2012年9月17日月曜日

Happy Together vol.7





Happy Together vol.7



















ソウル郊外、星街。
所謂貧民街に当たり、もともと人通りの少ないこの地区は、まだ早朝六時の朝霧に包ま
れて静かに眠って居た。




静けさの中、例えば息をのんで、耳をすませば聞こえる様な音だったが、遠くから小さな
地響きが聞こえる。



寝ていた犬がピクリと耳を動かして音の方向を眺め、桶で水を運んで居た早起きの老人
が、水の振動で後ろを振り返った。












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中通り。


粗末に増築を繰り返した様な家が建ち並び、その中に屋根の一部の剥がれて大きな穴の
開いている二階建てのあばら家が見える。



その家の一階、奥の部屋。


ベッドすらないが一枚の布団を床に敷き、そこに若い青年が2人、子犬の兄弟の様に寄り
添って眠っていた。


1人は金髪に真っ白い肌、紅のさした様な安らかな寝顔で眠っている。
寝相は悪いようで、かけていた筈の布団を丸めて抱きかかえていた。


もう1人は、その青年の背中に顔をうずめ、寄り添う様に横たわっている。
長めの前髪にゆるいウェーブのかかった茶髪の青年。


静かな朝は2人の為に沈黙して居る様にも感じられたし、2人の若い旺盛な睡眠欲こそが、
周囲に強固な眠りの帳を下ろして居るかのようで。






しかし、眠りのカーテンを切り裂くように、突然にも外から激しく犬の吠える声が近付
いて来た。






ピクリと瞼が震え、ドンへが大きく欠伸をする。
まだとろんと開かない目で、そこに居るヒョクチェの存在を確認すると、横になった
まま手を延ばし、ヒョクチェの柔らかな金の髪に優しく指を通した。


ぼんやりと明るい外からの光で金の髪は白く光る。


ドンへは、静かに、でも大きな呼吸を繰り返すヒョクチェの横腹に手を回し、もう一度
眠りに落ちようとした。


その時。




「ここは通さんぞ!!」




外から老人が叫ぶ声がした。
クラクションが激しく鳴らされる。


ドンヘは驚いて跳ね起きると、微動だにする気配はないものの、ヒョクチェを起こさな
い様にそっと部屋から出て、表へと走った。


そこには大型のトラックが一台と、その後ろにはクレーンやフォークリフトが並んで
居る。
その後ろにも数台の車が続いて居る様だった。


ドンへは、よくこんな道をこんなに沢山通って来れたなあ…と、ぽかんと口を開けて
その一行を眺める。



そして、声の主を確認すると、それは先頭のトラックの前に立ちはだかり、運転手に向
かって叫んでいる老人だった。



「通さんと言ったら通さん!!今度はどこをぶっ壊す気か!出ていけ!」


その老人は、ヒョクチェの家の近所の、いつもは穏やかに犬と日がな一日戯れている様
な好々爺だった。
昔から頻繁にヒョクチェの家に泊まりに来ているドンへにも、顔馴染みの老人である。

