部屋。


ベッドすらないが一枚の布団を床に敷き、そこに若い青年が2人、子犬の兄弟の様に寄り
添って眠っていた。


1人は金髪に真っ白い肌、紅のさした様な安らかな寝顔で眠っている。
寝相は悪いようで、かけていた筈の布団を丸めて抱きかかえていた。


もう1人は、その青年の背中に顔をうずめ、寄り添う様に横たわっている。
長めの前髪にゆるいウェーブのかかった茶髪の青年。


静かな朝は2人の為に沈黙して居る様にも感じられたし、2人の若い旺盛な睡眠欲こそが、
周囲に強固な眠りの帳を下ろして居るかのようで。






しかし、眠りのカーテンを切り裂くように、突然にも外から激しく犬の吠える声が近付
いて来た。






ピクリと瞼が震え、ドンへが大きく欠伸をする。
まだとろんと開かない目で、そこに居るヒョクチェの存在を確認すると、横になった
まま手を延ばし、ヒョクチェの柔らかな金の髪に優しく指を通した。


ぼんやりと明るい外からの光で金の髪は白く光る。


ドンへは、静かに、でも大きな呼吸を繰り返すヒョクチェの横腹に手を回し、もう一度
眠りに落ちようとした。


その時。




「ここは通さんぞ!!」




外から老人が叫ぶ声がした。
クラクションが激しく鳴らされる。


ドンヘは驚いて跳ね起きると、微動だにする気配はないものの、ヒョクチェを起こさな
い様にそっと部屋から出て、表へと走った。


そこには大型のトラックが一台と、その後ろにはクレーンやフォークリフトが並んで
居る。
その後ろにも数台の車が続いて居る様だった。


ドンへは、よくこんな道をこんなに沢山通って来れたなあ…と、ぽかんと口を開けて
その一行を眺める。



そして、声の主を確認すると、それは先頭のトラックの前に立ちはだかり、運転手に向
かって叫んでいる老人だった。



「通さんと言ったら通さん!!今度はどこをぶっ壊す気か!出ていけ!」


その老人は、ヒョクチェの家の近所の、いつもは穏やかに犬と日がな一日戯れている様
な好々爺だった。
昔から頻繁にヒョクチェの家に泊まりに来ているドンへにも、顔馴染みの老人である。

