2012年10月8日月曜日

Happy Together vol.11





Happy Together vol.11
















ヒョクチェは、暫くぼんやりとした意識の中でまどろんで居た。


知らないシーツ、知らない天井、だけど…知っている香り。


ああ、と思い出す。


シウォン・・・。


寝返りを打つと――・・・

さらさらと肌にあたる布や、自分の体が居心地の良いように位置をずらしてくれる
優しい手を感じた。


こちらを眺められている事もなんとなく分かる。


きっと、目を合わせてしまったら途方もなく熱くて、心地いいに違いない。


ヒョクチェは、ぼんやりとした頭で、まだ眠たい、と呟いた。


シウォンは寝言だと思ったのか、優しく髪を撫でてくれる。

それがとても気持ちよくて、なんだか夢の中みたいな幸福にまどろみたくて。

また、一気にヒョクチェは眠りに引き込まれた――・・・。










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午後20時
外はもう宵闇から星空へと変わり、静けさが人の少ない街を覆い始めている。


ヒョクチェは少しうなだれて、歩道にガラス張りで面している教室の内側から
横目で外を眺めた。

フロアに座り込み、軽くストレッチをする。


ヒョクチェは、貧民街からは少し離れた場所にある、中産階級の子供達が通う
ダンス教室でダンスを教えていた。


丁度そのレッスンが終わった所で。
どうにか2時間のレッスンを終えたが、ヒョクチェはついストレッチをしながら
深い溜息をついた。


疲れてる――・・。


ふと、窓のブラインドを下ろす為に奥から出て来たオーナーのシンドンが
冴えない様子のヒョクチェを見て声を掛ける。


「今日は随分体が重そうだったな。なんか楽しい運動でもしてきたのか?ん?」
ニヤニヤと、いつも笑っている顔を更に緩ませてヒョクチェをからかう。


ヒョクチェは一瞬ポカンとしたが、そのにやけ笑いの指す所を察して狼狽えた。
「は…⁈ちょっと、なんなんだよ!」

「ふっふっ…このオーナーシンドン様は何だってお見通しだ…はっはっは!!」
ブラインドを閉め終わりくるりと背を向けると、満足気に体を揺すりながら
歩き去る。


ドアを出る時に、一度振り返り「今日も練習してくんだろ?」と聞いた。


「うん、もちろん。」
ヒョクチェは座ったままひょいと手を上げ、礼を伝える。


変な奴だが、ヒョクチェが街で踊っていた所を拾ってくれた時からいままでずっと
凄く良くしてくれていた。


レッスンの後はこの教室を好きに使って良いと言ってくれていたので
今日もオーディションの課題の練習をする。



オーナーが裏口のシャッターを半分閉める音を聞きながら、ヒョクチェは思う。

オーディションの話だって持ってきてくれるのはオーナーだ。

感謝しなきゃな…。



その為にも、練習。



ヒョクチェはゆっくりと床に仰向けに背中を倒し、体をひねり筋肉を伸ばす。



しかし横たわってしまうと、途端にシウォンの事を思い出す。



こうやって、そう…。

あの腕に押し倒されて、ベッドに横たわった。

そして自分をあつかう、シウォンの手を、ヒョクチェは思い出す。





行為の後、落ちてしまった深い眠りの中で、意識をじわりと呼び起こされた事。




優しい手が俺の頬に触れて、唇に軽く触れた。

眩しい光が目蓋の隙間からするりと入り込む。

良い匂い。

体が、甘い。

そう思った。




裏からオーナーの話し声が聞こえて、多分俺にいつも通り、鍵はちゃんと閉めろよと
言ったんだろう。

すぐに、裏に止めてある車のエンジン音が聞こえる。




教室に静寂が満ちた。

表に面する窓も、全て今は閉まっていて。



1人。
教室の床で目を閉じる。



昼の、あの時に記憶を戻す。



温かい、重い、強い、シウォン。



愛を欲しがるライオン。
”そうか、ライオンみたいに踊れば良いのか。”