状況が分からずドンへが老人に駆け寄ると、トラックから怒号が飛んで来た。

「どけよ爺さん!!俺達ゃ仕事しに来てるだけなんだからな、通さないと警察呼ぶぞ!」
厳ついヒゲ面の男が窓から顔を出して拳を振り回してそう叫んだ。

「黙らんか!早く去ね!!」

奮い立つ老人の背後に立ち肩に手を添えると、どうなってるの?とドンへは問った。

「おお、ドンヘや。こやつらは前からな、ワシらの町壊して回っとる悪魔みたいな奴
らだ!また壊すもん探しに来おって、絶対に通すわけにはいかん!」


ドンへはごくりと唾を飲む。
まさか。
ヒョクチェの家まで巻き込まれる?
ここいらの住人を立ち退かせようと役所が頑張っているという話も聞いていた。


依然クラクションを鳴らし続ける運転手に向かって、ドンへは問いかけてみる。


「あの!どこに向かうんですか?」


運転手はまた顔を出し、顎でドンへの背後を示す。


「そこだよ!!ん?あんたが出て来た家だな?」


全身から血が抜けたみたいに冷く緊張した。
だめだ。
絶対だめ。
ヒョクチェが、困る。


「駄目だ、お兄さん達、悪いけど通せないよ。」

「そうだ!通るならワシら2人とも轢き殺して通れ!!この悪鬼羅刹が!!」

「だから俺達は…」


運転手が何かを言い始めた時に、
後部の明らかに高級なシルバーの車から背の高い若い男が出て来た。


その男が足早に先頭のトラック迄駆け寄って来ると、トラックの男達は一様に軽くお
辞儀をしてその若い男をむかえた。


「坊ちゃん、すいません、こいつらがどかねえって頑張るもんだから中々進めなくて…」

「ちゃんと説明したのか?ちゃんと話せば何も問題も無いんだから。私が話すよ。」

「はあ…」


その背の高い若い男がこちらへ顔を向ける。
薄いブルーの上品なスーツを着た、完璧なスタイル。

その男の目線がドンへの所でピタリと止まり一瞬口元に驚きを浮かべたかと思うと、
男の顔を隠していたサングラスに手をかけた。


少し下を向きスルリとサングラスを外し、胸のポケットに慣れた動作で収める。
そして顔を上げてドンへを見て笑った。

まるで大きな向日葵が咲いたような笑顔に、ドンへは、つい目を細める。


ああ…あの男の人は。


ドンへは視界が少し曇るのを感じた。
感謝しているのに、俺を不安にさせる。

あの笑顔…。

名前はシウォンさんだと、確かヒョクチェが言っていた。

シウォンが、片手を上げて、手を振ると、口角を上げたままこちらへ向かって来る。

ドンへは一瞬自分もちゃんと笑い返せているか不安になり、自分の頬に触れて表情を
確認した。


笑えてる。大丈夫。


お礼を言わなきゃ。
大事なヒョクチェを助けてくれた、神より感謝しているこの人に、お礼を言わなきゃ。


頬が、少し震えた。


シウォンがすぐそばまで来て、爺ちゃんが怒っている。


シウォンが爺ちゃんに頭を下げながら、説明させて下さい、と穏やかに声をかけた。


そしてもう一度こちらを向き直し、両手を広げてまた会えて嬉しいよとシウォンが
言った。



…が、そこから先がスローモーションで、よく、わからなかった。



”シウォンさん、ヒョクチェの事を助けてくれてありがとう”



そう言いたかったのに、ドンへの口はシウォンの名前さえ言い終われない内に、何も
言えなくなっていた。




気が付いたら一筋、二筋と涙が溢れていた。




爺ちゃんが驚いて、震え始めて崩れ落ちそうな俺の背中を支えてくれる。
続きを言いたいのに言えず、喉がくるしい。



ーーそしてシウォンは目を見開いて、口もあいたまま驚愕の表情を浮かべていたが、
それでもすぐに真っ直ぐドンへに近付き、その腕にそっと抱きすくめた。



ドンへは驚いたが、その慈しみに溢れた腕に、胸が緩んだ。
そしてドンへの心の蓋が、ほんの一瞬ふわりと隙間をつくって。



口に出てしまった。



「とらないで」


シウォンがちゃんと聞き取ろうとドンへの瞳を覗き込んでくる。


"ヒョクチェをとらないで"


「と  らないで…」


静かな嗚咽の合間に、漏れた感情は言葉足らずに繰り返された。

あなたは危険だ。

ヒョクチェのあんな顔はみた事が無い。

ヒョクチェは昨日からずっと様子がおかしい。

そんな風ににしたのは、あなたなんでしょ?

