2012年12月9日日曜日

Happy Together vol.20







Happy Together vol.20















———夕方、会議が終わった後、会社のカフェテリアにて。


「——もしもし。———ヒョクチェ?」


「———あ!ごめん、うん俺」


携帯電話を初めて持つヒョクチェは、色々な事に戸惑い、驚き
それがとても可愛くて、シウォンは電話をしながら沢山笑った。

「また、電話する。」

そう伝えて、初めての電話が終わった。





夜、江南の繁華街を抜けた道で。

自分で車を運転して、帰路を走らせている途中に携帯が鳴る。

車を、道の脇に寄せ、電話に出た。
綺麗な、街の灯りが見渡せる。



「はい、もしもし」


「あ——…俺、ヒョクチェ」



ヒョクチェは、怪我の調子はどうかと、心配げに聞いて来た。
大丈夫だよと宥め、バイトの事やダンスの練習の事、帰って来た家族の事を聞くと
訥々と、楽しそうに色々な事を話してくれた。


会話の途切れた瞬間に、ふと、雲間を割って月が顔を出す。

銀色のボンネットに、黄色の淡い光が滲む様に広がって行く。

ふ、と息を吐き。

シウォンは零れるままに、言葉を紡いだ。



「ヒョクチェ——…俺と出会ってくれて本当に有り難う。」


「うっ…」
ヒョクチェが、電話越しに口籠る。


「困ったの?」
シウォンは、微笑みを含んで、尋ねる。


「や…いや、そうじゃなくて、うん…。困ってるかも、はは。」
素直に、そうヒョクチェは答える。


「でも、」


「でも、それは…なんか…。——普通に…会いたいとか、思っちゃって、さ。
 だから」
ヒョクチェがため息まじりに、途切れ途切れにそう言った。


月の光が、車の中にまで差し込み、まるで自分にも染み込んでくるようで。


「ヒョクチェ…俺も会いたいよ。」


「———駄目、怪我。今日は無理すんなよ。」


「じゃあ、明日は?」


「明日は…、あんた、仕事は?」


「夕方までに終わらせる、絶対」


「夕方…はバイトだから、」


「見たい。」


「え?」


「君の踊る姿が見たい。バイトの時間の間に必ず行くよ。適当に見て待ってる。」


「じゃあ…レッスン終わったら入って来ていいから。スタジオ。」


「OK、決まり。」


「ん。」
ヒョクチェが、満足げに喉を鳴らす。


「おやすみ、ヒョクチェ。」


「うん、おやすみ。」


「君を好きになって、良かった。愛してるよ。」


「ちょ…」


何だか反論してきそうなヒョクチェに、笑い声だけを残してシウォンは電話を切る。


きっと電話に向かって悪態でもついているだろう。


月は、また雲に隠れ、街の沢山の灯りだけに包まれたビル街の眺めは


人々の沢山のストーリーを包み込んで、揺れ、霞み、さざめいていた。











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ヒョクチェは胸に流れ落ちる汗を感じながら
大きく息を吸って、飛び起きた。


