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コメント返しお気づきの方もいるかと思いますが徐々にしておりましたので、心当たりのある方は是非遡ってみてください///
9/23 Le Cirque Paradiso vol.3 -黒の外套とサーカス団-を更新しました。
身辺がばたつき帰郷、出張を重ねており更新がままならず申し訳ありませんでした≦(_ _)≧
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2013年8月18日日曜日
Le Cirque Paradiso vol.1 -ピンク色の誘惑-
ボワン!
と、クッション越しの爆発音といった感じの———
低く鈍めの大きな音と、外から聞こえる騒めきでヒョクチェは寝返りを打った。
——キャラバンの原動機の音だ。
「ん……」
目をつぶったまま頭をぶるっと振ると、ヒョクチェはピンク色の髪からちょこんと
飛び出している豹の耳をぺたんと伏せる。
すると、頭上から大きくて温かい手の平が降りて来た。
「まだ、寝てなさい」
手の平が、優しくヒョクチェの髪を梳いて。
一瞬だけ唇に触れた。
返事の代わりに、ヒョクチェは長いしっぽで二度、パタパタと床を叩く。
「あと少しで町に着く。着いたらすぐに荷解きだから、活躍してもらうよ。」
低く穏やかな笑いが、ヒョクチェの耳に優しく響く。
眠ろうと思ったが、もう少しその声が聞きたくて。
サーカスの積み荷の横でヒョクチェは寝返りを打ち、上半身を起こした。
沢山の豪奢なクッションを敷き詰めてある幌馬車の荷台は
移動の揺れを差し引いても随分心地が良い。
幌の継ぎ目から入る光で読書をしているシウォンの横顔を見上げて
ヒョクチェは喉を鳴らした。
「荷解きも終わるまで寝てる……」
「ふむ、じゃあ起きない眠り姫にはには夕飯も必要無いな。」
ページをめくる手を止めずに、シウォンは少しだけ微笑み呟く。
「やだ」
「起きたのなら衣装の手入れでもしてなさい」
「寝るんだってば」
シウォンの本を勢い良く取り上げて放り投げると
ヒョクチェはシウォンの膝の上にピンク色の頭をボスンと突っ込んだ。
「……夕飯は、抜きだ。」
「じゃあ、お前を食べる。」
グゥと小さく獣の声で唸ると、ヒョクチェはシウォンの太腿に噛み付く。
「痛っ……」
シウォンが咄嗟にその顎を掴んで上を向かせると、ピンク色の可愛い唇からは
二つの鋭い歯が覗いていた。
「本当に……悪い子だな。」
ヒョクチェは舌なめずりをして、口をもう少しだけ開いて、目を瞑った。
ふ、とシウォンがため息をつき、背を屈めてヒョクチェの唇に己の唇を重ねる。
ヒョクチェが喉を鳴らす音が聞こえて。
唇が重なり、離れ、そしてまた重なり、舌が絡み合う音で二人の脳内は満たされた。
「揺れるよ!」
外から御者の声が聞こえる。
女性の甲高い声が、後続のキャラバンからもっと良い道は無かったの!
と捲し立てていた。
けれど、もう、絡み合う二人にはどの声も音も揺れも届かず———
荒い吐息と噛み付き合うような行為で、 クッションの海の中に沈んで行った。
Le Cirque Paradiso vol.1 -ピンク色の誘惑-
ドンへは一日の仕事を終えて、町の外れを一人ぶらぶらと歩いていた。
夕暮れ、赤くて大きい。
見慣れ過ぎた田舎の世界。
何一つ代わり映えせず、今日も賃金を手に町へ繰り出す人達の喧噪から
逃げるように町外れに駆け出してきた。
まだ明るいのに、仕掛けの狂った街灯がちらほらと光を灯し始めている。
少ないが一日を凌ぐのには充分なコインを、投げたり転がしたりしてもてあそび
一つコインを落としてしまってそれを追いかける。
ドンへの住む町は、辺鄙な山の中にある。
生地を扱う手工業や農業を営む物が多く、あまり裕福では無い小さな町だ。
ただ、この地域は山の反対側に広がる海を眺めるには絶好の土地で
丘の上にはお金持ち達が暖かい季節だけ入れ替わり立ち替わりに滞在する屋敷群がある。
丘のてっぺんには大昔の領主が残した城が残っていて、そこでは時折大きな舞踏会
なんかが行われる。
勿論お金持ちの人達だけの。
それ以外では、年間を通じてとても静かな町だった。
そうは言っても小さな町中は田舎特有の活気に満ちあふれていて、家に帰ったとて
最近では家族の喧嘩と、近所の女達の騒がしい客引きに耳が痛い。
あった、と落としたコインを草の間に見つけて、かを屈めたその時———
なんだか音楽のような——微かな音がドンへの耳をかすめる。
アコーディオン?
なんだろう、 ドンへは屈んだまま顔を上げ、周りを見回す。
耳を澄ましていると、懐かしいような、哀しげな音楽が形を為して行く。
こんなとこには、バルも何も無いはずなのに。
パーティ?楽団?