危険なんだ。



「すまない、驚かせてしまったかな…。」


ドンへの背中を緩く叩きながら、シウォンが囁く。


「君達の住む所を奪ったりしにきた訳じゃないんだ。」


違う、そうじゃない。


あなたがそんな事しないのは分かってるよ。


そういう顔、してない。


「あの…ヒョクチェ、が昨日屋根を無理して修理しようとしていたようだから、こちら
で修理の手配を、したんだ。」


苦しい。


多分最高に良い人だ、この人は。


でもそんなに愛おしそうにヒョクチェの名前を呼ぶなよ。


俺のヒョクチェなんだから。


でももうそれ以上は、言葉にはならなかった。
ただ、腕の優しさに、熱い頭を一瞬だけ預けた。


「大丈夫。」


シウォンがそう囁いて頭を撫でた。


「俺は、ヒョクチェの力になりたいだけだから。」


安心させるような優しさを含んだ声は、それとは真逆に凶器の様にドンへの心に刃を
滑り込ませてくる。


ドンへは無言でシウォンの腕を解き、彼の腕を「ありがとう」と伝える様に一瞬掴む
と体を離した。


そしてシウォンの顔を正面から見つめて言った。
また、涙が一筋静かに頬を伝う。


「ヒョクチェを助けてくれてありがとう。心から感謝してます。」


シウォンははにかむ様に一瞬目を伏せて笑う。


「俺、これから仕事…このまま行くんで。ヒョクチェは家の中でまだ寝てるから…鍵は
開いてます。」


シウォンは少し慌てた様に、君が起こした方がいいんじゃない?と尋ねる。


ドンへは一瞬遠くを見る様にして手の甲で涙を拭うと、またシウォンに目を戻して微笑
んだ。


「俺が起こすとそのまま布団に引きずりこまれちゃうから!」


シウォンの表情がふと、固まる。


この優しそうな人を…牽制して何になるのか。


俺の勘違いかもしれないじゃないか。


でも全身の俺の神経が、危ないんだと叫んでるから。


こんな小さな牽制なんの役にも立たないかもしれないけど、でも足掻かずには居られ
ない。


こんな恋は…始まったらどんどん加速してしまう。
少しでも、少しでも加速していく速度を遅くできたら…。


「じゃあ、頑張って起こしてやって下さい。あなただときっと驚いてすぐ起きると思い
ますよ。あいつ”他人”に警戒心強くって。」


「…分かった。ありがとう…驚かさない事を、祈るよ。」


ちょっとだけ困った様な悲しい表情で、また彼は微笑んだ。


後ろめたい気持ちが、本来天真爛漫なドンへの心を染めて行く。


ドンへは後ろで見守っていた老人に状況を説明すると、シウォンに軽く会釈をした。


そして彼らに背を向けて歩いていき、近くに停めてあったバイクで走り去って行った。


ドンへはそのまま戻ったりして、ヒョクチェに向ける顔が無かった。









見送るシウォンに、老人が近寄り今回は信用するから綺麗に仕上げてやれよ、と言い
残すと彼もまた去って行く。


取り残されたシウォンにトラックの運転手から声がかかる。


「進んじゃって良いっすか?」


「あ、ああ…あっちの高架辺りに、出入りの邪魔にならない様に停めて欲しい。
それから工事の準備が終わったら携帯で呼んでくれ。」


「了解っす!」


彼らが後ろへと伝令している間に、シウォンはヒョクチェの家の玄関へと向かって行く。





…先程のあれは、牽制されたのか。


彼はヒョクチェの事が好きなのだろうか?
ヒョクチェも彼の事を?


だが…あの時のヒョクチェの、あの同性への拒絶感は…


しかし確かに、二人の距離感には普通の友達同士とは思えない様な親密さがあった。


そうこう考えながらシウォンはドアノブに手をかけ、扉を開け中へ入る。
確かに鍵はかかっておらず、軋む音をたてながら簡単に開いた。


一応、お邪魔しますと声をかけてみた。

当然返って来る声は無い。


古く粗末だけれど清潔な、板張りの廊下をミシッと小さく音を立てながら進んだ。


…あの出来事のあったキッチンに差し掛かり、一瞬、強烈に頭に血が上り眩暈がした。


すぐに目を逸らすと、反対側に少し隙間の開いた引き戸があった。
そこで耳を澄ますと、穏やかな寝息が聞こえて来る。


まるで…心臓を鷲掴みにされたような感覚が身体中を駆け抜ける。

鼓動が収まらない。

頭を振って、冷静を取り繕う。


そしてヒョクチェ、と名前を呼びながら部屋の扉をスライドさせ、中を覗き込んだ。


薄暗い部屋の中、床に敷いた布団の上に白い身体にグレーのTシャツと短いハーフパンツ
姿のヒョクチェはシーツの様な掛け布団に絡まってすやすやと眠っていた。
乱れ切った寝具が、どことなく淫媚に映る。