状況が分からずドンへが老人に駆け寄ると、トラックから怒号が飛んで来た。

「どけよ爺さん!!俺達ゃ仕事しに来てるだけなんだからな、通さないと警察呼ぶぞ!」
厳ついヒゲ面の男が窓から顔を出して拳を振り回してそう叫んだ。

「黙らんか!早く去ね!!」

奮い立つ老人の背後に立ち肩に手を添えると、どうなってるの?とドンへは問った。

「おお、ドンヘや。こやつらは前からな、ワシらの町壊して回っとる悪魔みたいな奴
らだ!また壊すもん探しに来おって、絶対に通すわけにはいかん!」


ドンへはごくりと唾を飲む。
まさか。
ヒョクチェの家まで巻き込まれる?
ここいらの住人を立ち退かせようと役所が頑張っているという話も聞いていた。


依然クラクションを鳴らし続ける運転手に向かって、ドンへは問いかけてみる。


「あの!どこに向かうんですか?」


運転手はまた顔を出し、顎でドンへの背後を示す。


「そこだよ!!ん?あんたが出て来た家だな?」


全身から血が抜けたみたいに冷く緊張した。
だめだ。
絶対だめ。
ヒョクチェが、困る。


「駄目だ、お兄さん達、悪いけど通せないよ。」

「そうだ!通るならワシら2人とも轢き殺して通れ!!この悪鬼羅刹が!!」

「だから俺達は…」


運転手が何かを言い始めた時に、
後部の明らかに高級なシルバーの車から背の高い若い男が出て来た。


その男が足早に先頭のトラック迄駆け寄って来ると、トラックの男達は一様に軽くお
辞儀をしてその若い男をむかえた。


「坊ちゃん、すいません、こいつらがどかねえって頑張るもんだから中々進めなくて…」

「ちゃんと説明したのか?ちゃんと話せば何も問題も無いんだから。私が話すよ。」

「はあ…」


その背の高い若い男がこちらへ顔を向ける。
薄いブルーの上品なスーツを着た、完璧なスタイル。

その男の目線がドンへの所でピタリと止まり一瞬口元に驚きを浮かべたかと思うと、
男の顔を隠していたサングラスに手をかけた。


少し下を向きスルリとサングラスを外し、胸のポケットに慣れた動作で収める。
そして顔を上げてドンへを見て笑った。

まるで大きな向日葵が咲いたような笑顔に、ドンへは、つい目を細める。


ああ…あの男の人は。


ドンへは視界が少し曇るのを感じた。
感謝しているのに、俺を不安にさせる。

あの笑顔…。

名前はシウォンさんだと、確かヒョクチェが言っていた。

シウォンが、片手を上げて、手を振ると、口角を上げたままこちらへ向かって来る。

ドンへは一瞬自分もちゃんと笑い返せているか不安になり、自分の頬に触れて表情を
確認した。


笑えてる。大丈夫。


お礼を言わなきゃ。
大事なヒョクチェを助けてくれた、神より感謝しているこの人に、お礼を言わなきゃ。


頬が、少し震えた。


シウォンがすぐそばまで来て、爺ちゃんが怒っている。


シウォンが爺ちゃんに頭を下げながら、説明させて下さい、と穏やかに声をかけた。


そしてもう一度こちらを向き直し、両手を広げてまた会えて嬉しいよとシウォンが
言った。



…が、そこから先がスローモーションで、よく、わからなかった。



”シウォンさん、ヒョクチェの事を助けてくれてありがとう”



そう言いたかったのに、ドンへの口はシウォンの名前さえ言い終われない内に、何も
言えなくなっていた。




気が付いたら一筋、二筋と涙が溢れていた。




爺ちゃんが驚いて、震え始めて崩れ落ちそうな俺の背中を支えてくれる。
続きを言いたいのに言えず、喉がくるしい。



ーーそしてシウォンは目を見開いて、口もあいたまま驚愕の表情を浮かべていたが、
それでもすぐに真っ直ぐドンへに近付き、その腕にそっと抱きすくめた。



ドンへは驚いたが、その慈しみに溢れた腕に、胸が緩んだ。
そしてドンへの心の蓋が、ほんの一瞬ふわりと隙間をつくって。



口に出てしまった。



「とらないで」


シウォンがちゃんと聞き取ろうとドンへの瞳を覗き込んでくる。


"ヒョクチェをとらないで"


「と  らないで…」


静かな嗚咽の合間に、漏れた感情は言葉足らずに繰り返された。

あなたは危険だ。

ヒョクチェのあんな顔はみた事が無い。

ヒョクチェは昨日からずっと様子がおかしい。

そんな風ににしたのは、あなたなんでしょ?