込み上げる好奇心をかき立てられ、ドンへは丘を駆け、そして小さな森を抜ける。
聞こえる音が、声がどんどん増えて行く。
いつもの静かな田舎道を彩った微かなメロディに期待が膨らみ、目を輝かせて。
勇み足で森を抜け出た瞬間、ドンへは足に急ブレーキをかけて転びそうになった。
そして、視界に、信じられないものが飛び込んで来る。
—————そこには、見た事も無いような大きな、けばけばしいテントが……
立っていた。
赤、黄色、紫、金色の。
存在していた、という方がしっくり来るほどに、大きくて。
その周りでは、沢山の人達が忙しなく行き交っていて
荷物を運んで怒号を飛ばしている。
微かだった色々な存在が、一気に目の前に現われて。
夢なのかと思うほどに、極彩色だった。
———そこに広場があるなんて今まで知りもしなかった。
むしろ、森はここで終わっていただろうか?と一瞬思ったが、その隙にも
ドンへの目の前を大きな箱を抱えた少年が横切って行く。
「どいて!」
驚いてドンヘは後ろに2,3歩後ずさる。
その少年が歩いた後を箱から散ったのか、小さな紙吹雪が尾を引くように散った。
懐かしいような悲しい色どりの、カラフルな電球が輝き、紙吹雪がはらはらと
土の上を舞い落ちる。
見渡すと、大きなテントの裏手には人々が出入りするキャラバンの馬車や車が
無数に停まっていた。
先程聞こえていた音楽や、恐ろしげな咆哮のような物までそちらから聞こえて来る。
ドンへは、恐る恐るそちらへと歩みを進めた。
「何をしてるの!!」
裏手に差し掛かった時、大きな声が背後から降り掛かる。
ドンヘは心臓が止まりそうになりながら振り返ると、背の高い異国風の男性が
立っていた。
背と声で男性だと思ったが、美しい顔に、きらびやかな赤い中国のドレスを着た
その姿はまるで女のようだった。
そこに居る言い訳を考えていると、ドンへの脇をまた背の高い少年がしゅんと
肩をすくめてその人のそばに歩み寄る。
「ごめんなさい…」
「あんた、さぼってた……」
ため息をつきながらその男は額に手をやる。
「違うんだよ、ミーミ。僕ちょっと疲れちゃって一息、」
「みんな一緒よ、長旅の後だもの。今度さぼったらヒョクチェに頼んで
鞭をくれてやるからね」
「ひっ、やめてよあいつの鞭は団長仕込みで本当に怖いんだから」
「それだけじゃないわよ。あの子の牙で……」
背の高い、ミーミと呼ばれたその男がふ、とこちらを見やる。
「あら、あんた何」
「えっ……と」
少年もまた、ドンヘを振り返りまじまじと顔を見つめて来る。
「見かけない子ね、新入りなの?」
「いや、えっと、」
「あんたもサボりなの? でも、あんたなんだか……」
「お前、新入りなの」
あどけない顔の少年がドンヘに近付き、上から下まで眺めて来る。
「ヘンリー!あんたはテントの設営に戻りなさい。」
「なんだよ!こいつやる事無いんじゃないの、僕の仕事手伝わせていいだろ」
「いいからホラ!行きなさい!」
「チェッ、分かったよ!」
矢継ぎ早の会話に目をきょろきょろさせながらドンへは息を呑んでいた。
怒られる。
忍び込んで、泥棒だと思われたらどうしよう。
少年が帽子を被り直してパタパタと駆け出して行くと、背の高い男が片手で煙管を
口に運びながら、目を細めてドンヘを眺めた。
「あのう……俺」
ふーっと赤い唇から紫煙を吐き出すと、小さくその男は微笑んだ。
三日月型の大きな目がニッと笑った形に歪められ口元まで微笑みが伝染する。
「あんた、この町の子ね、きっと。」
「は、い…すいません。何があってるのか、見たくって…」
ボソボソとドンヘは口の中で言葉を転がす。
「やっぱり。」
「……。」
下を向いて、出て行けと言われるのを予期して、残念な気持ちでドンへの胸が
一杯になって行く。
「それで、なんだと思った?」
「え……。……カーニヴァル……?」
「ぷっ、カーニヴァル!!」
「違うの?」
「そんな平和な物じゃあ無いわよ。ふふっカーニヴァル……。」
否定されてクスクスと笑われている事が腑に落ちなくて、ドンへは頭を捻る。
そうしていると、 横をキラキラのスパンコールの服を小脇に抱えた少女達が
小走りで笑いながら駆け抜けて行く。
でも、その足取りはバレエにも似たステップで、まるで妖精達のようだった。
まるで別世界のような全ての光景に、ドンへは目が眩みそうになる。
空は夕暮れに闇が滲み始め、キラキラと輝く色とりどりの電球が 心を騒がせて。
「———見蕩れてるの?」
「あっ、すみません……」
「あの子達は、群舞の少女達よ。私の歌の後ろで踊るの。」
「歌……」
「あんた、ちょっとついてらっしゃい。」
「え?」
「こっちよ、ああ、あたしはミーミ。みんなそう呼ぶわ。」
「おっ、俺はドンへ」
「そう、ドンへ、こっちよ…」
ミーミは、どんどん滑るような足取りで不思議な古びた形のキャラバンの蒸気車や
馬車の奥へと進んで行く。
小さな小人のような男が大きな気球のような物を引きずり、擦れ違う。
沢山の、中くらいのテントが張られた区域へとミーミが歩を滑り込ませて行く。
