2012年11月4日日曜日

Happy Together vol.19







Happy Together vol.19












キュヒョンは、太陽の高い午後の青空を、大学へ向かうバスの中から眺めていた。


眠い。


ピンチヒッターを頼まれた録音を終え、今頃眠気が襲って来る。


ゆるく羽織った白のカーディガンが少し暑くなって来たが
面倒で脱ぐ気にもならない。



————イ・ドンへ。



ドンへ。聞き覚えのある名前だ。
確かにあの飯店で何度か耳にした事があるかもしれない、と思う。




"ドンへって知ってる?"

リョウクから、休憩の時に突然尋ねられた。

"知らない。"

何の気なしに、キュヒョンはその時、答えた。

"そっか〜。ソンミニヒョンが昨日、一緒に来てたんだけどね。
うちの別口の常連さん"

"昨日?"

"うん、夕方前くらいかな?珍しい組み合わせ過ぎて驚いたよ!"

そう、リョウクは無邪気に笑った。

キュヒョンの中で、むくむくと黒い感情が沸き上がるのも知らずに。

"どんなやつ。"
別にどうでもいいけど、みたいに聞いてみる。

"んー、良いやつだよ。
僕たちの幼なじみみたいな…ああ、すっごい格好いいよ。"

"あっそ。"

"…なに。聞いといて。イケメンに嫉妬?"

"あぁ、そういうのめんどくさい。"
キュヒョンは、ペットボトルの水を飲みながら投げやりに答えた。

"はいはい!分かったよ。じゃあ続き始めよ。"

イェソンが、なんだか心配げに俺達二人を眺めている。

それに気付き、少し気分が良くなって楽譜を広げ始めたリョウクの細い肩を
キュヒョンはわざとらしく抱いてみた。

"リョウギごめん、ちょっと眠くてさ。"

"いっ いいよ、なんなのちょっと。"

"何が?"

"……。"



"リョウク、ちょっと来い、マイクの調子が…"
イェソンが、取って付けたようにリョウクを呼びにかかる。
見え透いた嘘だ。

数秒後には、調子なんか悪くないじゃんという問答が始まるんだろう。

"あ、OK。ほら離して。"
それでもリョウクは俺から逃れて、嬉しそうにイェソンの元へと向かう。



下らない。


愛とか、恋とか。


面倒くさい。


執着するのも、されるのも、体が鉛みたいに重くなるだけだ。


キュヒョンは、大きなあくびをした。

大学までの後少しかかるバスの時間を寝て潰そうと
背負っていたリュックを窓に押し付けて、枕にして目蓋を閉じる。


緩く揺れる、温かい陽光。


———ドンへという男の事なんかどうでもいい。


今夜は、ソンミンとワインでも飲みたい。

勿論、それだけじゃないけど。



こんなに気持ちのいい、胸くその悪い日は、ワインと、ソンミンに溺れたら
丁度バランスが取れるだろう。


多分。











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エレベータの扉が開き、目と目の合ったその人物とシウォンは
お互いに口を押さえた。





