2012年10月14日日曜日

Happy Together vol.12






Happy Together vol.12



















外から、クラクションの音が聞こえた。

会議に熱中していたシウォンは、ふと気を逸らされる。
腕時計を見ると、とっくに20時を回っていた。


夕刻近くに、抱えているプロジェクトの件で緊急に呼び出されたまま
会議と討論を続けて数時間が経っていた。


ヒョクチェを残して行く事が身を引き裂かれるような思いだったけれど
どうしても外せない、シウォンにとって重要な会議だった。


苦肉の策で、出かける前に急いでフロントに伝言を頼んでおいたのでそれを
頼るしか無い。



とにかく、早く全てを終わらせてヒョクチェの所に向かいたかった。


…早く、ヒョクチェの顔が見たい。


シウォンは、ペンを置いて手の平を見つめた。

まだ昼間にヒョクチェに触れた感覚を、滑らかな肌、柔らかい腰、細い髪を
この手がが覚えている。


温かい…。


手を伸ばせばヒョクチェに届くかの様に、彼の温かさをすぐそばに感じた。






「副社長、…何か気になる事でもおありですか?」
秘書が、少しだけ落ち着きのないシウォンを見逃さず声を掛けて来た。


「大丈夫、ちゃんと聞いてるさ…。」
シウォンは小声で囁き返す。


「皆様お疲れですから…一旦コーヒーでもお持ちさせましょうか。」

シウォンは微笑むと、秘書の肩を軽く叩いた。
「いや、大丈夫だよ。ただ…一本だけ電話を入れさせてくれるか?」

「はい、承知いたしました。」
秘書がその旨を議事に知らせると一旦会議は休憩となる。

広く無機質な真っ白の会議室から、役員達が蟻の子を散らす様に出て行った。

シウォンも席を立つと、隣の応接室へ入り鍵をかける。
私用の携帯をスーツの内ポケットから取り出し、ホテルへ電話をかけた。
交換手が電話に出ると、シウォンはフロントに伝言の確認をする。


そして—––…
2、3のやり取りの後にシウォンの表情が強張ったかと思うと
すぐさま電話を切り部屋を飛び出した。

会議室の前で待機していた秘書をつかまえて、身内のトラブルで出かけるから
なんとか誤魔化してくれとだけ急いでシウォンは伝える。

突然の事に面食らう秘書を尻目に、シウォンはすぐそばの非常階段を駆け降りて
地下駐車場へと急いだ。


落ち着け…。
まずはホテルだ。


シウォンは、漠然とした不安で、こめかみが少し痙攣するのを感じた。

「金髪のお客様でございましたよね?電話をかけたのですが、その直後に取り乱した
様子で、上着も羽織らずに…飛び出すように出て行かれました。」

「申し遣っていた伝言を伝えようと呼び止めたのですが…なんだか泣いていたような
雰囲気で…そのまま走り去られて…。申し訳ございません…。」

フロントの女性の声が、頭の中でリフレインする。

シウォンは会社に置いていた白のアウディに乗りこむと、急いでエンジンをかけて
ホテルへと向かった。

ヒョクチェ、一体どうしてーー…。








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疲れたな…。

大量の本に囲まれて、ソンミンは、小さなため息をつく。
開いていた分厚い本をパタンと閉じると、飲みかけていた甘いカフェオレの残りを
一気に飲み干した。


もう、帰ろう。

廊下の電気ももう消灯していて、大学内に人気が無くなっている事を伝える。

あまり遅くまで居ても終わらないものは終わらない。

教授から頼まれた資料の分は、ほとんど終わったし―――…

カバンに資料を詰め込んでいると、携帯の着信音が鳴る。
ソンミンは、携帯を取り出すと届いていたメールを開いた。




そして一つ、息を飲んだ。




ドンへ…。


それはドンへからのメールだった。


"今日はありがとう。"

"俺、今あいつのバイト先。"

そして、空白のセルが少し続いて。


"自分が怖い。止められない。ごめん、誰かに言いたかった。また。"




どうしたの…ドンへ…。



泣いてるの?また、一人で、心が…。



ソンミンは、心臓が潰れるような気持ちになった。
悲しい。
一人は、寂しい。
僕も、そう。


なんでこんな恋を、してしまうんだろう。



急いでカバンに残った荷物を詰めると、ソンミンは資料室を飛び出した。

ドンへ、一人で泣かないで。
僕は君の笑顔が好き。

どこに居るかは分からない。
ヒョクチェのバイト先?
ダンス教室でバイトしているような話は、聞いた事がある。

その帰り、といいながらよく店に入って来ていた。

見つける、絶対。
きっと気を使って教えてくれないけれど
走りながらソンミンはドンへにメールを入れた。

”どこ?”

