2013年1月14日月曜日

Happy Together vol.23








Happy Together vol.23
















大学構内。
ソンミンの助教授室。

夕方のオレンジの空気が、大きめの窓から

優しく差し込む。






「キュヒョナ」


「——なに?」


「あのね、ここの…この日程なんだけど…」
ソンミンが手帳を広げ、講義のスケジュールを説明して来る。


「教授が————人手が———学生の中から……」
キュヒョンは、ソンミンの可愛くパクパクと動く唇をただ見つめた。

話なんかは頭に入って来ている筈も無い。

「ソンミナ」
そっと手帳に手を被せて動作を遮り、今度はソンミンの目を見つめてみる。

「…ちょっと、その呼び方駄目だよ。」

「ソンミニヒョン」

「何、キュヒョナ?」

「唇が、不思議ですね。」

「は!?どういう意味?何か変?」
嫌そうにソンミンは眉を顰めて、唇をその綺麗な指で触って確かめて居た。

「いや、別に変とかじゃないんだけど。なんか薄く、パクパク…ふわふわ?開いて」

「そりゃあ開くよ喋ってるんだもん。」
何なの、という目でキュヒョンを見て来る。

「いや、そんな開き方でその柔らかい声がそこから聞こえてくるのが不思議」

「何言ってんのキュヒョン…それより話聞いて、教授が手伝いの」

キュヒョンは突然、ゆったりと椅子から立ち上がるとテーブルの向かいに座る
ソンミンの隣りにかがみ込む。

「もっとよく、見せて。」

キュヒョンの影が、ソンミンに被さって。

ソンミンの小さく「あ、」

という声とともに、室内にまた静けさが戻った。



微睡むような、暖かさの中。

触れ合う唇の温度は、支えたソンミンの首筋の温度より、少し低い。

押し寄せる安堵と、優しい時間。

眠たくなるようなキスが、キュヒョンは割と好きだと、感じた。














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夜、22:00。

今日はシウォンは練習を見に来なかった。



あの日から、シウォンは毎日のように差し入れを持って練習を見に来て、
終わると少し話して帰る、という習慣になっていた。

最初はおずおずと、窓の外からヒョクチェを眺めていたシウォン。

数回、中で見て居て良いんだと説明すると、何度目からか、自然と最初から
中でヒョクチェを見ているようになった。

スタジオの隅にラフに腰を下ろして。

じっと俺を注視している。


————ドンへがそこに居た時は、正直ドンへがヒョクチェ、それ良いね!とか
野次を飛ばしたり一緒に音楽にのって少し身体を動かしていたりしていたから
見られているという意識は薄かった。


でも、シウォンは俺の踊りを見てる。

少し怖じ気づいてしまいそうなくらい、真剣な眼差しで。

普通なら、居心地が悪いかもしれないくらいの眼差し。

例えば俺が腕を伸ばす動作をしたら、シウォンの視線が俺の肩から指先へと
走る。

電流のように、ピリとそこに気持ちが集中して行く。

腰を動かせば、その腰の描く空気の波をシウォンの視線が包み込む。

人の目を意識するって、こういう事だ。

審査員に見られているのとはまた違う。

審査員は俺を値踏みする。

シウォンは俺を知ろうと、視線で内面まで入り込んで来る。

一瞬一瞬の、表現したい感情の波を、その大きな手で掬うように
受け止められた。

これは、まるでタンゴ。

フロア一杯に埋め尽くされる二人だけの空気。

俺のまわりの空気にシウォンが乗り移ったように。

愛のダンスを踊る。

練習を重ねて行くうちに、いつの間にかそのダンスナンバー中でお互いの
気持ちが重なって行く。

シウォンが俺を愛するやり方で、俺は踊ろうとして。
その愛をリアルに受け取りながら練習をして行けば、心が動かない筈が無い。

憎からず、身体が今すぐシウォンに抱かれたいと叫んでいるような
そんな気がした。


最近は、オーナーのシンドンにまで踊りを凄く褒められる。

無邪気な感じの俺の踊りが変わったと。

ただひたすらダンスが好きだと言う気持ちで踊っていたこれまでとは
断然表現の幅が違うと、言われた。



————この感情は何だろう。



この身体から溢れる気持ちは何だろう。

大好きなドンへに感じていた、一生一緒に居たいという感情、離れがたい感情…
それとは違うこの暴力的な感情は何だろう。



———音楽が、止まる。



ヒョクチェは、今日は一人練習を終えたスタジオの真ん中で最近の日々を回想
していた。



———汗がこめかみを伝い、肩へほとりと落ちた。



もう、来る所までは来ていると思っている。
あの男は、本当に真っすぐに、俺を好いてくれている。


ジェットコースターみたいな、光速の愛情。


後は、俺が答えを出すだけなんだ。


曖昧に、欲望だけを吐き出して今みたいにはぐらかしていられる筈が無い。



———動悸が高まる。



ダンスを終えて肩で息をしていたヒョクチェだったが、疲れからか
迷いからか分からない変な興奮が身体を埋め尽くして行った。



このまま進んでいいのか分からない。
女の子としか付き合った事が無い自分には、これから先どうしたら
良いのかが分からない。


シャワー室に向かおうとタオルを取り、スタジオの隅に投げ捨てておいた
パーカーのポケットの携帯をちらりと見ると
メールの着信でライトが点滅していた。



シウォン。


メールを開く。



”練習頑張ってるかな。こちらは会議だ。まだまだ終わらない。
オーディションは明後日だね。会社からだが、今日も応援している。
god bless you.--シウォン”