寝ぼけた頭でそう考えていた。


”今一掴めなかったんだよな、あの振り付け。”

”そうそう、こんな風に、強い力で獲物を抱いたまま悠然と低い声で唸る感じ。”

”そうやって相手の女の子を抱いて、見つめて、噛み付くみたいにホールド、
で、突き離す。”

”ああ、良い感じ、超かっこいい。”



そしてその後は―――・・・



頭の中でヒョクチェは振り付けを思いついたまま踊っていた。
手足が軽くて、期待感に満ちて、居ても立っても居られなかった。


ヒョクチェは布団を剥いで飛び起きると、シウォンに閃いたアイディアを伝えたくて
まだ霞む目をこすって隣を見る。



…隣に居ると思って居たのに、自分以外には誰も居ない部屋をヒョクチェは
何度も見回す。



あの時、部屋を出て全てのドアをあけても、シウォンは居なかった。


そして、ふいに捨てられたような気持ちになって、混乱した。



思い出して、床に横たわったまま、苦しい胸を押さえてヒョクチェは唸る。
好きだって言って、あんな事したくせに。



テーブルの上には、いくらかのお金が置いてあった。

そして、その後すぐに電話のベルが鳴り、ヒョクチェは飛びつく様に受話器を取った。
けれど話し始めたのは、女の人の声。
チェ様からの伝言で、起こす様に申し付けられておりますと一言。

シウォンは…?と問うヒョクチェの声に、もう出かけられましたと言われる。
電話は切れて、テーブルの上のお金と、ヒョクチェは、取り残された。




…どういうつもりなんだよ。
散々人の気持ちを、掻き乱しておいて。

これがシウォンの見せてくれる世界?

覗くんじゃなかった。


苦しい…。


はぁ、と苦しげな息を漏らしてヒョクチェは膝を抱えて起き上がる。


今日は踊れそうにもない。


走って、何も持たずに、上着さえ置いたまま、ホテルを飛び出した。
胸の中にくすぶる何かだけを持ち帰って。




俺が馬鹿だったのかな。

一目で俺の事を好きになるなんて、本当に嘘みたいな話だったじゃないか。

でも、あの手だけは、あの手が優しく俺を這う感覚は、本当だったと思ったのに。

愛おしいと、全身で伝えられているみたいだったのに。

ズキン、と下半身に思い出すシウォンの感覚。

愛してると言いながら、俺に触れた。



ヒョクチェは、自分で、自分の肌に触れてみる。

汗ばんだ体に残る疲労感と、誰もいない教室で一人きりの、沈んだ空気。

シウォンの手を思い出しながら、ヒョクチェは触れられた場所をなぞる。

小さく、快感に声が漏れた。

唇から、湿らせた指で、そのまま首筋へ。

首筋から、滑る様に、胸元…。

シャツの中に手を、くぐらせて、目を閉じたまま思い出す。

「愛してる」

その言葉を聞きながら、ズボンを下ろされた。

手が、自然とスウェットの中へと下りて行く。

熱い、熱い吐息を頬に感じて、そして―――・・・・

「あ…」

”……―――シウォン”








「ヒョクチェ。」







突然に、名前を呼ばれた。


ヒョクチェは、思いがけない人の声にうろたえ、居ずまいを正そうとする。

咄嗟に顔を上げて目の前の鏡の壁に目をやると

自分の後ろにあるドアに凭れて立っているドンへを発見した。


「ドンへ…!!」


一気に赤面した、自分の顔を鏡で見るといたたまれなくなって顔を伏せる。


「いつから居たんだよ!なんだよ!!」

「…」

ドンへは何も答えない。

何故気付かなかったんだ?いつから?今、見られてた?