年代物で、でもしっかりとした生地の、これもまた色とりどりのテント群が
風にはたはたと生地をパタつかせていた。
ボワン!と大きな音がして、蒸気車の後ろの方から火炎が上がり
低い叫びが聞こえた。
先程の少年の時のように、辺り一帯に風圧で紙吹雪が舞い散る。
「まぁ、まぁ、ドンヒは本当に大雑把なんだから。」
ミーミが呟きながらスイスイと紙吹雪を払いながら進み続ける。
最初に聞いた音楽が、どんどん近付いて来る。
「音楽……」
ドンへは無意識に呟く。
その時、正面を向いた瞬間ミーミに思い切り顔をぶつける。
なんだか嗅いだ事の無い花のような良い香りがした。
「あんた、中々のトンマだわねぇ……」
ミーミはドンヘを引き剥がすと、トン、とドンへの身体を押す。
勢いで前に進み出たドンへは、たき火が焚かれて少しだけ開けた場所に
立っていた。
沈む瞬間の太陽が、往生際悪く、熟し過ぎた果実のように
ギラギラと空の裾に立ちこめている。
でも、もう、夜の軍勢がそれを押しのけてしまう。
闇の支配下に、太陽は平伏し、朝まで顔を隠す。
短い、夏の、闇の時間が始まる。
ぼーっとしている間に、ミーミは小さく笑いながら、誰かに何かを言い残して
踵を返してどこかへ行ってしまった。
言われるが侭に連れて来られ、取り残されたドンへは何がなんだか分からずに
心細さと期待感に心臓が爆発しそうになりながら周りを見回した。
小さな広場になった中央で、大きな焚き火が燃えている。
暑い夏を助長するようにそこは熱い熱気に満たされていて。
その端で、綺麗な顔をしたドンへと同い年くらいに見える青年が
アコーディオンを奏でていた。
その横では、細身の少女が体をくねらせて無心に踊りを踊っている。
ふわりとした衣装を身につけて悲哀に満ちた顔で体を不思議に曲げて。
悲しみで一杯の音楽に、それに同化するかのような少女に、息が詰まって。
その内に、淡い紫色の髪をした華奢な少年がドンへの横に立っていた。
「こっち……」
「え…」
「この奥のテント……」
指をさすと、少年はまた別のテントの合間へとたちまち姿を消してしまう。
人が現われては消える。
いつの間にか、ドンへはこの一団の最奥まで来てしまったようだった。
「あ、……」
ドンへがその最奥のテントに入っても良いのか考えあぐねていると、後ろから
低い獣の咆哮のような声が聞こえる。
”ぐるる……”
「ひっ」
振り返るのが怖くて、この世界なら何でも起きてしまう気がして
次の瞬間には自分が何か大きな獣に食いちぎられてしまう気がして
ドンへは黒くて大きな最奥のテントに飛び込んだ。
薄暗いテントの中で肩で息をすると、ドンへは息を呑む。
何重にも垂れ下がる重い布の先に、ゆらゆらとキャンドルが揺れている。
むせ返りそうな濃い、火と、甘い、何か香り。
外の悲しげなアコーディオンの音がまだ、聞こえて来る。
明るい、キャンドルの燃えるその場所には、あきらかに人が居た。
立ちこめる甘い香りとただならぬ雰囲気。
ドンヘは奥に進もうとして、足を止めた。
”愛してる、愛してる……”
鼻にかかった若い男の声。
”そこ…はぁ……気持ち良い………”
ドンへは立ち竦み、雰囲気に圧倒されて体が一気に熱くなってくるのを感じた。
蝋燭が揺れ、瞬間白い布に、中の人間のシルエットが浮かび上がる。
大きなシルクハットを被った黒い影が、椅子に腰を下ろしていて
その上に少し細めの人の影が跨がっていた。
細めの影の手が荒々しく大きな影の方の頭を掴んで、激しく腰を揺らしていた。
「あぁ………はぁ……」
声が、布越しにまるで映写機を見ているような感覚だったものが、
影とともに実体を帯びて。
ドンへの体中の血がゆっくりと中心に向かって固まっていく。
淫媚で甘い声と、テントの中に立ちこめる濃厚なエキゾチックな香りに
脳天が痺れて。
細身の影のしなやかな足が左右にグッと開いて行き、途切れ途切れの声が。
震えた。
黒く大きな影の両手が細い影に回され、力強く抱きしめる。
そして腰を掴み少しだけ持ち上げると、垂直にまた降ろして。
「綺麗だ、ヒョクチェ……」
「あっ……あ シウォン……」
力強く、しなやかな二人の影の動きが、人間の肉体がどれほど美しいものかを
ドンヘに見せつける。
「ひっ……あっ…」
細い人影が震えたかと思うと、ドンへは目を疑った。
火照った体がドキリと衝撃ではねる。
細身の体の腰の辺りから、ゆるりと長い尾のようなものが揺れていたのだ。
その尾は、持ち主の体が脱力して大きな影に抱きとめられる中、くねりながら
大きな影の足に巻き付いた。
「ワッ……!」
つい、ドンへは声を出してしまう。
そして、中の影が驚いたように跳ね、獣のようなうめき声と共に大きな影が
こちらへと動く。
「誰だ」
ドンへは、飛び出して逃げるか、このままここで恐ろしげな生き物に捕まるのか
考えを巡らせながら、大声で叫び出しそうになった。
To be continued...
2013年7月23日火曜日
ご無沙汰しております!