「ヒョクチェ…」


名前を呼ぶと、熱くなった頭が少しずつ冷めて行き、今度は優しい、愛おしい気持ちが
シウォンの体を満たして行く。


「入るよ、用があって来たんだ。」


聞こえていないのは知りつつも、
失礼な気がして声をかけながら中に入って行く。


そうしてヒョクチェの横たわる、すぐ横に跪くと、肩を優しく揺すぶった。


「ヒョクチェ。」


「ん…」


警戒心が強いとドンへが言っていた。

驚かさない様に、優しく、ゆっくりと、眠るヒョクチェに働きかける。


古く所々小さな穴の開いたカーテンの裂け目から差し込む光で、ヒョクチェの金の髪が
白っぽく光り輝き、あまりに美しくて、シウォンはそっと手を伸ばす。


温かくて、柔らかい髪に、つい手を引っ込める。
この綺麗な人形が、人である事を思い知る。


その引っ込めた手を持て余し、もう一度肩に手をかけようとした時、布に顔を埋めていた
ヒョクチェの顔が仰向けに露になり、ピンク色の閉じられた目蓋、頬、唇がシウォンの
目に入った。


シウォンが暫くその寝顔に見入ってしまい、何も出来ずに居ると窓の外をトラックが
エンジン音を響かせながら通り過ぎた。

その時窓から差していた光がちらつき、ヒョクチェの目蓋に届いていた光線が揺らぐ。

「う…ん…」

目蓋が震え、薄く開き、覗いた瞳ががシウォンに向けられる。

「ドンへ…?」

「いや…」

違うよと手を緩く振りながら、喋りかけたシウォンの手首をヒョクチェの手が捉える。

「もうちょっと、寝よ…」

そう言うと、シウォンの手を引っぱり、自分の方に引き寄せる。

ああ、とショックと、動揺が心にこみ上げた瞬間、バランスを崩しシウォンはヒョク
チェに多い被さる。

「重い。ちゃんと…寝て」

ヒョクチェが寝ぼけたまま、もごもごと喋る。

「ヒョクチェ、俺だよ。ドンへじゃない。」

ヒョクチェに多い被さったまま、シウォンが強く言い放つ。

「……?」

ヒョクチェの顔の左側に肘と手をつき、右手はヒョクチェに握られたまま、真っすぐ
ヒョクチェの目を見つめる。

シウォンの前髪が、ヒョクチェの額をかすめた。

ヒョクチェの目が少しずつ見開かれ、目の前に居る男をシウォンだと認識した瞬間
右手をぱっと離した。

「あっ…」

突然手を離されたシウォンは更にバランスを崩し、辛うじてヒョクチェの胸に手をつ
いて体を支える。

しかし、2人の距離は先程より随分と狭まってしまっていた。

ほぼ密着している、お互いの胸。

鼓動が聞こえるのじゃないかという程の距離。

シウォンは目眩を感じて目を瞑り、もう一度お互いの距離を確認する。

ヒョクチェの吐息が、シウォンの唇にゆるくかかった。

「シウォン…?…夢?」

ヒョクチェの目はまだ少しとろんとしている。