起きてすぐに、辺りを見回す。


部屋。


何の変哲も無い、見慣れた自分の部屋。

まだ、胸が太鼓を打ち鳴らすようにドキドキしている。


———夢、だ。


余りにリアルで、まだ鮮烈に残る夢の記憶に喉の奥が焼けそうに苦しい。

は、とため息をついて肩を抱くと、枕元に置いた携帯電話が目に入った。


7時。


——起きてる、と思う。

ヒョクチェは咄嗟に携帯を手に取り、まだ一件しか無い着信履歴に電話をかけた。

数回のコール音の後に優しく低い声が聞こえて来る。
「もしも…」

「シウォナ」
焦る余り、つい声を被せてしまう。
ヒョクチェはしまったと目を伏せて下唇を軽く咬む。

「どうしたんだ?」

「お…俺、なんかむちゃくちゃな夢、見て」
ヒョクチェが何かを思い出したように言葉を切る。

「嫌な夢?話してごらん。」

「長い、夢で…知らない場所だった。暑くて、乾いてて、でもそれより
胸の中が死にそうに熱くて…自分が焼け尽きそうで…」

「砂漠かな…」
シウォンは暑くて乾燥しているという世界を思い浮かべる。

「なんか、そう…そんな感じ、で、シウォンが居た。」

「俺が?」

「うん、そう、…っは…」

「ヒョクチェ!?」
息を詰まらせ、なんだか嗚咽をしている様な調子のヒョクチェに
シウォンは驚く。

「…あ、あんたの事が、夢の中で、すっごく恋しくて、憎くて
頭おかしくなりそうだった」

「砂漠の、知らない場所で?君は、君自身だったのか?」
出来るだけ優しい声色で、落ち着かせるように話を促す。

「そう…俺」

「夢の中の感情が残ってるんだな。」


「うん。———長い、凄く長い夢だったんだ…」
放心したように、ヒョクチェは呟く。


情景が、きっと今目の前に浮かんでいるのだろう。


「胸が苦しい。こんなの初めて。…なぁ、シウォン、仕事までどのくらい時間…」

「今君の所に向かおうと準備してる。」
当たり前のようにシウォンが言う。

「え?」

「辛いんだろう、一人に出来ない。心配だ。」

「大丈夫だから!気持ちだけで嬉しいし、時間が心配だっただけ。
 …おし!これから姉さん達起こして家の事やんなきゃ」

「でも…」

「練習の時に会うの俺楽しみにしてるし。な。話聞いてくれてありがと…」

「あ、あと、怪我大丈夫?いつでも呼べよ?」

「…分かった。君もだ。いつでも呼んで欲しい。」
本当はその為に電話を渡したんだと、心の中で思う。

君が俺の事考えた時、その瞬間を逃さずにいられるように。

「え、…うん。サンキュ。」


さよならを伝えて、電話を切る。

シウォンは、電話というその無機質な機械を手に取ったままじっと眺めた。
今まで意識もした事が無かったが。
これは素晴らしいツールなのだな、と思う。
君の声が聞ける、離れていても、気持ちを伝え合う事が出来る。


シウォンは暫く感慨に浸ると、ヒョクチェに会いに行こうと着替えていた
スーツを脱いだ。

そして、きちんと整理されたワードローブから、Tシャツとラフなジャンパーを
取り出す。
実は、今日は大事を取って秘書から休みをとるよう全てのスケジュールを
キャンセルされていた。

大人しく休んでいる気など、シウォンには毛頭無かったのだけれど。

ヒョクチェに何をしようとしているのか悟られたくなかったから
シウォンはスーツを着て誤摩化そうとした。

でもその必要も無くなったので、シウォンは着替え、怪我を固定されていた
ギプスを外し、少し歩いて様子を見る。


———少しだけ、痛みを感じる。


でも、問題ない程度だ。


そう確信し、ちょっと甘いかもなと思いながらも苦笑しながらバイクのキーを
ラックから外し、手に取る。

夕方までの間に、何かしらの手がかりを自分の目で見つけなければ。

じっとしていて、叶う物など何も無い。
まずは、この足で、目で、確認する。


ドンへ…あまり遠くへ行っているなよ。


昨晩のうちに、何かと顔の利く男に手を回しておいて集めた情報を元に
マークをつけた地図をきちんと折り畳みポケットに入れた。

ドンへを見つけ出したら、それこそ、気持ちを既に伝え、伝えられた二人の間に
急速に何かが芽生えてしまうかもしれない。

そんな心配は勿論あった。


でも————


ヒョクチェの為に、俺がしてやれる事は、今はこれしかないから。


冷静に駆け引きすら出来ないくらいに、君の笑顔が欲しい。


君が欲しいのは100本の薔薇の花束でも、目が眩む様な美しいプレゼントでも
蕩ける様な愛の言葉でもない。

だから。



シウォンは、そっと家を抜け出すと、夜のうちに家の敷地外に出しておいた
バイクにまたがりエンジンをかける。


そして、痛む足に気を取られないよう用心しつつ
目的の場所へと向かって行った。







To be continued...