「————副社長。」



「…あー…。これは、だな…」



ヒョクチェは、あまりの事に恥ずかしいのも忘れて唖然と振り向くと
知り合い?とぼんやり尋ねた。


「うちの…」
シウォンが説明しようと口を開きかけると、その人物が鋭い手つきで遮って
それから自分のスーツの襟元をピンと伸ばして、言い放つ。


「私、SM Corporationのシウォン副社長付き第一秘書、チョウ・ミでございます。」


「だ、そうだ。」
困り果てた顔で、シウォンが額に手を当てる。


秘書だというその人物は、シウォンよりもほんの少し高い、恐ろしい長身で
とてつもなく冷たい表情を浮かべている。


ヒョクチェは、自分に向けられるあからさまな敵意を感じてハッと我に返った。

そして一気に耳まで真っ赤に染める。



「ああ…えーと…これはその…」


「ヒョクチェ、大丈夫だから。」
シウォンがそっと、壁に寄りかかったままヒョクチェを抱き寄せる。


「馬鹿ちょっ…」
ヒョクチェが、身を捩らせて抵抗した。


「あなた!馬鹿とはなんですかうちの副社長に!!」
秘書が言葉に反応し、声を荒げる。


「チョウミ!!」


「はい、なんでございましょう?」


「…ちょっと…車で待っていてもらえないか…説明は後だ。」
シウォンが人差し指でくるくると宙に弧を描きながら、珍しく弱い口調で
懇願した。


「…ふん。…畏まりました。いいでしょう。5分以内にいらして下さい。」


「分かったよ…」


チョウ・ミという秘書は、ツカツカと革靴の音を響かせて駐車場へと消えて行った。
まるで女性モデルの様な身のこなしだ。

どことなく異国の雰囲気を感じさせたその容貌と、名前からして外国の人なの
だろう。


シウォンの会社の人。

見られた…。


ヒョクチェは、小さなパニックが頭の中ではじけるのを感じて
床にしゃがみ込んだ。


「……。」


「ヒョクチェ。」


「…ごめん、俺が…。」


「いや、何も謝る事は無いよ。」


「でもバレただろ…あれ…」


「ヒョクチェ、俺としてはいつでも君への思いは公言出来るんだ。
気にするんじゃない。」


「え…ああそう…」
衝撃的なことを言われた筈なのに、ヒョクチェの思考は処理を仕切れない。


「…混乱してるな。」
シウォンは些か不満そうに呟く。


「そうかも…」


シウォンは、しゃがみ込んだまま頭を抱えていたヒョクチェの肩を叩き
立って、と合図する。


「じっくり話したいんだが、時間がないらしい。仕事の時間だ。」


「ああ、大丈夫だから…行って。」
よろりと立ち上がったヒョクチェは、柔らかい金髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜて
また両手で顔を覆った。


シウォンは、間髪を入れずに耳元に口を寄せる。


”——気持ちよかったよ。”


そう、囁いた。


ヒョクチェは一瞬フリーズすると、真っ赤になって顔を上げる。
シウォンは既に、エレベーターを出て数歩先を歩いていた。


後ろ手に、ひらりと手を振って、メールを入れるよと言って一瞬、振り向く。
シウォンは悪戯っぽい笑みを浮かべ、ウィンクした。



それは、卑怯だぞ、シウォン!



冷静と理性の塊みたいな男が、時々覗かせる年相応の悪戯な表情に
ヒョクチェの理性は根こそぎ持って行かれてしまう。


ちゃんと、自分に集中しなくちゃならないのに。


こうやって、非現実の王子と手を振ってさよならをしたら
俺の現実が待っている。


少しだけ、背中に震えが走った。


それは、武者震いと言う名の、震え。


オーデォションまで約一週間。
シウォンに会う度に、体が踊りたいと訴えていた。

少し、新しい世界を知った俺の体が、新しい踊りを踊ろうとしている。


ドンへに、見せたい———。


"これ、新しい振り付け!"

"すっげー!超格好いいよ、ヒョクチェ、それ最高"

"だっろ。お前なら分かってくれると————"


いつもの、これまでの日常を思い出して、ツンと鼻の奥に痛みを感じた。


駄目だ。


駄目だ。


オーディションに落ちる事は、ドンヘも悲しませる。

これ以上、悲しませてどうする?

俺は、人を笑顔にしたい。

俺に出来る事は、踊る事。

皆を連れて、華やかな舞台に立つ。



新しい世界を、俺が皆に見せるんだ。



揺らぐな、俺の心。



必ず、俺のオーディションは見に来いよ、ドンへ。



テレパシーがあるかのように、ヒョクチェは強く念じた。

居ずまいを正して、バイト先のスタジオへの道を歩き出す。



晴れ上がったソウルの午後。

爽やかな風がするりと流れていて、それはヒョクチェの心を優しく撫でながら
立ち止まりもせずに通り過ぎて行った。







To be continued...




※はぁはぁ!間に合った!
今日中にUPしたかったんです。ライトだからこれを単品で上げるのも戸惑われ…
昨日の濃厚さと一転して、ストーリーを転がす為の一話でした。

さあ、皆動き出せ!!
83Line周辺が未だ足並み揃っていませんが、徐々に徐々に〜。

ふぅ、今週の週中日は、画像フォルダの整理が終わったのでSS4のウォンヒョク大放出に充てようと
思っています。
他にも最近のウォンヒョク動向で書きたい事は沢山あるのですが、ゆっくり…頑張るぞ…
ウンシへSMプレイの構想を抱いてしまったのですが、書いておかないと蔵入りさせてしまいそう
なので、ここに宣言します!ウンシヘでSM短編、か・く・ぞ!

ではでは。お読み下さって有り難うございました…かしこ。







16 件のコメント:

  1. チョウミwww
    ずいぶん考えてみたんですけど、思いつきませんでした!負けたぁ~笑

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    1. >arata様

      うふふふふ!!
      やったー!
      この過激なお姉様は、秘書でしかありえない、そして家政婦は見た!みたいなシチュエーションが最高に似合う!
      そう思って温めていたのでした。(笑)

      18話の「ヒッ!!」は、オネエ風でご再生頂ければ幸いです。(笑)

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  2. Mのメンバーも! チョウミお姉さま、私も好きです。なぜかは、言えない。
    小説の中のぎゅ、可愛げないけど、可愛い。
    描き甲斐ありそうですね。
    そして何度も観てしまう、7周年のキュヒョク映像。あ、今、関係なかった。

    ウンシヘ! 大好きなウンシヘ! またアップ時に倒れちゃうじゃないの!