一人にしないよ…。
なんで、こんなに君の事が気になるのか、今は分からない。
でも、体が先に動く。


ソンミンは暗い廊下を走り抜けると、生物学部の棟を出る扉を開けた。


「うわっ…。」


扉の向こうから入って来ていた人と、思わずぶつかりそうになる。
その人が驚いたような声を上げた。

「すいませ…」
ソンミンはそのまま謝りながら走り抜けようとすると、腕を掴まれた。

「ソンミンさん…?」

「キュ…ヒョン」

暗くてお互いの顔が見えなかったが、外の揺らめく道明かりでお互いの顔が
ちらりと見える。


「なんだ、やっぱり。あんたの香りがすると思った。」
キュヒョンがにやりと笑った口元が見える。

「ちょっと…急いでるから、またね。」
ソンミンは、キュヒョンから香るお酒の甘い香りを感じて身を竦めた。
今は早く、逃れたい。


「なんで?約束でもあるの?珍しいね。」

「僕の勝手でしょ…。離して?」
キュヒョンが掴んだ腕が痛い。

「ふうん。そう、じゃ、行けば。」
パッと、腕が放される。

「…じゃあ…。」
ソンミンは、放された腕を抱くと、下を向いて別れを告げる。

「ええ、また明日…」



「って、言うと思った?」
キュヒョンの冷たい視線が痛くて、一瞬歩き出すのをためらった隙に
壁に押し付けられる。

「何…」

キュヒョンはソンミンを壁に押し付けたまま顔を近づけると、蔑むように笑う。

「男の所に行くの?…俺の事が好きなんじゃないの?」

「な…」

「どうでもいいけど、この間したみたいなキスしてから行ってよ。」

ソンミンは、一気に顔が赤くなるのを感じた。

「ほら。あの時のさ。俺の事好きって言った時みたいなやつ…。」

お酒の香りが、2人の間にたちこめ、ソンミンは顔を背けた。

「もう、忘れて…。」

「なんで?」

「お願い、もう許して…。」

「こうやって、相手してあげるって言ってるじゃん。」

「…っ」

ソンミンは、キュヒョンの胸を突き飛ばした。

「僕が馬鹿だったんだ!もう構わないから…」

「駄目。今まで通り、ちゃんと面倒見て。」

突き飛ばした腕を掴まれ、されるががままにソンミンは引き寄せられて
そして、唇を奪われる。

「…あ…っ」

媚薬のように、舌にしびれる強いお酒の味を感じてソンミンは体を強ばらせた。
キュヒョンは、ソンミンの逃げる舌を捕えて意地悪に攻める。

甘い。
苦い。
胸が、苦しくなるだけの、ビタースイートなキス。



悲しい。


だけど…



その時、ふうっと後ろから風が吹いて
キュヒョンから漂う香りが鼻孔をついた。

お酒の香り…に混じった、知らない香水の香り。

ソンミンは泣きそうになって、力一杯にキュヒョンを押しのけた。
「いやだ!」

「なんだよ…」

「その香水…っ。君の、”時間つぶし”の相手の一人になるのはいやだ!」

「…だから香水は嫌いだって言ったのに。」
キュヒョンは、口元に皮肉な笑いを浮かべたまま、誰かに悪態をついた。

ソンミンは、下唇を噛み締めてキュヒョンを睨みつけるとその場から走り出した。

一瞬だけ、キュヒョンが複雑な視線を寄越したような気がしたが
もう振り返らなかった。







ドンへ。

ドンへ、待ってて。


僕は、君の笑顔が見たい。


ひび割れた心が、いつも優しく包まれるような、君の優しい笑顔。


今、行くからね。












To be continued...






2 件のコメント:

  1. はじめまして!

    ケイティさんの影響で、ウォンヒョク大好きになりました。
    特にシウォンさんが…素敵で。本当にかっこよくて。つらいです。
    王子様すぎて、ウニョクさんそこおどきなさい?とウニョクポジを
    交代してもらいたい…!!!シウォンにリアルでも愛されているようで
    本当にうらやましいです。

    実はわたし、大きな声じゃあいえませんがキュミンペン(小声で)です…。
    キュヒョンが出てきたとき、よっしゃと心で雄叫びを発しました。
    こちらは、ウォンヒョク中心でソンミン・キュヒョンがどうなるのかは
    ケイティさん次第ですが…うまく行きますようにと願っております。

    長くなりましたが、これからも楽しみにしております。
    では失礼します^^

    misturu ootani

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    1. >大谷様

      コメント有り難うございます。(笑)
      つらいですよね、分かります!

      隣で鼻息荒くされていますものね…
      ウニョクポジはあげませんよ。私のものです。
      私がウニョクに成り済ますんですから。

      オタ系の雄叫び、しかと毎日受け取りますね。
      キュミンペンの大谷さん…ってお前ーーーーー!!!!

      私の隣でいつも読んでるT美さんじゃないか!!!ばか!本当に読者様だと思ったじゃないか!
      私にドッキリをかけるなんて…なんたる所行。笑
      覚えておきなさい!

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