2012年10月15日月曜日

Happy Together vol.13






Happy Together vol.13












ドンへは、道を挟んだ通りの向かいからヒョクチェのレッスンを眺めていた。

ガラス張りで中の見える教室は、明るく輝いていて、こちら側はきっと見えない。

眺めているうちに、空はどんどん暗くなり星が、きらきらと瞬き始めた。

綺麗な星は、凄く遠くて…やっぱり凄く、遠い。




遠いよ、ヒョクチェ。



ここに居る事に、この想いに、きっと気付いてはくれない。



ドンへはじっと、ヒョクチェが子供達にダンスを教えるのを観察する。

ダンスは、物心ついた時から、一緒に踊っていた。

高校を出て少し経つまで、いつか一緒にダンスチームを組もうと約束して
共に夢を追っていた。


でも、家庭の事情で家業を手伝う事になりドンへはきっぱりと踊る事をやめた。


未練はもちろんあったけれど、家族を支える事が、俺には重要だった。

ヒョクチェも同じように思ってくれていて、最初は沢山一緒に泣いたけど
最後には、お前の分も俺が夢を叶えると言って、支えてくれた。

そして本当に、ヒョクチェは自分の苦しい環境の中でも
見事に夢の為に頑張って頑張って…
来週のオーディションまでの道を勝ち取った。


いつも、きらきらと楽しそうに、夢を語りながら踊るヒョクチェを見ている事が
幸せだった。


この6年間、ずっとヒョクチェの踊りを傍らで眺めて来た。



だから、分かるよ。



―――恋してるんだろ、ヒョクチェ。



ヒョクチェの感情は、必ず踊りに現れる。
たった一つの感情の矛先。

いつだって冷静で、中々個人的な感情を露にしないヒョクチェは
踊りで全てを語る。

そして、今日は見た事のない、迷いがあった。

焦燥感、躊躇い。

子供達に踊ってみせるヒョクチェの手から、足から、体の動かし方から。

ドンへは感じ取った。

暫く眺めていると、子供達が散り散りになり、教室から一人、一人と消えて行く。



迎えに来た親達の車に乗って帰って行く子供達が、レッスンの終わりを告げた。

ドンへは、この後どうするかを考えると苦しくて

夕方会ったばかりのソンミンの連絡先をポケットから取り出し、メールを書く。

言葉少なに、自分を諌める為に、ドンへはソンミンに気持ちを綴った。
誰にも言えなかった気持ちを分かってくれる人が居て本当に嬉しかった。

少しだけ、弱音を吐きたくて。

メールを送りながら、胸一杯に涙が広がって行くのを感じた。


一人は、悲しい。
でも、気持ちを伝えずに、ヒョクチェを責めそうになってしまう自分が嫌だ。

伝えよう。

伝えて、俺は俺なりに、努力をしよう。



ドンへは、暫く考え込んで無理矢理に自分の気持ちに前を向かせると

ヒョクチェがこれからオーディションの練習を始めるであろう教室へと向かった。








==============================








――「ドンへ!ドンヘ、放せ…」

濡れた髪を振り乱して、ヒョクチェが体を捩らせた。

ヒョクチェの、白くはだけた胸元にちらほらと散る、薄赤のキスマークが
ドンへの気持ちを激しく掻き乱す。

血の気が引いて体が冷えていくのに反して…

頭の芯がかっと熱くなるのを感じた。――









ドンヘが教室に入ると、オーナーと出くわして挨拶をし、鍵を預かった。

時折練習を見てヒョクチェを待っているドンへとオーナーは、仲が良い。

いつもより緊張した足取りで、それでも慣れたその廊下をいつも通り進むと
ドアの隙間からヒョクチェがストレッチをしている姿が目に入る。


なんとなくその姿が艶かしくて、オーナーの車が発車する音を聞きながら
ヒョクチェに声をかけずに、そのまま少し、ドンへは立ち尽くした。


そうしている内に、目を閉じたままこちらに気付かないヒョクチェは
持て余したようにおずおずと自分の体に指を這わせ始める。


ドンへは驚いたけれど、どうする事も出来ないまま、息をひそめた。


どうしよう。
――――帰った方が良い。


心はそう告げるのに、ドンへは動けない。

辛そうに、自分の体に触れるヒョクチェにドンへの頭は真っ白になる。

静かな教室に、控えめなヒョクチェの息づかいが響いた。


これじゃ、覗きと変わらない。


気付かれないうちに、ここを去るんだ。


ドンへの心はもう一度自分を促す。


でも、目が、離せなかった。


無邪気でいつも子供みたいなヒョクチェが、艶かしい大人の顔をする。
ピンク色の舌が覗いて、唇を舐める。
そして、小さく声を漏らして、腰を捩る。


鏡越しにドンへはヒョクチェの顔を伺った。

可愛い、白い歯を覗かせた口は、言葉にならない言葉を、発する。



"――――シウォン…"