    ちなみに、一つ暴露しますが、私、元S嬢です。てへぺろ。

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    1. >LILY様

      もちろん!13人のSJで構成したいと思っています!!♥

      ミーミ姉様、最高ですよね!!
      安定のおねえ訳で、happy togetherにも出演してもらいたいと思っています!

      キュヒョンは本当に書き甲斐がありそうです。
      今書くのが楽しい人TOP3に入ってます!いやぁ…キュヒョク、しますよ。もちろん。
      どのようにかは未だ秘密ですが…書かずには勿体ない!SJビバヒルですからね、コンセプト。
      そのくらい荒れてもらわないと(笑)

      ってか…元S嬢様ですか!!!
      踏んで下さい!踏んで!お願いします!
      大好きです!←
      私ハロウィンでは鞭を持ってふるって参りました、S嬢に憧れる女性にはどMなピョンテでございます…
      しかしそれはちょっと、本気でSM書かないといけませんね。
      ぬるい物は書けん!今、腹に決めました。(笑)

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  3. こんばんわ、tahrです。
    一気に2話読ませていただきました。
    かわいいなーヒョク。
    デレヒョク半端なくて何回も読んでしまいました。寒くなりましたので体に気を付けてくださいね。
    でも、続き、、、待ってます!!

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    1. >tahr様

      お越し頂きありがとうございます!
      相変わらず遅めの更新ですがお待ちくださいませね~!!><

      ヒョクたんは無邪気からのツン、ツンからのデレが最高に可愛いですよね。
      でもあくまで男の子らしい反応がツボです、、ふふ、、

      温かいお言葉有難うございます…
      嬉しくって元気いっぱいです!頑張ります!

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  4. 18話と同日の19話up……まるでご褒美のようで、嬉しいですね~❤

    チョウミ……そっかぁ~、それはさすがに思いつきませんでしたww

    秘書……確かに、よく似合いますよね。

    若しくは、シウォンのような二代目でも、すっごい馬鹿な放蕩息子……とかも面白そうだな~w


    すみません……これからのキュヒョンの動向も気になるところですが、
    他にも色々と感想を書こうと思ってたんですが……

    最後のウンシヘSM短編の一言に、目が釘づけで……
    全部全~~部吹っ飛んでしまいました(目が爛々です)。

    お陰様で……他のことに思考が働きませんww


    短編のUPも、首を長くしてお待ちしております!

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    1. >adelaide様

      うふふ、続けて書いてしまいました!
      ホモ小説を…お茶のお供にどうでしょう♥(笑)

      チョウミさん似合いますよね!芸能ごと以外なら絶対美しくブランド物の
      スーツを着こなす様な、そんなお仕事をしそうだな~って。
      なんか、チョウミさん、社長子息役をドラマか何かでやられるみたいですね
      これ描いた後に知りました。
      それも面白かったかもです!
      意地悪で、少しずつ優しくなっていくような役どころらしく
      ちょっと見てみたいなーとか。

      中国人の友達が、あれ、中国語でも割とおねえ喋りだよ…
      って教えてくれたんですけど、ドラマ大丈夫なのか気になるところですね。(笑)

      ウンシヘSM、私も書きながら最高に楽しいです。
      でm、自分のどSさに飛び上がりました!
      読者様達に引かれないようにがんば…ります…!!

      割とハードコアかも…

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  5. Katieさま
    お元気になられて何よりです。
    体調を心配しつつも、続きを楽しみにしておりました。
    もー、萌え萌えでございます~>_<~
    欲望に忠実に、グイグイいっちゃってくださいませ!

    で、うちの可愛いギュは、幸せになれるのでしょうか。
    それだけが心配でございます。
    マンネはブラックが売りですが、どうぞ幸せにしてやってくださいませ。

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    1. >バーバラ様

      有難うございます―!!
      良かった、萌えが尽きる前に投下出来てセーフ!
      「もえもえ~」なヒョクちゃんにちゃんとふさわしいような萌え萌えストーリー
      目指してますので、ギュもちゃんと幸せになれるように頑張ります!