どうもこんにちは、ご無沙汰し放題のKatieです。
年始から家庭の事情と仕事の猛烈な忙しさにより、ブログから目を背けてしまっていた愚かな私をお許しください……
でもそんな間もウォンヒョクは着々と愛を綴っておりましたね…
安定のカップル過ぎてちょっともう手が付けられないというか…。
ええ、そんなこんなでSS5やって参りました!
参戦いたします!
仕事の都合で27日だけですが、私今回こんなものを準備いたしました。
ドーン!
ウォンヒョクポストカード4枚セット!
残り18組程度ですが、ドームで見つけて頂いた方に配布させて頂きたいと思います♡
Twitterにてここにいるよ!と叫んでいると思うので、フォローはしなくて全然良いので
アカウントを覗いて頂けると特定できるかと思います。
恰好はシウォンペンをこれでもかっていうくらい押し出してキャプテン・アメリカの肉体の
Tシャツを着用し、アメリカ女っぽい感じでうろうろしています。
当日これを見つけて!とTwitterにてセルカをUPさせて頂くかと思います。
日頃のお礼を兼ねて、気持をささやかながらお伝えさせて下さいませ。
ではでは皆さん、今週末は全力で楽しみましょうね!
サラハンダ!!(*˘︶˘*).。.:*♡
Katie
@Katie_la_SJELF
2013年3月28日木曜日
Sound of.
Sound of.
鍵付き小説の予定ですがFC2不具合のため明日まで表で公開します。
明日以降はリンク先に進み、パスワードを入力してお読み下さいませ。
———魂の底、目を閉じて
意識が鼻筋を通って、喉の奥をストンと落ちて、呼吸の湧き上がるもっと底。
体幹の真ん中。
ハートの軸。
その辺りから、低くて、重いビートを刻む音が聞こえる。
最初は心臓の音だと思ってた。
だから胸に手を当てたけど、そこで、鳴るのは違う音。
一拍、一拍、一拍。
魂の底から聞こえるのは、俺のどんどん早くなる呼吸と。
小刻みに漏れる声と。
120bpmくらいの、1拍、2拍、3拍、4拍、変拍子?
タン、タタン、タン
タン、タタン、タン
拍動に、攫われるみたいに指の第一関節が弾ける。
明かりは落としているのに、光のように俺を導いていく。
命の終わりまで、感じ続けるんだろう。
誰も知らない、この拍動。
————踊りたい、踊りたい、踊りたい。
時間が許すだけ、足が動く限りずっと。
Sound of.
====================================================
「ヒョクチェ…」
シウォンがヒョクチェの隣で優雅に肘をついて横たわり
脇腹へ優しく手を這わせると、ゆっくりと、腿の付け根まで撫で下ろした。
ヒョクチェは仰向けのまま無言でチラと
横目でシウォンの顔を眺め、次の言葉を待つ。
腕は頭の後ろに組んだまま。
もう一度シウォンの首に腕を回したい気はしたけど
開けた窓から吹き込んで来る弱い風をもうちょっと感じていたくて、やめた。
「うわの空、だろ?」
シウォンが微笑んでヒョクチェの脇腹に目を落としたまま呟く。
「ん?」
「してる間、ダンスの事考えてただろ?」
シウォンがヒョクチェの目を見つめた。
怒って居るような雰囲気はちっともなく
いつも通りその視線は楽しそうにきらきらと周りに光を散りばめる。
「うん」
いつも、ついその優しさにずぶずぶに溺れてしまう。
駄目な男は俺。
「———やっぱり」
シウォンはヒョクチェの二の腕を掴んで、少し自分のそばに引き寄せる。
組まれていた、細く見えるのに鍛えられたその腕は
ほどけてシウォンの顔のそばにパタリと手の平を落とす。
シウォンはその手の平の真ん中にキスをして
そのまま、そこに顔をうずめた。
ヒョクチェはまた何も言わずシウォンを不思議そうに眺める。
シウォンは手の平に顔をうずめたまま、小さく音を立てて何度もキスをする。
「シウォン、———良かったよ?」
シウォンが、んん、と低い声を漏らしてヒョクチェに背中を向ける。
「なんだよ…。」
無言。
風が気持ち良くて、こんなやり取りをして居るのについ
眠気が瞳をかすめて行く。
「シウォン」
シウォンが軽く背伸びをして、うつぶせになり
顔は枕に伏せたままヒョクチェを見ない。
さすがに、ヒョクチェが見兼ねて、口を開いた。
「———子供達。」
「あの子達見てたら、さっきからずっと踊りたくなっちゃって。」
「…シウォナ」
「おい、聞いてんの」
シウォンが首を回して、枕から目だけを少し覗かせてヒョクチェを見る。
「———子供達と、会ってくれて、ありがとう。」
「それさっきも聞いた」
「一度じゃ足りない。」
「…俺あの子達、好きだよ。本当に。」
「…最高のお姫様達だろ?」
今日はテレビ番組の外ロケの撮影の後に、自由時間を貰えたので
シウォンと一緒に、シウォンの———2人の養子の少女と会いに行った。
シウォンは最初は経済支援だけを行っていたのだけれど
去年正式にシウォンの母親と施設を訪れ、法的な手続きをいくつか済ませたのだ。
現状その子達の養育を引き受けてくれている施設の先生が、2人を連れて