しかし、口元は笑っていた。

「…良い匂い」

ヒョクチェはすんすん、とシウォンの匂いを嗅ぐと目を瞑って口を少し開いた。

シウォンは、限界が近いのを感じた。

「ヒョクチェ、夢じゃない。起きるんだ。」


優しく囁くように口を開いた時、ヒョクチェの綺麗な舌が唇から覗いたかと思うと


シウォンの唇に、冷たいヒョクチェの唇が重ねられた。


「はぁ…」


小さく吐息を漏らしながら、ヒョクチェの舌はシウォンの唇を求める。

「ヒョク…チェ、あ」

ヒョクチェがシウォンの顔を両手で挟み、貪欲に、深く、深くキスをする。

シウォンの思考は、甘く、飢えたような口づけに、熱で浮かされたように朦朧として
どんどん靄がかかって行った。



「どんな夢だこれ…」



その時、目を閉じたままピンクから赤に染まった唇をシウォンにの唇に押し付けな
がら、困惑するような、面白がっているような…声でヒョクチェが呟いた。



その言葉でシウォンは、はっと我に返る。

そして急いでヒョクチェの手を解くと、まず自分が起き上がり、そしてヒョクチェを
横から抱き起こした。


座った状態で、お姫様抱っこの様な体勢になると、やっと目がしっかり開いて来て、
あれ?と目をゴシゴシしているヒョクチェの頬を手加減してつねる。


「いて!いてててて!!」

「朝だ、ヒョクチェ。」

「!?」

「ドンへはもう仕事に行ったよ。」

「え!?」

「俺が来た時入れ替わりで出て行って、起こしてと頼まれたんだ。」

「何?今?あれ!?」

「何も無い。俺も今来た所だよ。」

「え、嘘?」

「ほんと。あんまり呼んでも起きないから、抱き起こさせてもらったよ。」

「あーーっごめん」


シウォンは、あくまで何もなかった事にしようと心に決め、ヒョクチェには夢の中の
出来事だと信じてもらう事にした。


「ごめん、ちょっと顔洗ってくる…!」


ヒョクチェは飛び起きると、ちょっと前屈みで顔を赤くしてキッチンの方に駆けて行
った。

その手を掴んで、ここで押し倒してしまい衝動を、シウォンはここ一年で一番の集中
力を使って抑え込むと、そのままヒョクチェのいない布団にうずくまった。

考えを整理する間もなく、布団に転がって居たシウォンの携帯が鳴り始める。

深く一つため息をついて、電話に出る。


「坊ちゃん、準備完了です。始めて良いです?」


「ああ、始めてくれ。頼んだよ。」


シウォンはそう言って電話を切ると昂った自分を落ち着けるのに神経を集中した。


仕事の事を考える。

だが、先程のヒョクチェの色っぽく、本能むき出しの姿を思い出して汗が滲む。

ドンへ。

彼の事を考えよう。

ヒョクチェが毎回布団に引きずる込む相手。

まさか毎回こんな事をしているのか?