その口は、そう動いていた。




ドンへは止められなかった。
体中を嫉妬に支配される。



気がついたら、シャワー室にヒョクチェを押し込んでいて。
他の男の匂いと、証を体中に纏ったヒョクチェが憎くて、全部洗い流してやろうと
思った―――…。









ヒョクチェの、混乱して怯えたような、ドンヘを見る瞳が悲しくて、苦しくて
堪えていた涙が、溢れた。


「ヒョクチェに、言いたい事がある…」



精一杯、言葉を絞り出す。


冷静になれ、冷静になるんだ。


呼吸を妨げるように流れ落ちる水のせいで、ヒョクチェが赤い唇を大きく開いた。
「っはぁ…ドンへ…何…なんだよ」



冷たい水の中で、するすると流れる熱い涙だけが、ドンへの体を
そこにあると感じさせてくれる。


ドンへは、ヒョクチェの手を取り、涙の滲む頬に手を当てさせた。


「…ここに、いる俺のこと…気付いて。」


「なに言って…」


ヒョクチェが開いた手で顔に流れ続ける水を払いのける。

今度は掴んだ手を、自分の胸に、移動させた。





「好き、なんだ。」





「…え?」






「好き。ずっとずっと、お前のことが、好き。」





ドンヘは、シャワー室の壁にヒョクチェを押し付けたまま覆い被さる。



ヒョクチェは、ドンへの苦しそうな…熱い息遣いを、肩に感じた。



「え…何?ちょっと待って…」



ドンへの胸に当てた手が、早鐘のように打つドンへの鼓動を感じる。


水の流れる音と、ドンへの嗚咽だけが、耳に響く。


「冗談…じゃ、ないよ、な…」


シャワーの温度が、少しずつ温まり、冷えて緊張していた体を優しく暖めた。



「どうしよう…ヒョクチェ、俺、止まんない…」
ドンヘが掴んでいた腕を離し、ヒョクチェの顔を両手でそっと包み込んだ。



今にも唇が触れそうな距離で、ドンへはヒョクチェの瞳を見つめる。

もう、涙は流れていなかった。
その代わり、熱で浮かされたような熱い視線が、ヒョクチェを捕える。


「ま、待って、何、あっ…う」


ヒョクチェの言葉を遮るように、ドンヘがヒョクチェに唇を重ねた。


ヒョクチェは全力でドンヘを押し戻す。


「…っにすんだよ!!ドンへ、おかしい!」


引き離されたドンへは、子犬のような顔をしてヒョクチェの顔を流れる水を拭う。


「おれのこと…嫌い?」


「…っ」


「俺じゃだめ?俺じゃ、さっきみたいにお前に欲情してもらえない?」


「…!!やっぱり見てたんじゃ…」
ヒョクチェは、恥ずかしさで顔から火が吹くような気持ちになった。


けれど、ドンへはそんな事は意にも介さず、声を荒げた。
「悔しい。ずっと俺だって、おまえのこと好きだったのに。」


ヒョクチェの顔を挟んだままの、ドンへの手が少し震える。


「…ドンへ」


「俺も同じ所に、立たせて。」


「…どういう意味?」


「シウォンさんだろ?ヒョクチェの心を独占してるの。」


「なんで…」


「分かるよ。」


「ずっとおまえだけ見て来た、俺をみくびらないで。」
縋るようだったドンへの眼光が、一瞬だけ強く光る。


「もう、遠慮しないから…。ヒョクチェ、俺の事もちゃんと意識して…」


「え、あ…」
ドンへの手が、ヒョクチェの濡れて張り付いたタンクトップの中に滑り込む。



「待て、ドンへ、待てってば、ちょっ…」



滑らかなヒョクチェの腹筋に、ドンへの手が強引に這う。


「少しだけ…少しだけ、おれの好きにさせて…」

「おねがい。」


なんだか自分に触れるこの手を知っているような、そんな感覚が頭を混乱させる。
長い間、慣れ親しんだ触れ方。


「いつから、だよ。」


驚きが大き過ぎて、全身の力が抜けて行く。
ヒョクチェは、ドンへのしたい様に体を触らせながら…聞いた。


「ん…。中学くらいのとき…」


ヒョクチェは、頭を石で殴られたような衝撃を感じた。