色んな考えがヒョクチェの頭を交錯する。

「…っ。なんでお前がここに…」


ドンへは、無言のままヒョクチェに近づいて来た。

そして、顔を背けるヒョクチェのすぐ後ろまで来て、膝をつく。

それは、吐息を感じるくらい、近く。

「…たまに、来てたでしょ。今日は、家に行ったけど居なかったから…来た。」

「なら声くらい…」

ヒョクチェの必死の声を遮り、ドンへはヒョクチェを後ろから

そっと、抱きしめた。

「ねえ、今、何してたの?」

ドンヘが静かに、尋ねる。

「ドンへお前…」


ヒョクチェを抱きしめていた右腕が、ヒョクチェの太ももへと、移動した。

「ヒョクチェ、今、何してた?」
ドンヘが含みを持たせて、また、同じ事を聞く。

吐息が、ヒョクチェの耳にかかった。

「…っ!」

敏感になっていた体に、人の温度を感じてヒョクチェの体が強ばる。

「なんだよ、おかし、い ドンへ…!」

今まで一度も見た事がない、様子のおかしいドンへに完全にヒョクチェはパニック
になった。

ドンへは、抱きしめた腕を解いたかと思うと、そのまま立ち上がり
ヒョクチェに手を差し伸べる。


「シャワーでも、浴びたら?」

いつもみたいに、ドンへがへらっと笑った。

混乱した気持ちの中で、いつものドンヘを見つけたヒョクチェは一瞬だけ安心
を覚え、その手を取ってしまう。


その手を強く引かれると、強引に歩かされ、ヒョクチェはまたパニックになる。

「…ドンへ!何、ドンへ痛いってば!放せよ!」

ドンへは無言のまま、手を引いてシャワールームへとヒョクチェを押し込む。

そして一気にシャワーの栓をひねると、冷たい水が噴出し、服を着たままの
ヒョクチェを濡らした。

「ドンへ!ドン…」

やめろと叫びながらドンへの肩をつかんで顔を見つめると、ドンへは泣いていた。
静かに、涙が流れて、それをシャワーが掻き消して行く。



「ヒョクチェに、言いたい事がある。」



ドンへは、涙を流しながら、そう呟いた。









To be continued...




2 件のコメント:

  1. Katieさん、こんばんわ。
    ウォンヒョク小説続き、待ってましたー!嬉!
    いつも、Katieさんの書かれる文章や言葉たちに「おぉっ・・!」と感心させられてしまいます。。
    愛を欲しがるライオン。。の文章のくだりとか、どっから湧いてくるんですか・・?!凄いです・・

    黒ドンへさんがちょっと怖いところですが(;シウォンさんとヒョッチェには早く幸せになってイチャコラ
    してほしいです(笑)
    仕事で疲れた体にホ☆モという名の栄養ドリンクが効きました~!(^^)
    ありがとうございます♪(‥コメントの記入の仕方がよくわからず、変な風になってたらすみません;)

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    1. >Umee様

      Umeeさーん、有り難うございます!
      いつもいつもお待たせしてしまってすみません〜
      その代わり愛情込めて書いていますので、楽しんで頂けてとっても嬉しいです♥

      ライオン…の下りは、好きなバレダンサーにホセ・マニュエルという男性が居るのですが
      その人のTangoが本当に獰猛で野性的で、でも慈愛に満ちたその体の動きが凄く印象的で
      ついシウォンさんの愛し方に重ねてしまったのです。

      それを見たヒョクチェが、愛をダンスに昇華して…って、書きたかった下りなんで
      凄くHappyです、うふふ。

      ドンへさん、怖いですね〜笑
      私のドンへに対する偏愛が火を吹いています。ふふ

      ドンへはいつだって重い愛を抱えていて欲しい。
      写真を見るたびに思います。哀愁のある瞳とか、よくヒョッチェの首を押さえつけてる写真とか
      そういうのでむくむくと…妄想が…(白目

      ちょっと今週は、ウォンヒョク、ウネともに火がついてますのでまた近日中に短編でも
      アップしようと思っていますので、そちらも宜しくです〜!
      ホモ注入♥

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