近くのホテルまで出向いてくれていた。
タイに来る前から、会って欲しいと、シウォンから話を聞いていた。
ヒョクチェは、うつ伏せのシウォンの首に手を伸ばす。
自分達の泊まるホテルに戻って来て、シウォンはプール、俺はジムに行き
一日のトレーニングスケジュールをこなすと、自然と一緒に少し休む…事にした。
出発まで時間があったし。
まだ乾かずに跳ねた髪をもてあそび、なんだか可愛いなあと、思った。
そして白い歯を見せて、ヒョクチェは声を出さずに笑う。
「丁度さ、守らなきゃいけないお姫様が欲しいと思ってたんだよね。」
シウォンが顔をあげて、上半身を起こす。
すかさずヒョクチェはシウォンの首に腕を巻きつけて
お互いに裸のままの身体を、密着させた。
—————やっぱり、シウォンが欲しい。
風よりも、眠りよりも、気持ちいいこの身体。
シウォンの乾いた柔らかい唇に、濡れた自分の唇を押し付ける。
罪悪感なんか、とっくにない。
こうする事が、自然過ぎるほどに自然。
窓の外に見える、プールに張られた水や吹き抜けて行く風よりも自然。
「ヒョクチェ、俺たちは…お姫様達が王子様を見つけるまで
一緒に見守って———いける?」
「うん、決めた。ていうかさ、あの子達の顔見た瞬間に決まってたよ。」
シウォンが、安堵と喜びが混じったような
———この世界の何よりも美しい顔で、笑った。
そしてヒョクチェの前髪を掻きあげると
額にキスを落とし、頭ごと抱きしめて背中を撫でる。
ありがとうと、
あいしてる、が両方。
心の器からどんどん溢れ出して。
「———それに、お前が一人であの子達を守るんなら
誰がお前を守るんだよ…。」
ベッドサイドのカーテンが、風で大きく舞い上がる。
柔らかい、鼻孔をくすぐる南国の花の香り。
「俺だろ。」
「俺しか、居ないだろお前みたいなやつ、守れるの。」
「ヒョクチェ」
お互いに、身体の全てを押し付けて。
触れた部分に、温度が宿り、
そして、チリチリ、チリチリと焼けるような、今度は
もっと早い変拍子の音楽が生まれる。
「さっきのさ、俺がちょっとぼーっとしてた事なんて、気にすんなよ。」
シウォンの手が、するりとヒョクチェの両脚を抱え上げて
膝小僧に唇を落とす。
「一生離さないからさ、許して。」
ふざけて甘えるように、ヒョクチェは唇を舐めて猫の様に身体を捩った。
シウォンはその腰を捉えると、腰骨から下へ、内側へと、指を這わせる。
「———全然気にしてないよ。」
「…?」
「お前の”音”が聞こえたから、確かめたかっただけ。」
「…うそ!」
「嘘?」
「なんでシウォンに聞こえてんだよ…」
シウォンが身を屈ませて、悪戯な瞳でヒョクチェの唇を舐める。
「ここ。」
そして、指へ。
「ここも」
それからシウォンの下半身に力が込められ、ヒョクチェの身体に侵入する。
「…んっ」
「ここも。」
「あっ…、シウォ、」
「全部、ヒョクチェの音楽を俺に伝えて来る。」
「…ん…あ、あ…シウォン、は…」
「聞こえてる」
「全部」
「っはぁっ…!」
愛おしい…。
シウォンは、恋人が顔を赤くして欲情するのを一瞬眺めて
自分より一回りだけ小さな身体を強く抱きしめた。
————空っぽだ。
心が空になるくらい、止められなくて、この溢れ出す思いが止められなくて。
泣いてるみたいに喘ぐ声も、お前の身体中が叫んでるリズムも
聞き逃すわけないだろう。
お前の音が満たしてるんだよ。
ヒョクチェ。
365日、お前が生まれた事に感謝している。
365、730、1095、1460——————
ああ、もっと、それよりも長く。
お前が、自由に踊れる足枷とならない、限界まで。
そして、ヒョクチェの指が、ピクリと動いた。
————さっきとは違う、リズムで。
これは、俺だけの音。
そうだろう。
それはきっと、Sound of love.(Click!)
2013年2月19日火曜日
Happy Together vol.29
Happy Together vol.29
♦27と同じ要領で、記事内のLINK先を是非ご覧になって、音楽と一緒にどうぞ!
————ステージに、一人、立つ。
カルメンの演舞を終えて、肩で息をついて。
ライトが、肌にピリと熱く。
眩しくて、慣れない。
————でも、好きだ。
ここが俺の場所だと、思う。
貰った熱情の全てをこの身体に覚えさせたよ。
お前はもう、俺の一部だ。
俺は、変化したと思う。
シウォンと融合して行くみたいに、気持ち良くて。
踊る快感に飲み込まれそうで。
———気持ち良過ぎて、泣きそうになった。
ライトの光に包まれて、お前の愛を体に宿して踊った。
お前のホセを踊りながら、こんな風に愛した人になら殺されても良いと思えた。
その瞬間に俺は、殺されるホセであって、カルメンで。
カルメンは心変わりしたわけじゃなくて
本当の愛を見たんだよ。
だからその愛を自分の好きなようにしたかった。
消える前に握りつぶしたかった。
全てを自分に取り込む為に、想いも、時間も、命も。
今ならわかる。
———完全な融合と、愛。
狂ってるのかな?