※皆様長らくお待たせ致しました!
Happy Together再開でございます。
コメントもメッセージも色々滞っておりますが、粛々と遅れた時間を
取り戻そうと作業中ですので暫しお待ち下さいませ♥
裏のコメントも徐々に返しております!
お心当たりある方は是非遡って、ご確認下さい!
全力でお返事しております。

お礼等別記事でも述べさせて頂きますが、皆様のコメントが本当に原動力
となっている今日この頃です。
いえ、書きたい欲望は一ミリも収まらないのですが、こうやって公に公開する事に対する
原動力と言いますか。
ブログをやっていると色々有る物で、めげそうになる事も沢山ございました。

しかし!今日もウォンヒョク活動に精を出し、公開するパワーをくれているのは
紛れも無く素敵な読者樣方です…!
本当に、末永くどうか、これからも宜しくお願い申し上げます!
皆様、本当に愛してるー!

Katie


10 件のコメント:

  1. おはよございます。
    朝から妄想ワールド突入のぶひひです。

    シウォンの愛は・・・大きいわ。

    ってことを再確認です。

    砂漠って『イスカ』の夢みたんですね?!
    あーあっちももう一度読み返します!!

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    1. >ぶひひ様

      朝からありがとうございましたー!!
      妄想ワールド如何でしたでしょうか♥

      シウォンさんの愛は大きいですよね…うちの貴公子は海みたいな存在なのです!
      ただのヒョクペンとの噂もありますけど(笑)

      砂漠はその通りイスカです!うまくリンクさせられたらなあと思った居たので
      良かったですっ!

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  2. おはようございます!
    Happy Together、お待ちしておりました^^
    そして、本日もUP予定と聞き、浮かれております♪

    今回、ヒョクチェさん、すごくかわいいですね。
    いや、いつもかわいいんですけれども
    すごく素直な感じです。
    これは、何でもしてやろうってシウォンさん思っちゃいますよね(笑)

    何だかいろいろあるようですが、私、全力で応援しております。
    では、21も楽しみにしております!

    P.S「黄色の淡い光が滲む様に広がって」っていう表現にうっとりしました。

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    1. >がみん様

      おはようございました!(笑)

      朝から濃いめですみません♥

      ヒョクチェさん、少しずつ手なずけられてますよね…ふふふ。
      こうやって溶かされて行くシウォンさんは、シウォンによって開花して行くヒョクチェに
      翻弄されて、また包み込んで…とすったもんだしていて欲しいです。笑

      本当に、いつもいつも応援有り難うございます。
      嬉しくて、やっぱり私は本当にブログやってて良かったと思いました。

      21、どうか楽しんで頂けると幸いですっ!

      P.S 表現とか、ちゃんと見て頂けてるんだ…と感動致しました。
      自己満足に終わっていなくて本当によかったです…!!TT

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  3. おはようございます。
    Sweetなウォンヒョク、いただきました。
    ヒョクの甘えっぷりと、シウォンさんの猫かわいがりにただただデレました。
    でも、もはやリアル日常にしか思えない今現在。色んないちゃいちゃが目に浮かんで…顔面がヤバイ。

    まさかのイスカ投入に、上手い!と思いました。この二人、もしかして…?

    もう20話なんですね。出会ってすぐでこのラブラブ。間違いねえ。

    シウォンさんが、自らの手でドンへを探しに行くなんて。
    〈冷静に駆け引きすら出来ないくらいに、君の笑顔が欲しい。〉に激しく感動。
    貴公子の本気、美味しい! 美しい! もう仔猫ちゃんは君のモノだよ!