危険なんだ。



「すまない、驚かせてしまったかな…。」


ドンへの背中を緩く叩きながら、シウォンが囁く。


「君達の住む所を奪ったりしにきた訳じゃないんだ。」


違う、そうじゃない。


あなたがそんな事しないのは分かってるよ。


そういう顔、してない。


「あの…ヒョクチェ、が昨日屋根を無理して修理しようとしていたようだから、こちら
で修理の手配を、したんだ。」


苦しい。


多分最高に良い人だ、この人は。


でもそんなに愛おしそうにヒョクチェの名前を呼ぶなよ。


俺のヒョクチェなんだから。


でももうそれ以上は、言葉にはならなかった。
ただ、腕の優しさに、熱い頭を一瞬だけ預けた。


「大丈夫。」


シウォンがそう囁いて頭を撫でた。


「俺は、ヒョクチェの力になりたいだけだから。」


安心させるような優しさを含んだ声は、それとは真逆に凶器の様にドンへの心に刃を
滑り込ませてくる。


ドンへは無言でシウォンの腕を解き、彼の腕を「ありがとう」と伝える様に一瞬掴む
と体を離した。


そしてシウォンの顔を正面から見つめて言った。
また、涙が一筋静かに頬を伝う。


「ヒョクチェを助けてくれてありがとう。心から感謝してます。」


シウォンははにかむ様に一瞬目を伏せて笑う。


「俺、これから仕事…このまま行くんで。ヒョクチェは家の中でまだ寝てるから…鍵は
開いてます。」


シウォンは少し慌てた様に、君が起こした方がいいんじゃない?と尋ねる。


ドンへは一瞬遠くを見る様にして手の甲で涙を拭うと、またシウォンに目を戻して微笑
んだ。


「俺が起こすとそのまま布団に引きずりこまれちゃうから!」


シウォンの表情がふと、固まる。


この優しそうな人を…牽制して何になるのか。


俺の勘違いかもしれないじゃないか。


でも全身の俺の神経が、危ないんだと叫んでるから。


こんな小さな牽制なんの役にも立たないかもしれないけど、でも足掻かずには居られ
ない。


こんな恋は…始まったらどんどん加速してしまう。
少しでも、少しでも加速していく速度を遅くできたら…。


「じゃあ、頑張って起こしてやって下さい。あなただときっと驚いてすぐ起きると思い
ますよ。あいつ”他人”に警戒心強くって。」


「…分かった。ありがとう…驚かさない事を、祈るよ。」


ちょっとだけ困った様な悲しい表情で、また彼は微笑んだ。


後ろめたい気持ちが、本来天真爛漫なドンへの心を染めて行く。


ドンへは後ろで見守っていた老人に状況を説明すると、シウォンに軽く会釈をした。


そして彼らに背を向けて歩いていき、近くに停めてあったバイクで走り去って行った。


ドンへはそのまま戻ったりして、ヒョクチェに向ける顔が無かった。









見送るシウォンに、老人が近寄り今回は信用するから綺麗に仕上げてやれよ、と言い
残すと彼もまた去って行く。


取り残されたシウォンにトラックの運転手から声がかかる。


「進んじゃって良いっすか?」


「あ、ああ…あっちの高架辺りに、出入りの邪魔にならない様に停めて欲しい。
それから工事の準備が終わったら携帯で呼んでくれ。」


「了解っす!」


彼らが後ろへと伝令している間に、シウォンはヒョクチェの家の玄関へと向かって行く。





…先程のあれは、牽制されたのか。


彼はヒョクチェの事が好きなのだろうか?
ヒョクチェも彼の事を?


だが…あの時のヒョクチェの、あの同性への拒絶感は…


しかし確かに、二人の距離感には普通の友達同士とは思えない様な親密さがあった。


そうこう考えながらシウォンはドアノブに手をかけ、扉を開け中へ入る。
確かに鍵はかかっておらず、軋む音をたてながら簡単に開いた。


一応、お邪魔しますと声をかけてみた。

当然返って来る声は無い。


古く粗末だけれど清潔な、板張りの廊下をミシッと小さく音を立てながら進んだ。


…あの出来事のあったキッチンに差し掛かり、一瞬、強烈に頭に血が上り眩暈がした。


すぐに目を逸らすと、反対側に少し隙間の開いた引き戸があった。
そこで耳を澄ますと、穏やかな寝息が聞こえて来る。


まるで…心臓を鷲掴みにされたような感覚が身体中を駆け抜ける。

鼓動が収まらない。

頭を振って、冷静を取り繕う。


そしてヒョクチェ、と名前を呼びながら部屋の扉をスライドさせ、中を覗き込んだ。


薄暗い部屋の中、床に敷いた布団の上に白い身体にグレーのTシャツと短いハーフパンツ
姿のヒョクチェはシーツの様な掛け布団に絡まってすやすやと眠っていた。
乱れ切った寝具が、どことなく淫媚に映る。


「ヒョクチェ…」


名前を呼ぶと、熱くなった頭が少しずつ冷めて行き、今度は優しい、愛おしい気持ちが
シウォンの体を満たして行く。


「入るよ、用があって来たんだ。」


聞こえていないのは知りつつも、
失礼な気がして声をかけながら中に入って行く。


そうしてヒョクチェの横たわる、すぐ横に跪くと、肩を優しく揺すぶった。


「ヒョクチェ。」


「ん…」


警戒心が強いとドンへが言っていた。

驚かさない様に、優しく、ゆっくりと、眠るヒョクチェに働きかける。


古く所々小さな穴の開いたカーテンの裂け目から差し込む光で、ヒョクチェの金の髪が
白っぽく光り輝き、あまりに美しくて、シウォンはそっと手を伸ばす。


温かくて、柔らかい髪に、つい手を引っ込める。
この綺麗な人形が、人である事を思い知る。


その引っ込めた手を持て余し、もう一度肩に手をかけようとした時、布に顔を埋めていた
ヒョクチェの顔が仰向けに露になり、ピンク色の閉じられた目蓋、頬、唇がシウォンの
目に入った。


