2012年10月21日日曜日

Happy Together vol.15






Happy Together vol.15














シウォンはやっとの事で、ヒョクチェのバイト先を見つけ出した。


もう9時半を回っている。


車を道に乗り捨てると、看板の明かりの消えたダンススタジオへと駆け込む。

誰もいないのかと思ったが、鍵が開いていて
確かに中に誰か居るのだと確信する。

足を踏み入れてみると、人の気配はなかったが練習室の様な広い部屋は
明かりがついたままになっていた。

部屋の真ん中に、白いジャージの上着が落ちていて、拾い上げると微かに
ヒョクチェの香りがふわりと漂う。

自然と、シャワー室を探してシウォンは廊下に出る。


———————ヒョクチェ?


耳を澄ますと、小さく水の音が聞こえた。


音に誘われて、シャワールームの前でシウォンは足を止める。


「ヒョクチェ」


声をかけてみる。


ヒョクチェの返答は無かった。


シウォンは直感的に、まずいなと思う。
そしてすぐさま扉を開けると、水の流れ出ている個室へと駆け寄った。



「ヒョクチェ!!!」



そこには、雨の日の捨て猫のように、シャワーに打たれながら踞るヒョクチェが居た。

シウォンは、どうして、どうしてと焦燥して繰り返しながら
踞ったヒョクチェを抱き起こす。

状態を確認すると、ヒョクチェはあられもなく半裸で
顔を真っ赤に泣きはらして荒い呼吸を繰り返していた。

「どうして…一体何が…」

シウォンは、混乱と衝撃を隠せずにヒョクチェを抱きしめた。

ヒョクチェは掠れた声で、シウォンの顔を見て名前を繰り返す。


「シウォ…ン…シウォン…なんで…」


「ヒョクチェ、一体どうしてこんな…」


「俺、あんたのこと…あんたの事が…っ」


ヒョクチェは興奮状態で、シウォンの首に縋り付き震えながら肩に爪を立てた。


「ヒョクチェ、深呼吸するんだ。落ち着きなさい。」


シウォンはシャワーのバルブを捻り水を止めると、そのままヒョクチェを
抱きかかえて車へ走った。


自分の上着を着せ、助手席にヒョクチェを座らせると額にキスをして
一旦スタジオヘと戻る。


一度車を振り返って確認するとヒョクチェは膝を抱えて助手席に丸くなり
泣きやんだ顔をその膝に乗せて体を揺らしていた。


シウォンは、明かりを消し、シャワー室に落ちていた鍵で施錠をすると
深呼吸をする。


—————ドンへ、か。


彼をあんなに揺さぶる様な存在は、彼なのだろう。




俺には介入出来ない、二人の世界。
俺は一体どうしたら。




柄にも無く、シウォンは悩む。

そうして、数秒程シウォンは腕を組み考えを巡らせると
ヒョクチェの待つ車へと急いだ。


何かを心に決めたように。

曇りの無い瞳で、真っすぐに前を見つめて。












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ソウル郊外、星街。



星が空に瞬き、肌寒い風が一筋、通りを旋回した。
人気も無く、車の音も無い。

時折、家々の隙間から、子供の声が聞こえた。




ソンミンは、路地に佇んで携帯を握りしめる。
この周辺のダンス教室というダンス教室をまわったが、外れだった。

万策尽き果て、一つ溜息を漏らす。



—————僕じゃ、助けられないのかな。



そう思ってソンミンは月を見上げた。

その時、携帯の音が静かな道にこだまする。
ソンミンは急いでメールを開くと安堵で深い息をついて、目を瞑る。



” 赤い屋根の、本屋の裏 ”



ドンへから、それだけのメッセージが、届いていた。

赤い屋根の本屋、知ってる。

ソンミンはカバンを前に抱きかかえるようにして走り出す。



”そこに居て、そこを動かないでね。”