でも俺は、お前のClarityなんだ。
音楽が、始まる。
昨日の間に通知が来ていた。
審査の演目が追加、音源を持ってくる事、練習は無用、即興ダンス。
昨日遅くまでシウォンと一緒に考えた。
シウォンが勧めてくれたこの曲を、俺は踊る。
「この曲は、君だ。」
そう言って、聞かされた音源。
踊れる。
全身が喜んだ。
シウォンと出逢わなければ、一生理解して踊る事なんて出来なかっただろう。
———ああ。
—————音楽が始まった。
ヒョクチェは、ステージの中心から少しだけ退いて立った。
♪High dive into frozen waves where the past comes back to life
(凍てつく波間に飛び込む 思い出したくない過去が俺を苦しめる)
頭を大きく振ると身体からジャケットを剥ぎ取り、海に投げ捨てる
Fight fear for the selfish pain and it's worth it every time
(自分だけ傷つきたくない そう恐れる気持ちを振り切れたら その苦しみにも意味はある)
そして、体を抱きしめて凍てついた床にヒョクチェは膝をついた
祈る様に両腕を突き上げてスポットライトに手を広げて
その光の粒子を胸元へと引き摺り下ろす
膝をついた場所から氷にどんどん皹が入って行く
Hold still right before we crash cause we both know how this ends
(クラッシュの瞬間 じっとして固く目を閉じる だって俺たちはふたりとも
この先がどうなるのか知っているから)
静止、静寂が
俺の内側で
クラッシュ、する
Our clock ticks till it breaks your glass and I drown in you again
(俺たちの時は刻まれていく お前を守るガラスが壊れるまで
そして俺はまたお前に溺れ沈んでいく)
胸が、天から何かに吊り上げられるように時の打刻に合わせて
どんどん持ち上がっていく
吊り上げられる人形のように、少しずつ立ち上がる
———そして、俺を囲んでいたガラスのケースは割れる
Cause you are the piece of me
(お前は俺の一部なんだ)
I wish I didn't need
(お前が必要じゃなかったらどんなによかったか)
Chasing relentlessly Still fight and I don't know why
(無我夢中で追いかけて 争いまでして 自分でもどうしてかわからない)
———粉々に!
弾かれたように、人形はガラスを割って飛び出す
手が、足が勝手に動く
聞こえるかよ、シウォナ
見えるかよ
この腕はお前のだ、こうやって俺の首から、頭から、頬までを触れずに
肌の表面を、滑って行く
もう、俺はお前の一部なんだ
If our love is tragedy
(俺たちの愛が悲劇だというなら)
why are you my remedy
(どうしてお前は俺の傷を癒せるんだ)
If our love's insanity
(俺たちの愛が狂ってるというなら)
why are you my clarity
(どうしてお前はそんなに澄み切って美しいんだ)
こんな風に、身体が勝手にスナップして
腰が跳ねる
胸が跳ねる
足は床を滑るみたいにお前に引き寄せられて
俺の手はお前をこんな風に手招きしてる
お前が俺の悲しみを癒すみたいに、俺を綺麗だって言うように
————俺も、同じように想ってる。
walk on through a red parade and refuse to make amends
(頑なな世間の人混みを通り抜ける 悔い改めたりなどしない)
シャツのボタンを引き千切って、ヒョクチェは観客の前に心を晒す
It cuts deep through our ground and makes us forget all common sense
(この思いは俺たちのいるこの場所を深く切り裂いて他人が押し付ける常識を忘れさせる)
シウォンの手が心臓の所を、こうやって割り開いて
その愛で、新しい世界を俺に与えてくれる
Don't speak as I try to leave cause we both know what we'll choose
(俺が離れようとしても声を立てないで 俺たちがこれからどんな道を選ぶかはわかってるだろ?)
声にならない声でヒョクチェは叫ぶ
腕で空気を切って、足はどこまでも遠くに駆け抜けて行く
ステップを踏んで行ける
感じるだろ?
If you pull, then I'll push too deep and I'll fall right back to you
(お前が引くなら 俺はさらに押すそして迷わずにお前のもとに落ちていく)
ほら、こんなに激しく腕も脚も躰ごとお前の元に落ちて行く
顔の前にそっと翳した人差し指は、約束の証
Cause you are the piece of me
(お前は俺の一部なんだ)
I wish I didn't need
(お前が必要じゃなかったらどんなによかったか)
Chasing relentlessly Still fight and I don't know why
(無我夢中で追いかけて 争いまでして 自分でもどうしてかわからない)
ガクガクと、何度も足元から崩れて行くんだ
でも、ほら、こうやって俺の手はお前の手を掴む
この手が掴むものがお前じゃなかったら
きっとこんなに苦しい想いをしなくて良かった
きっと平穏だった
でも掴んでしまった、知ってしまった!