長い、そんなに長い間…。


ドンへの手が、ヒョクチェの腰を撫でる。
体は快感に素直に反応し、ヒョクチェの腰がビクンとはねる。



――――俺は全然、気付いてやれなかった。



いつも、笑ってそばに居てくれた。
俺は楽しい気持ちばかりで、ドンへの深い気持ちなんて、気付きやしなかった。

こんなに、思い詰めたんだ。

俺が追いつめたんだろうな。

ドンへの気を知りもしないで、きっと無神経な事を何度も言ったりしただろう。




俺は、俺が出来る事は――――…





息を大きく吸い込んで

ヒョクチェは、ドンへの体を強く、抱きしめた。





ドンヘが驚きで動きを止める。


温かい水が、二人の体中を濡らし、二人は同じ温度になって行く。


「ごめんな、ドンへ。」


水が、抱きしめた腕から、ドンへの体に流れ、染み込んで行く。


「好きにして、良いよ。」


ドンヘが目を丸くして、ヒョクチェを見上げた。


「気が済むように、しろよ。」


ドンヘを見つめる、真剣な目に、ドンへは脳が蕩けそうになる。

ヒョクチェの唇を、あたたかい雫が伝って、ドンへの胸元に落ちた。

ヒョクチェの悲しそうな、辛そうな、真剣な眼差し。


これは、ヒョクチェのただの優しさだと、分かっていた。




でも、それでも――――…


朝が来てしまうのを怯えずに済む事が、ドンへは何よりも嬉しかった。











To be continued.....











8 件のコメント:

  1. こんにちは♪
    2日続けて小説UPしてくださり、ありがとうございますー!
    一気に読んでお話の展開に…打ち震えました笑(゜ロ゜;)

    ドンへさんの、心に溜まっていた澱のような重い愛が‥ついに吐き出されましたね。
    それを受け止めてあげようとするヒョクチェの深くて広いやさしさに‥心打たれます(;;)

    しかし。。シウォンさん大好き、シウォンペンの自分は、「ドンちゃん…それ以上は、、ストーーップ!!\(-Д-;)」と叫んでしまいそうになります(笑)

    この続きが楽しみでもあり、怖いような‥(^^;)
    次読むのドキドキしますがまた心待ちにしてますねー☆

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    1. >Umee様

      ぴゃー!コメント有り難うございます!
      確かに、打ち震えるレベルの急展開…ですよね…
      私も、ドンへさんが私の中でどんどん勝手に動いて行くので困っています。
      ピュア過ぎる暴れん坊です。

      ウォンヒョクはウネあらずして生きないとまで思っているので
      随分ウネウネしておりますが…ご安心くださいませ、私も熱烈なシウォネストなので(笑)

      ドンへにも、シウォンにも熱烈に愛されるひょっくんを暫しお楽しみください。
      展開を吐いてしまいそうになるのでこれ以上はお口にチャックをしますが、
      きっとドキドキ(良い意味で)してお待ち頂ける内容に、発展して行く事は約束致します!

      サランへ♥

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  2. 一昨日からウネ動画を観る機会が多かったので、もうこの光景、目に見えますね(:_;)
    ウネを読めば、ウネもいい! ってか、Katieさんの力?
    ドンへ、好きにして! って心で叫んじゃいます。
    優しいシウォナも辛いだろうな・・・。

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    1. おおお、LILY様もウネ動画ご覧になられていますか?