    はあ。では、次回も楽しみに待っています。
    仕事もプライベートも大変そうですが、ここではKatieさんが幸せいっぱいでありますように。


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    1. >LILY様

      LILYさん、いらっしゃーい!!
      とりあえず、ビール!みたいな感じでとりあえずSweetウォンヒョク。
      再開祝いに。

      ふ…ふふ…この二人が…どこかの輪廻でイスカの二人と繋がっていたら良いなって言う…
      ふふ…
      出会うべくして、出会ったと。
      なので、出会ってすぐにここまでのジェットコースターLOVE.
      そんな風にふんわりと考えていたのです。
      LILYさん、洞察さすがでした(笑)

      貴公子がここまで動くって、それだけで美味しいですよね。
      誰からも求められるような完璧な紳士が、しがないダンサーに全てを注ぐとか…
      それで落ちない人間が、居るとでも思ってるんでしょうかね、この紳士はね!
      子猫ちゃんはもうほとんど懐ににじり寄って来ていると言うのに…にんまり。

      LILYさん達とウォンヒョク話出来るようになってから、私はかなりHappyになりましたです。
      誰とも盛り上がれなかったので…
      ほんと、最近折れかけてましたが、やっててよかったです、やっぱり!^^

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  4. こんばんは~♪
    「イスカ」が前世の記憶のように感じられて、
    このふたり、運命だわって感じちゃいました。
    子猫なヒョクちゃんが可愛いし、
    盲目なシウォンくんも可愛い ^^

    そして相変わらずの日本語の美しさにただただ脱帽です!

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    1. >柚楓様

      こんばんは、コメント有難うございます~!!
      運命、それを知ってしまったらきっとどんどん想いは加速するのでしょうね。

      イスカの二人は運命を知って、共に生きようと歩き出して…
      さて、この二人はいかに!?
      ああ…今世のドンヘさんは前世より強敵でざいますね(笑)

      子猫ヒョクと盲目シウォンに、更に盲目でデロデロな私が書いているので
      褒めて頂けているような日本語遣いが出来ているとしたら…
      きっとそれは愛ゆえに、でございます!へへ/////
      有難うございました。

      また楽しみにしていて下さいませっ!
      次のvol.21のヘミンも楽しんで(切ないですけどTT)頂けていたらいいなと
      思います♥

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  5. お待ちしていましたHappy Togetherの更新……♪

    大半が携帯電話のやりとりなのに、ここまで素敵な物語を書けるKatieさんって恐ろしいww

    まさかの「イスカランディア」投入に感激です(泣)。

    ヒョクの初々しさと、シウォンの純粋さと、二人を取りまく甘い空気がたまりません。

    二人の会話だけを抜き取ると、完璧に恋人同士なんだけど……

    お互いにその認識が全くないのも、萌えポイントですww

    まだ痛みの残る身体を引きずって、バイクに跨りドンヘを捜索しにいくシウォン……

    ヒョクに対する無償の愛に、彼の本気度がヒシヒシと伝わり、ジーンときちゃいます。

    ドンヘ寄りウネペンのくせに……今回の作品を読んで、私もシウォンみたいな恋人が欲しくなりましたww

    Katieさんが書かれるシウォンは、格好良過ぎて参ります(←激しく動揺ww)。

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    1. >adelaide様

      イスカは終わっていないので(マジかよ)あの終わらないストーリーの先に、現代の彼らが居て。

      永遠に一緒なんだって、そう書きたかったのです。

      イスカのスピンオフ、長らく温めていますが、そろそろやっと書けそうです。


      シウォンさんみたいな恋人ってやっぱり理想ですよね!!
      女性にも男性にも、永遠の夢のような存在。。。
      素敵過ぎて…。
      でもシウォンが格好いいのは、ヒョクチェに恋してるからなんですよね。
      あの甘くて熱いまなざしも、無邪気な笑いや子供っぽい振る舞いも、ヒョクチェが居ないと見れなくて。
      現実の話ですけど…。
      お話の中でも、そんなシウォンさんをずっと書いて行けたらと想います。

      色んな意味で、ヒョクチェはシウォンさんの原動力です。
      お互いに、そうなれたらいいな。

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