If our love is tragedy
(俺たちの愛が悲劇だというなら)
why are you my remedy
(どうしてお前は俺の傷を癒せるんだ)
自分の心を守るよりもっと大事なもの見つけた
これが悲劇でも良い
何度でもこうやってお前をたぐり寄せるから
…傷ついた時はまた癒してくれよ
If our love's insanity
(俺たちの愛が狂ってるというなら)
why are you my clarity
(どうしてお前はそんなに澄み切って美しいんだ)
この頼りない身体を
自分の腕で抱きしめる
でも今はそれに重なっているお前の手を感じてる。
———見てるか、シウォン
この手は、今お前に向かって伸びてるんだよ。
何度でも、何度でも
重なってるだろ、お前と俺の手の平が。
なあ、もうずっと、重なってたんだろ
これまでも、これからも————
そういう、運命だったんだ――――俺達。
———気が付いたら、音楽が終わっていた。
客席を見ると皆が立ち上がっていて、一際背の高いシウォンを自然と見つける。
それから、ドンへ。
心臓が”ドクン”と大きく脈打つ。
———俺の気持ち、これが今は全てなんだ。
もう、謝らない。
ただ、ありがとう。
来てくれて、最後まで今の俺の姿を見届けてくれて。
聴覚が戻って来て、耳が割れる程の拍手がヒョクチェの脳に届いた。
審査員席も、皆立ち上がって拍手をしていた。
立ち尽くすヒョクチェに、タオルが渡される。
ああ、汗でびしゃびしゃだし、なんだ———
俺、泣いてたんだな。
我に返って初めて気付く。
それから、シウォンがステージの下まで歩いて来ているのが見えた。
係員が止めるのも聞かずに、真っすぐに。
ゆっくりとステージの下へと歩いて来た。
そして、腕を広げて、今ヒョクチェを待っている。
バックステージに捌けて下さい、と言う女性が視界に入る。
俺は、一つ女性にすみませんとお辞儀をした。
————もう、何も考えなかった。
ステージに手をついて、両足でシウォンに飛びつく。
支えてくれる両腕がそこにある。
こうやって、何の心配もせずに、全部預けられるんだ。
————たまらないだろ。
全部、お前は俺の全てを引きずり出した。
ヒョクチェは、シウォンの首に両腕を回してしがみつく。
シウォンが嬉そうに、頭を撫でてヒョクチェの瞳を覗き込んだ。
「You are my clarity」
綺麗な英語で、そう言った。
「ヒョクチェ、皆が待ってる。」
笑って、客席の方に歩き出す。
会場中の視線を集めたまま。
何も気にしない、王者のように、俺のライオンはどこまでも。
ヒョクチェは思い切りシウォンの首を引き寄せた。
「もう言わないからな、しっかり聞けよ。」
シウォンの耳元にヒョクチェは口を寄せる。
「————愛してる」
心臓が、止まりそう。
ヒョクチェはシウォンの肩に思い切り頭を押し付けて顔を隠す。
シウォンの歩みが止まり会場が暗転する。
次の準備に入るのだろう。
そこは、俺たちだけの闇。
確かにその時、その世界には二人しか居なくて。
シウォンの肩が緊張して強張っている。
そして、震えた声で、呟いた。
「———本当に?」
ああ、もう、お前にはそういうの似合わないから堂々としてろよな。
「…ああ」
「俺、お前が好きだよ。愛してる…」
シウォンがヒョクチェを強く、強く、掻き抱いた。
「…っ、あ、りがとう。ヒョクチェ…ありがとう」
まるで、時を止めようとしているみたいな力強さで。
俺は、そっと床に足をついてシウォンの腕をほどく。
「どこにも行かないから、大丈夫。」
そう言って、静かに涙を流すシウォンの手を握って歩いた。
————今は、俺が導いてやる。
席で立ったままの皆に「出よう」と合図をすると
ヒョクチェはシウォンの手を引いてホールの扉を開ける。
白昼の、真っ白な光が衝撃的な強さで俺達を貫いた。
新しい世界に足を踏み出すみたいに、一歩、外へ出る。
連れていくから。
お前も、皆。
一緒だ、ずっと。
何も追いつけないような速度で、俺は。
To be continued...
2013年2月18日月曜日
Happy Together vol.28
Happy Together vol.28
眩しい。
曇天、が、俺の曇天が。
目の前の眩しい光景に、イェソンはつい息を呑んで目を眇める。
———ヒョクチェが、初めて見る男を連れて店に入って来た。
いつも通り、店を閉めてリョウクの店に居座っていたイェソンは、隅のテーブルから
席に着いた二人をまじまじと眺めていた。
———なんだこいつら。
強烈な眩しさを伴ってそこに座っている二人から目が離せない。
初めて見たって事は、長い付き合いではない筈だ。
先に店に足を踏み入れたとても長身の…ラフな格好だけれど異常に品が漂う
シウォンと名乗った、その男は。
美しく破顔して笑うと、初めましてと言い強い握手で挨拶をした。
隣りに立つヒョクチェは、なんだか嬉しそうに微笑んでいた。
奥から出て来たリョウクにも簡単にヒョクチェから紹介がされて、ぶんぶんと
振り回すような握手をリョウクにもぶつけると幸せそうにヒョクチェを見ていた。
リョウクはぽかんと口を開け、シウォンを見ていて、ヒョクチェは全く
俺達のそんな様子にも気付かずに明日のオーディションは公開だから良かったら
見に来てと言って席に着く。
分かるだろう、これは。
チラリ、とイェソンは奥を振り返ってリョウクを見やる。
リョウクも二人を見ていたのか、イェソンと目が合うとそそくさと料理に
戻った。
…だよな。
何が起きたのかは分からないけれど、猛烈な愛情のオーラに気圧された。
そういう事だろう。
どんな関係性に落ち着いているのかは分からないけれど、これは。
ちらほらと、二人の席からドンへ、という名前が聞こえては声のトーンが
下がったり上がったりしていた。
ヒョクチェは黙り、神妙な顔をしている。
シウォンは優しく微笑んで、ヒョクチェの頬をそっと撫でた。
その手をヒョクチェはバッと振り払うと、目を白黒させてこちらを確認する。
凝視していたイェソンははっと目を逸らし、リョウクにビール!と頼んだ。
リョウクはうわずった声ではーいと返事をするとすぐにビールを持って出て来た。
———見てたか?