      まだまだ少ないウォンヒョク動画に対して、ウネ動画は充実し過ぎている程に秀逸な物が多くて
      ついつい観てしまいます!
      キュンキュン、萌えてしまう物が沢山ありますよね!
      そうして夜は更けて行くわけですが…(白目

      シウォナ(ウニョクペン)様は、ヒョクのそういう所も全部含めて愛してくれるって信じています。
      そして…辛くても、イケメン!
      そんなシウォナを早く活躍させたいです。うふふ。

      コメント本当に有り難うございます!
      早く更新しよーって思いました^^

      サラハンダー♥

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  3. パスワード教えていただいてありがとうございました!
    ウォンヒョクいいですねー。お話のうまさにひきこまれていって、続きが気になって仕方ありません!
    そしてドンちゃんが可愛くて、かわいそうで(涙)。そしてそしてキュミンはどうなるのかが実は一番気になります(すいません)。
    これからも頑張ってください!
    パイ

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    1. >パイ様

      わーん、早速いらっしゃいませ〜!
      どんちゃん、可哀想ですよね。一番感情移入して書いているので、私もハートがボロボロです。白目

      キュミン!キュミンはタイミングを見てこれからも登場して行きますので、お見逃し無く!
      有り難うございます♥

      Good night!

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  4. 先日、パスワード請求のメールをさせていただきました茶クロと申します。

    一気に読んでしまいました!!
    愛されヒョックが大好きで仕方ない溺愛ペンとしましては、怒涛の息つく間もない展開で・・・
    この間まだ2日くらいの出来事なんですよね・・・・
    手に取るようにウンシヘ3人の表情が思い浮かび、まるで映画を観ているようです。
    メンバ全員出していただけるということで、この先83がどう絡んでくるのか~~O(≧▽≦)O
    怒涛の展開ですが、まだまだこれからひと波乱ふた波乱と待っているのでしょうか?!
    Katieさん、すばらしいです!!!(T ^ T)
    早く幸せになって欲しいような・・でもそうすると話終わっちゃうから、もう少しこの世界に浸っていたいような
    すみません、めちゃめちゃテンション高くて、え?引いてますか?あ、行かないでください(必死)

    ちなみにこの題名、すっごく好きなんです。
    自分の座右の銘にしたいくらい。
    この曲とLovely daysが私にとっての神曲でして・・
    話の展開、雰囲気的にはHappy togetherよりもLovely daysよりかな?
    とにもかくにもお話の続き楽しみにしていおります!
    お仕事もお忙しいと思いますので、無理されず頑張ってください。
    今月のイスマンのATMはものすごい忙しいですから(^^;
    どうか通勤の大切な萌時間が確保されますように!(笑)

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    1. >茶クロ様

      うおおお
      コメントどうも有り難うございます!
      飛び上がる程嬉しいです…涙

      そうなんです、なんと、まだ2日目なんですね!!
      恋のスピード感を、かのドラマ、24Twenty fourばりに演出してみた訳です…
      一目惚れって、こんなもんなんですわ。きっと。(遠い目

      やっと次から3日目に突入するんですが、私も続きが楽しみです。
      どう彼らが動いてくれるか、凄く期待しながら書いています^^

      83Lineは濃厚ですよ。
      大好きなので、ブァーーーン!と出します。
      もうちょっと後になってしまいそうですが…
      波乱はありすぎる程にある気がしています。その度に収束させるのが大変そうで
      想像すると肩が凝りました。笑
      個人的には早くハンギョンを出したいんです。

      その為にはウンシへキュミンをもっとスピーディに動かさなければなりませんね(笑)
      暫しお待ち下さいませねっ!

      Happy Together私も大好きなんですよ〜
      あんなに幸せな曲なのに、行間を読むというか、色んな事経験して来たからこそ歌い上げられる曲
      だと思っていて…

      Lovely Dayに関して…これ、正にシウォンの心境です。
      シウォンさんの気持ちはLovely dayなんです。
      Oh no~!
      茶クロさん、凄いです。
      なんか、記念に、記事に貼っておきます、私が聞いてるLovely DayのURLを…!
      SS4 Osakaの映像です♥

      優しいお言葉もどうも有り難うございました!
      今日も夜更かししてウォンヒョク収集してしまわないように、早く寝ます。笑

      茶クロ様も、お休みなさいませ〜
      サラハンダ〜!



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