その後に来ていた、もう一通のメールも開く。


”ドンへ、見つかったよ。明日説得して必ず連れて行く。取り急ぎ。”



心臓が張り裂けそうになって、一気に体中の汗が乾いて行くようだった。
身体が芯まで冷えて。


「なんだよ、ちくしょう。」


乾いた声が出た。


嬉しい、怖い、苦しい、愛しい、早く会いたい。


———誰に?


なあ、誰に会いたいんだよヒョクチェ?





ヒョクチェは、タオルをもとの場所に戻すと上着を掴んで
足早にスタジオを出た。





ヒョクチェ、イ・ヒョクチェ。

俺は俺だ、大丈夫。

風を切るように暗い路地を肩を抱いて進みながら、ヒョクチェは自分自信に
対して次々沸き上がる質問に下唇を噛んだ。



自分が何を考えているか分からないなんて初めての事だ。

分かんない。

まあ、なんとかなるだろ。

ならないよ、ヒョクチェ。


———また、誰かを傷つけるよヒョクチェ。



「馬鹿、くそ。」



自分を嗜めて、路地の曲がり角に差し掛かった時。


小さく、人の声が聞こえたような気がした。




”———にも———…だろうと…”




歌、だ。


ヒョクチェは足を止める。



この先は、入り組んだ階段があって、そこを上がると一段高い道があって…



それは胸を刺すような美しい歌声で。

気が付いたらヒョクチェは声の聞こえる方に、無意識に足を向かわせて
しまっていた。


声が、近くなる。



”平気なふりをしてきた———…しまった後”



甘く、切ない歌声。
透明感と深みのうまく混ざった、ちょっと聞いた事の無いような声。

どこかからか、漏れ聞こえているのか——…


そう思ったとき、階段に行き当たり上を見上げた。


階段の中腹に腰をかけて、ひざに手を組んで下を向いている男が居た。
小さく、それでも通る歌声で、静かに歌っていた。



”みんな 知っていたんだ 生気のない僕の目を見て——…

幸せだった日々の 僕とはあまりにも 違っていたから———”



ヒョクチェはその場で聴き入ってしまい、時間を忘れた。

ああ、知っている。この歌は。

悲しい、失恋の歌だ。




”君を 愛してるから この世は僕にとっては 大きな感動だった”

”あの瞬間を忘れたら 僕が生きて来た短い歳月はあまりにもつまらない”



なんでこんなに。
空気を裂くように、透明で、温かい氷みたいな———



”戻ろうと思うよ 君を取り戻そうと思う———…”



はた、と、そこまで歌って歌声が途切れた。

あれ?と思い、下を向いていつの間にか閉じていた目を開けて男を見上げる。


すると、その男はこちらを見ていた。

小首をかしげて、口元に薄らと笑みを浮かべているようだ。


見つかった、とヒョクチェは思い、へらっと笑いを返した。

「———えっと、…聞いてたんですか?」

と、その男が遠慮がちな声で話しかけて来る。


「ごめんなさい、つい、聞いちゃった。あんまり巧いから…」

「有り難うございます。」


その男がすっと立ち上がり、一歩、また一歩と階段を降りて来る。


「あなたの顔、見た事あります」

「え?」


その男の言葉に、一瞬どきりとする。
なんで?
———怪しい。


「リョウクのご飯屋さん——…」
長身の、ひょろりとした男が、もうすぐ近くまで歩いて来ていた。

一瞬、射竦めるような眼差しで見られたような気が、した。

目をこすって見返すと、そこには優しい、甘い眼差しでこちらを見ている
美青年が立っていた。

「あの店の常連さんじゃないですか?」


「あ、ああ!君も?」
ヒョクチェが返す。

「ごめん、俺分かんないかも——」


「俺はキュヒョン。チョ・ギュヒョンと言います。何かの、ご縁ですね?」



青年は、背後からの美しい月明かりに照らされながら
ヒョクチェに手を、差し出した。







To be continued...








※お待たせしました!Happy Together始動〜
オーディションも近付いて来てどんどん登場人物が増えて来てますが
皆さん付いてこれてますか?
わかりづれーよ、てな事があったら教えて下さいね。

今回キュヒョンが歌っていたのは、ソンミン氏がどこかで
キュヒョンが歌ってくれるとのろけていたという

ソン・シギョン
「君は感動だった」ー2集「Melodie d` Amour」

という曲です!

とっても良い曲なので、是非聞いてみて下さい!^^

ではでは、次に続きます。


8 件のコメント:

  1. Katieさま。

    続き待ってましたぁ!!