シウォンが暫くその寝顔に見入ってしまい、何も出来ずに居ると窓の外をトラックが
エンジン音を響かせながら通り過ぎた。

その時窓から差していた光がちらつき、ヒョクチェの目蓋に届いていた光線が揺らぐ。

「う…ん…」

目蓋が震え、薄く開き、覗いた瞳ががシウォンに向けられる。

「ドンへ…?」

「いや…」

違うよと手を緩く振りながら、喋りかけたシウォンの手首をヒョクチェの手が捉える。

「もうちょっと、寝よ…」

そう言うと、シウォンの手を引っぱり、自分の方に引き寄せる。

ああ、とショックと、動揺が心にこみ上げた瞬間、バランスを崩しシウォンはヒョク
チェに多い被さる。

「重い。ちゃんと…寝て」

ヒョクチェが寝ぼけたまま、もごもごと喋る。

「ヒョクチェ、俺だよ。ドンへじゃない。」

ヒョクチェに多い被さったまま、シウォンが強く言い放つ。

「……?」

ヒョクチェの顔の左側に肘と手をつき、右手はヒョクチェに握られたまま、真っすぐ
ヒョクチェの目を見つめる。

シウォンの前髪が、ヒョクチェの額をかすめた。

ヒョクチェの目が少しずつ見開かれ、目の前に居る男をシウォンだと認識した瞬間
右手をぱっと離した。

「あっ…」

突然手を離されたシウォンは更にバランスを崩し、辛うじてヒョクチェの胸に手をつ
いて体を支える。

しかし、2人の距離は先程より随分と狭まってしまっていた。

ほぼ密着している、お互いの胸。

鼓動が聞こえるのじゃないかという程の距離。

シウォンは目眩を感じて目を瞑り、もう一度お互いの距離を確認する。

ヒョクチェの吐息が、シウォンの唇にゆるくかかった。

「シウォン…?…夢?」

ヒョクチェの目はまだ少しとろんとしている。

しかし、口元は笑っていた。

「…良い匂い」

ヒョクチェはすんすん、とシウォンの匂いを嗅ぐと目を瞑って口を少し開いた。

シウォンは、限界が近いのを感じた。

「ヒョクチェ、夢じゃない。起きるんだ。」


優しく囁くように口を開いた時、ヒョクチェの綺麗な舌が唇から覗いたかと思うと


シウォンの唇に、冷たいヒョクチェの唇が重ねられた。


「はぁ…」


小さく吐息を漏らしながら、ヒョクチェの舌はシウォンの唇を求める。

「ヒョク…チェ、あ」

ヒョクチェがシウォンの顔を両手で挟み、貪欲に、深く、深くキスをする。

シウォンの思考は、甘く、飢えたような口づけに、熱で浮かされたように朦朧として
どんどん靄がかかって行った。



「どんな夢だこれ…」



その時、目を閉じたままピンクから赤に染まった唇をシウォンにの唇に押し付けな
がら、困惑するような、面白がっているような…声でヒョクチェが呟いた。



その言葉でシウォンは、はっと我に返る。

そして急いでヒョクチェの手を解くと、まず自分が起き上がり、そしてヒョクチェを
横から抱き起こした。


座った状態で、お姫様抱っこの様な体勢になると、やっと目がしっかり開いて来て、
あれ?と目をゴシゴシしているヒョクチェの頬を手加減してつねる。


「いて!いてててて!!」

「朝だ、ヒョクチェ。」

「!?」

「ドンへはもう仕事に行ったよ。」

「え!?」

「俺が来た時入れ替わりで出て行って、起こしてと頼まれたんだ。」

「何?今?あれ!?」

「何も無い。俺も今来た所だよ。」

「え、嘘?」

「ほんと。あんまり呼んでも起きないから、抱き起こさせてもらったよ。」

「あーーっごめん」


シウォンは、あくまで何もなかった事にしようと心に決め、ヒョクチェには夢の中の
出来事だと信じてもらう事にした。


「ごめん、ちょっと顔洗ってくる…!」


ヒョクチェは飛び起きると、ちょっと前屈みで顔を赤くしてキッチンの方に駆けて行
った。

その手を掴んで、ここで押し倒してしまい衝動を、シウォンはここ一年で一番の集中
力を使って抑え込むと、そのままヒョクチェのいない布団にうずくまった。

考えを整理する間もなく、布団に転がって居たシウォンの携帯が鳴り始める。

深く一つため息をついて、電話に出る。


「坊ちゃん、準備完了です。始めて良いです?」


「ああ、始めてくれ。頼んだよ。」


シウォンはそう言って電話を切ると昂った自分を落ち着けるのに神経を集中した。


仕事の事を考える。

だが、先程のヒョクチェの色っぽく、本能むき出しの姿を思い出して汗が滲む。

ドンへ。

彼の事を考えよう。

ヒョクチェが毎回布団に引きずる込む相手。

まさか毎回こんな事をしているのか?