そう送信すると、ソンミンは半時程前に通った道へと引き返した。

暗い道。
冷たい風。
全部悲しくって、どんどん闇へと引きずり込まれてしまいそう…。




——ああ、辛いのは僕なんだ。




ソンミンは、理解した。
自分が辛くて、寂しいから、誰かの手を取りたいんだ。

ドンへの悲しい顔が脳裏をちらつく。

あの笑顔を見る事が出来たら、幸せになれるかもしれない。
誰かの事を素直に、必死に好きになって、その人のそばに居るだけで
あんな笑顔になれる…あの心に、僕は触れたい。

そうしたら、汚れた僕の感情も少しは浄化されて行くのかもしれない。

そんな事を考えながら、ソンミンは教えられた赤い屋根の建物に辿り着き
真っ暗で薄汚れたビルの裏手の道へと足を進めた。



換気扇の音だけが、轟々と響く漆黒。



恐ろしげな空気に圧され、ソンミンは少し身震いをする。



「…ドンへ…?」


何の応答も無い。
自分の声だけが、余韻を残して耳に返ってくる。


「ドンへ…ここに居るの…?」


少しの静寂。
それから、小さく人の吐息のようなものが聞こえた。


ソンミンの肩がビクリと跳ねる。


ドンへなの?そこに居るのは、君…?


暗闇の中に目を凝らすと、踞った人のような、更に暗い影が見えた。


ソンミンは、何なのかを見定めようと少し近づく。


その影が、少し揺らめき、白っぽい部分がこちらを向いた。


「…ソ…ンミン…?」


ドンへの声だった。


ソンミンは衝撃を受け、弾かれたようにドンへに駆け寄る。


「ドンへ!!」


薄汚い壁に寄りかかり、座り込む彼の横に膝をつき
ソンミンはドンへの顔を両手で挟んで顔を上げさせた。


「どうしたの…ドンへ、ドンへ、しっかりしてよ…」


両腕をだらりと垂らし、いつもの様な元気を全て失ったドンへは
涙が静かにこぼれるのに任せ、捨てられた犬の様な目をしていた。


「ドンへ、こっちを見て、僕だよ。来たよ。分かる?」


ひっと小さく嗚咽を漏らして、くしゃくしゃの泣き顔を更に歪めてドンヘが
ソンミンの上着の裾を力なく掴んだ。


ドンへは、このうすら寒い空気の中、びしょ濡れだった。


触れてみると、髪も服も肌も濡れて凍てつくように冷たい。
どうして。
このままじゃまずい…
ソンミンは焦って、考えを巡らせる。


ドンへが、ソンミンの手に自分の手を重ねて来て、小さく呟いた。



「…かな…しい…」



ソンミンは、冷えきった体で泣き続ける捨て犬を、力の限りに抱きしめる。



「僕が、助けてあげる…」



抱きしめて、冷たい髪を何度も撫でた。

ドンへが安心して、涙が止まるまで。

何度も何度も、撫でて、声をかけた。

ふとビルの谷間で上を見上げると、細い隙間から星空が見えた。

星が、まるで安いネオンみたいに滲んで。


————悲しい。


でも悲しいのは僕一人だけじゃないんだ。


…そう、安堵の様な、悲しみよりももっと鋭い痛みの様な——




判然としない衝撃をソンミンの胸に刻み付けた。





To be continued...









2 件のコメント:

  1. はじめまして、きゃな子と申します(*^^*)
    この前このブログを発見したんですけど素敵なお話がいっぱい!!ということでぜひとも限定記事も読みたい!と思いコメントさせてもらってます(^ω^)

    21歳で推しCPはウネです☆
    kana-1213.sj-elf.32y@docomo.ne.jp
    に連絡いただけると嬉しいです(*^^*)

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    1. >きゃな子様

      コメント有り難うございます!
      先程メールアドレスの方にパスワードを送らせて頂きましたので、ご確認下さいませ。

      読みたいって思って頂けた事が、本当に嬉しいです。
      これからも何卒うちのウォンヒョク達を宜しくお願い致します!

      サランヘヨ〜♥

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