      ギュったんは、シウォンさん、ウニョク、ドンヘに次いでお気に入りですから!(笑)
      可愛い子ですよねえ。ふふ…
      でも暫くは黒に徹して頂きます!
      彼のブラックっぷりが書きたくてたまらなくって♥

      続きをお楽しみにお待ちくださいませ~!ヾ(o´ェ`o)ノ

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  6. もーミーミ姉さんでしたか!これまたドンピシャリなキャスティングですね♪
    出て来るみんながみんな、ピッタリこのお話にハマってて、
    本当に人材豊富ですよね、smエンターテイメンツ。
    またその人材を指一本で華麗に動かし操るKatieさんの手腕に惚れ惚れしますよー☆
    あ、esh・smプレイも楽しみに待っていますね!涎を垂らして・・・キュヒョクも!

    ところで、このタイトルの写真、すっごくいいです~!><
    Happy Togetherのウニョクは、まさにこのイメージ。
    本当にお月様みたい・・・カワイイ♥
    特にこのひょくちゃんは丸くてまるで萩の月みたいです^^

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    1. >りも44様

      書きながら人材豊富だなあって私も思いました。(笑)
      どんなキャラ設定考えても、自然とはまってくる人が居るんですよね…
      チョウミさんは可愛いオンニだと思うので、それをからかうヘンリたんをどこで出そうかうずうずしてます!!

      写真、私もお気に入りなんですよ〜!!
      すこおしお月様度が上がるように光を入れて加工しましたが、元の画像もほんとにまんまるで
      躍動感があって美しい写真でした。
      踊っているヒョクチェは何よりも美しいですね… ><

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  7. 18話、19話種明かし編(笑)と、しっかりじっくり堪能させていただきましたー♪
    ミーミオンニ…!!だったとは、全く気付けませんでした;
    秘書って!まさにイメージにぴったりですね///
    私もミーミさん好きです♪女子の鏡として←見習わなければいかんことたくさんありますね。。(遠目

    そして、卑怯で悪戯なチェシウォン氏のフェロモンヌ(笑)の前に、私はひれ伏してしまいそうです。
    (髪も敬愛するあの方のように伸ばすと宣言されてたし、髪型ペンとしてはもう崇めるしかないですね、ええ。)

    リアルでもシウォンさんは紳士、王子と言われながら実際、誰よりもおふざけ&悪戯好きですよね。
    心の底から楽しんでやってますよね、本当。特にヒョッくんとか、ヒョッくんとかに…(妄想

    SS4!魔のSS4=ポルノ、でしたっけ!?笑
    ウォンヒョクペンには堪らない、大興奮のサジンを大放出とは…////
    これは鼻血が留まるところをしりませんねっ!もう大変!!
    小説もですが、Katieさんの書かれる記事、大好物です。大好きです←
    また楽しみに待ってまーす♪(´∀`)

    めっきり冷え込むようになったので、どうかご自愛くださいね\(^^)

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    1. >Umee様

      みーみですよみーみ!うふふ!
      彼とっても眼鏡クイっ!!が似合うから…あと冷たい口調の女性的嫌味とかもすっごく
      似合うと踏んで(笑)
      M活の時のヘンリとの珍道中を参考に、どんどん私の中で動いてくれそうなので期待しているのです!うふふ


      そしてシウォンさんは絶対駆け引き上手だと思うのですよ…
      悪戯な笑みで意地悪な駆け引き、相手が絶対ポカンして頷くしか無い様な駆け引きを
      なんとも俳優顔でこなせる偉大な人物なんですよ…フェロモンヌ!!
      あの髪型、絶対ドラマ終わるまで継続してくれると思うので本当に嬉しいですね!
      世の髪型アンチさん達が何故あれがいけないのか本当に分からないです(真顔)

      SS4ポルノ後半戦、待ってて下さいね!
      ちょっと寒気の走った皆さんの心がいとも簡単に蕩けるのは請け合いでございます///

      Umee様も、お風邪等召さないようにお気をつけ下さい!

      いつもコメント、本当に嬉しいです。
      ありがとうございます♥♥

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  8. こんにちは、はじめまして。
    パス以外、溺れるように物語の中にダイブさせていただきました。


    うっわー・・・濃いわ。

    キャラの掘り下げ方も、色々と人物が交差してるのも。


    うん、いいの見つけた。

    私の腐の嗅覚素晴しー!!

    ふふふってらしくもなくミン君笑いになってしまいます。

    続き楽しみにしてます。

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    1. >ぶひひ様

      いらっしゃいませコメントですねー!有り難うございます!!

      こ、濃いですよねw裏にした方が良いんじゃないかと言うくらい濃い物も
      表に置いていて猥褻物陳列罪で本当にすいません!!ひー!

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