    ヒョクの心が、揺れ動いていますね。。
    Katieさんの文章は
    本当に表現がきめ細かくて丁寧に書かれているので
    ヒョクの心情がすごく良く分かります。

    気になるのがギュ。。
    何を企んでいるのでしょうか?
    ヒョクに近づいて何をするつもりなのか
    もの凄く気になります(´Д`;)

    続きを楽しみに待っています(*゚▽゚*)


    ともすけ

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    1. >ともすけ様

      コメント遅くなってしまいました!
      かたやお話をずんずん更新してしまって皆様ついて来られてるか心配です!!笑
      いつも亀速度だから…急展開すいましぇん////
      ギュの顛末、楽しんで頂けたでしょうか…?
      私結構ギュを書くのが楽しくって…キュヒョク、良いですね…

      ヒョクとシウォンさんの心情を透視する為だけに生きてるなう!ですので
      これからも全力で書いて行きます!!
      また続きを楽しみにしていて下さい(*´∀`*)

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  2. おかえりなさいませ!

    キュヒョン氏から入ってのヒョクチェ氏。
    確かに、何か企んでいそうなキュヒョン氏(>_<)

    前半のミン君の口がパクパクふわふわって表現、すごくよいですね
    ミン君が話しているところをすごく想像できます(≧▽≦)

    あと、「シウォンは俺を知ろうと、視線で内面まで入り込んで来る」って言うセリフが
    かっこいいです!

    続き、楽しみにしています!

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    1. >がみん様

      ミンくんのお口っていつもぱくぱくしてますよね!?
      指とか挟んでみたいなーと見ながら思っています。
      可憐過ぎて…(鼻血
      絶対、キュヒョン氏ガン見してますよ<> <>

      シウォンさんもガン見ですけどね、恐ろしい程に。
      ヒョクの反対側が見えるんじゃないかってくらいの熱い視線を、表現してみました←

      続きもガンガン行きますね!!!

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  3. 明けましておめでとうございます。
    更新ありがとうございます。
    首を長くしてお待ちしていました。
    少しずつ…色んなところが動き出してきましたね。




    自分が何を考えているか分からないなんて初めての事だ。

    分かんない。

    まあ、なんとかなるだろ。


    ならないよ、ヒョクチェ。


    ———また、誰かを傷つけるよヒョクチェ。



    「馬鹿、くそ。」

    ↑↑↑↑↑
    この一連のくだりが好きです。
    特に難しい言葉を用いてるわけではないのに、
    ヒョクチェの自問自答が、痛いほどリアルに伝わって…。
    Katieさんは…短い言い回しの中でも、心の内側の表現が上手だな~と思いました。


    またの更新楽しみにしています♪

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    1. >adelaide様

      わーーん、長い時間お待ち頂いて本当に有り難うございます。
      やっとガシガシ進んで行く事が出来ます。

      お風邪など召して居ませんか?お元気されていますか??
      いつも読んで下さっているadelaide様に、今年も沢山ありがとうを伝えたいです。
      本当に、いつもうちのウォンヒョクを見守って頂いて有り難うございます!!(*´∀`*)

      ヒョクチェの思考回路は全然難しくないと思っていて。
      きっと凄くシンプルに、スマートで賢い結論を出す人だろうと。
      難しい言葉で飾る事もしない。
      そういうヒョクが大好きなので…汲み取ってもらえて本当に幸せです…TT

      続きも是非お楽しみ頂けている事を祈っております!!
      サランヘヨオオオ

      削除
  4. はあ、嬉しいよう。
    やっぱりKatieさんのぎゅったん好きです。もう不謹慎ですが、ブラック最高。
    でも、キュヒョンへの愛情がなきゃ書けないですよね。あのギュふぉるだには、笑いましたが・・・。


    今回、シウォンさんは直接は登場してないですけど、ヒョクのシウォンさんへの想いが変化というか、研ぎ澄まされていって、芯のように堅く、ぶれず、ってなっていくところがもう、好きすぎます。

    ・・・そして、ドンへが帰ってくるんですね。どうなるのか、未知。未知すぎる。

    今後も全力で追いかけますので、甘美なウォンヒョクを与えてください・・・。

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  5. やっぱりうまいなあ、設定が。回し方が。
    いろいろ匂わせて、場面ぱっと転換して、伏線張って、これからどうなっていくんだろう…って期待させるのってなかなかできないんだよね、これが。

    しかしKatieさんのギュ。こええwwwほんとに黒すぎてリアルにドキドキするw

    私もヒョクのダンスは変化の途中だなあって感じてたんですよ。
    もちろんデビューしてからずっと変遷はあると思うのだけど、結婚を機に目くるめく変化を見せているような気がする。表現力とか、妖艶さとか、それでいてダンスにもっともっと真摯になっている気もするし。シウォンじゃなくても目を奪われてますよ。愛の力ってすごいね 涙

    じっくりじっくり深まっていくウォンヒョク愛、じっくりじっくり楽しませていただきますよん。

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