そんな事があるだろうか。

ヒョクチェのあの焦り様からは想像がつかない。

しかしあのヒョクチェの貪欲な求め方が自分に向けられたものだとは信じがたい。

考えても整理がつかない…。

なんだか気分が落ちて来て、やっと熱い脳みそが冷えて来た。



「わーーーーーーーっ!!!!!」



その時、上の方からヒョクチェの大声で叫ぶ声が聞こえた。

何事かとすぐさま立ち上がって二回の階段を見つけ出し駆け上がる。

最初の部屋に駆け込むと、天井に開いた大きな穴を見あげてヒョクチェが尻餅をつい
ていた。

「どうした!?」

シウォンが問いかけると、ヒョクチェが穴を指差して「あ、あれ」と呟く。

そこからは木材をぶら下げたクレーンが顔をのぞかせて、職人の男が屋根の上でそれ
を受け取っている真っ最中だった。

「なんか居たんだ…」

ヒョクチェが気の抜けた声で言う。

「ああ…俺が頼んだんだよ。」

「あんたが!?」

「バスタオルのお返しさ。」

「え…!?」

「修理工事の人達だよ。穴を補修してもらおうと思って。困ってただろう?」

「そりゃ…」

「大丈夫、元々の屋根よりもっとしっかりさせて貰う様に頼んだから。悪いように
はしない。」

「はぁ…」

「すまない、驚かせてしまって。なんだか驚かせっぱなしだな。」

「いや…、あ、ありがとう…」

顔を引きつらせてヒョクチェが笑う。

シウォンは、まあ、想定内だなと思うと、安心させるように微笑んだ。

「今日は何か予定はある?」

「いや…今日は夕方からちょっとだけバイトがあるくらい。」

「俺は今日、オフなんだ。良かったら付き合わないか?」

「え、うん。いいけど。」

「デートだ。」

「は!?」

「はは、ヒョクチェのその顔、好きだな。」

何を言ってるんだ、という様に、鶏の様に目を丸くして口を丸く開けたヒョクチェを
見てシウォンは笑う。

「んだよ…変な顔してて悪かったな…」

「ふふっ、じゃあ早く準備して。」

「え!?もう起きんの?もちょっと寝かしてよ」

「なんだまだ寝足りないのか?」

「ああ、実はなんか変な夢見て…ブッ、ゴホ!」

変な夢、と言いながらシウォンの顔を見てしまい、先程のアレを思い出したらしく
赤くなって咳き込んだ。

「一体どんな夢を見たんだ?じゃあこのまま朝食を摂って…その後昼寝っていうの
はどうかな?今、俺は近くのホテルに滞在してるんだけど、ホテルに戻って朝食に
付き合ってくれると嬉しいな。」

「ホテル!?」

「いや、変な事はしないから。」

笑いながらシウォンはそう告げる。

「ばっ…そういう意味じゃなくて!こんな貧乏人がホテルなんか入れるわけ無い
だろ!」

「俺と一緒だったら裸でも大丈夫さ。」

「!!」

「あはは!冗談だよ、服を着てれば問題ない。」

「…お前、変なやつだな本当に。」

「そう?」

楽しそうに、シウォンが満面の笑みでヒョクチェに向き合う。

笑顔の威力に気押されてヒョクチェが詰まると、シウォンが身振りでヒョクチェを
急かす。

「分かったよ!下に降りてろよな」

くしゃくしゃの金髪をかき乱しながら、何着よう…とぶつぶつ言うヒョクチェを尻目
にシウォンは階段を下りて行く。

今日は良い日だ。

まだヒョクチェの事は何も分からないけれど、知れば良い。

今日は全力で彼の事を知ろう。

そして俺の事を知ってもらおう。



心に引っかかる事は沢山あったが、目の前の幸せでシウォンの心は満たされる。



乱れたシャツの襟元を治し、それからヒョクチェの寝ていた布団を畳んで整えると、
シウォンはキッチンへ行きゆっくりと今日のプランを考えた。










To be continued...












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