そんな事があるだろうか。

ヒョクチェのあの焦り様からは想像がつかない。

しかしあのヒョクチェの貪欲な求め方が自分に向けられたものだとは信じがたい。

考えても整理がつかない…。

なんだか気分が落ちて来て、やっと熱い脳みそが冷えて来た。



「わーーーーーーーっ!!!!!」



その時、上の方からヒョクチェの大声で叫ぶ声が聞こえた。

何事かとすぐさま立ち上がって二回の階段を見つけ出し駆け上がる。

最初の部屋に駆け込むと、天井に開いた大きな穴を見あげてヒョクチェが尻餅をつい
ていた。

「どうした!?」

シウォンが問いかけると、ヒョクチェが穴を指差して「あ、あれ」と呟く。

そこからは木材をぶら下げたクレーンが顔をのぞかせて、職人の男が屋根の上でそれ
を受け取っている真っ最中だった。

「なんか居たんだ…」

ヒョクチェが気の抜けた声で言う。

「ああ…俺が頼んだんだよ。」

「あんたが!?」

「バスタオルのお返しさ。」

「え…!?」

「修理工事の人達だよ。穴を補修してもらおうと思って。困ってただろう?」

「そりゃ…」

「大丈夫、元々の屋根よりもっとしっかりさせて貰う様に頼んだから。悪いように
はしない。」

「はぁ…」

「すまない、驚かせてしまって。なんだか驚かせっぱなしだな。」

「いや…、あ、ありがとう…」

顔を引きつらせてヒョクチェが笑う。

シウォンは、まあ、想定内だなと思うと、安心させるように微笑んだ。

「今日は何か予定はある?」

「いや…今日は夕方からちょっとだけバイトがあるくらい。」

「俺は今日、オフなんだ。良かったら付き合わないか?」

「え、うん。いいけど。」

「デートだ。」

「は!?」

「はは、ヒョクチェのその顔、好きだな。」

何を言ってるんだ、という様に、鶏の様に目を丸くして口を丸く開けたヒョクチェを
見てシウォンは笑う。

「んだよ…変な顔してて悪かったな…」

「ふふっ、じゃあ早く準備して。」

「え!?もう起きんの?もちょっと寝かしてよ」

「なんだまだ寝足りないのか?」

「ああ、実はなんか変な夢見て…ブッ、ゴホ!」

変な夢、と言いながらシウォンの顔を見てしまい、先程のアレを思い出したらしく
赤くなって咳き込んだ。

「一体どんな夢を見たんだ?じゃあこのまま朝食を摂って…その後昼寝っていうの
はどうかな?今、俺は近くのホテルに滞在してるんだけど、ホテルに戻って朝食に
付き合ってくれると嬉しいな。」

「ホテル!?」

「いや、変な事はしないから。」

笑いながらシウォンはそう告げる。

「ばっ…そういう意味じゃなくて!こんな貧乏人がホテルなんか入れるわけ無い
だろ!」

「俺と一緒だったら裸でも大丈夫さ。」

「!!」

「あはは!冗談だよ、服を着てれば問題ない。」

「…お前、変なやつだな本当に。」

「そう?」

楽しそうに、シウォンが満面の笑みでヒョクチェに向き合う。

笑顔の威力に気押されてヒョクチェが詰まると、シウォンが身振りでヒョクチェを
急かす。

「分かったよ!下に降りてろよな」

くしゃくしゃの金髪をかき乱しながら、何着よう…とぶつぶつ言うヒョクチェを尻目
にシウォンは階段を下りて行く。

今日は良い日だ。

まだヒョクチェの事は何も分からないけれど、知れば良い。

今日は全力で彼の事を知ろう。

そして俺の事を知ってもらおう。



心に引っかかる事は沢山あったが、目の前の幸せでシウォンの心は満たされる。



乱れたシャツの襟元を治し、それからヒョクチェの寝ていた布団を畳んで整えると、
シウォンはキッチンへ行きゆっくりと今日のプランを考えた。










To be continued...












2 件のコメント:

  1. こんばんわ♪
    アドレス教えてくださってありがとうございます~!
    さっそくお気に入りに登録しましたよ♪
    ブログのほうでも整理した後に、ブックマークで紹介させてください!!

    わたしのすごく大好きな書き方で話にのめりこんでしまい、
    あっという間に読んでしまいました!
    あぁ、こんな甘いウォンヒョクを読みたかったんですよ~!!><
    ドンへの切ない感じもいいですね!
    それに布団に引きずり込むヒョクチェがエロかわすぎますヾ(≧∇≦)

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    返信
    1. TAO様

      二大尊敬小説サイト様のTAOさんからのコメとか…!!
      しかと受け取りました、本当に有り難うございます!
      紹介…(白目
      恐れ多くて禿げそうです…ありがとうございます…うう…(T T)
      そして読んでくれている方が居るというのは、なんと心強い事でしょう。
      張り切ってお話増やして行くので、どうぞこれからもヨロシクお願い致します!

      シウォンさん、わたくし全力で幸せにしてあげたいので甘めです♥
      本当はドンへも幸せにしたいのに、ヒョクチェは一人しか居なくて残念ですよね。
      でもいつか小悪魔ヒョクチェで3人でラブラブなインモラルな短編も書いてみたいものです(笑)

      エロいイ・ヒョクチェ、これから大活躍しそうなので楽しみにしていて下さいね!
      あ〜今日はいい日です。
      本当にコメント有り難うございました!

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