リョウクの目を見て、目線でそう確認する。
リョウクは、小さく頷くとイェソンの肩に手を置いた。
もう片方の手でシーッという合図をすると、首を振って更にジェスチャーをした。
”口出し無用”
そういう事だろう。
分かってるさ。
————これは、並の恋をしている人間には毒だ。
触らぬ神に祟りなし、か。
これじゃあドンへが気の毒だ、何気なくイェソンはそう思う。
俺だって、とイェソンはリョウクの消えた店の奥に一瞬だけ視線を送り目を瞑る。
突然、自分の価値観を蹴散らかされたように感じた。
それ程に圧倒的で。
黙って人を愛する事が、静かに気持ちを燻らせている事が余りに馬鹿らしく感じる。
俺の曇天のように。
静かで穏やかな、世界は…。
まあ、俺には俺のやり方がある。
イェソンはテーブルに肘を載せて頬杖をつくと、一気にビールを飲み干した。
————見守ってやるか。
少し、熱くなった脳味噌で、もう一度二人を眺める。
ヒョクチェが、何やら沢山の紙袋の中を引っ掻き回しながら嬉そうに
笑っていた。
後で、ジョンス兄さん達のとこにも行くんだろうか。
こりゃあ、ひと騒ぎするだろうな、あの人達。
そう思いながら、イェソンはふっと、小さく笑う。
せいぜい冷やかされろ。
くくくっと一人で笑いながら、イェソンはリョウクの作ってくれた特製卵蒸しに
取りかかった。
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ドンへは、激しく息をつきながら、会場の重い扉を開いた。
入ると、シッと係員の男性から嗜められる。
暗いステージにパッと灯りがつき、そこに立つ一人の男が照らし出された。
—————ヒョクチェ
姿を見ただけで、ドンへの目からは涙が零れそうになる。
————ああ。
ヒョクチェ。
客席から、こちらを見て手招きをしている男に、ドンへは気付く。
「ヒチョルヒョン」
はやく!と口パクで手招きをされてドンへは腰を屈めて客席に走り込む。
審査員が何かをぺらぺらと早口でヒョクチェに伝え、ヒョクチェは
無言で頷いていた。
いくつかの振りを言われるままにやってみせながら、審査員の手が机の紙の上を
走っているのを真剣な目で見ている。
ドンへは席の周りをざっと眺めると、見慣れた顔が並んでいた。
俺の右側からイェソンヒョン、リョウク、その隣り、列の端にシウォン。
「おそいよ〜ドンへ!」
リョウクがいつもの調子で俺を嗜める。
イェソンヒョンは腕を組んだままこちらを見やると、早く座れ、と小さく笑った。
シウォンは、そんなやり取りを見て微笑むと、俺に頭を下げる。
来てくれて有り難う、と言うように。
左側にヒチョルヒョン、ジョンスヒョン、ヨンウニヒョン。
「お前は遅刻すると思ったよ。」
ヒチョルヒョンが、俺の背中を叩きながら笑う。
「ちょっと…頼むよ、静かに話しなよヒチョラ〜」
こそこそと、ジョンスヒョンがヒチョルを小突いた。
ヨンウニヒョンは笑いを堪えるように口角を少しあげて、笑いかけて来る。
その斜め後ろに、ドンヒヒョン。
真っすぐにステージを見て、目を逸らさない。
そして、その隣りに…
————ソンミン。
目が合うと、変わらずふわり、と笑って小さく手を振って来た。
ああ。
胸が、温かくなる。
なんだろう。
ドンへの胸に何かがどっと込み上げて来た。
辛かったのに、皆の顔を見ると嬉しくて泣けて来る。
「おいっ何既に涙ぐんでんだよ!さすがバカだなお前!!」
小さい声でひそひそとヒチョルヒョンが耳元で話しかけて来た。
「ひどい…」
笑って返すけれど、やっぱり涙がこぼれて、ヒチョルが乱暴にそれを拭い
頭をガシガシと撫でてくれる。
「見とけ、ちゃんと。あいつ…凄いぞ。————成長してんな。」
やっぱり、ちょっと見逃したかと、一気に悲しい気持ちに支配される。
行くか、行かないか迷っているうちに時間だけが酷く早く過ぎていて。
遅れてしまった。
「ほら、ちゃんと見ろ」
ヒチョルが前を指差す。
その時目に入ったトゥギヒョンや、他の皆の顔が。
優しく俺を見ていた。
————ステージを見る。
音楽が、始まった。
カルメンから、ドン・ホセ。
…一緒に、練習を見て居た。
穏やかだった頃の、思い出が胸を刺す。
ダンスが始まる。
ヒョクチェの目に火が灯った。
—————成長、している。
ヒチョルの言葉が反芻される。
が、違う。
これは。
”変化”だ。
ヒョクチェが、その自身だけの力で育った訳じゃない。
以前の、静寂と柔軟さが持ち味だったヒョクチェのダンスは、もう無い。
歯止めが利かない程の、感情がそこに溢れていた。
————みんな、感じている。
徐々に圧倒されて始めている。
そしてそれぞれが、そっとシウォンを盗み見るようにチラリと眺めた。
この男が、変えたのか?と。
それ程に、これまでのヒョクチェとは全く別の姿が…ステージの上に、あった。
それは悔しさなんて、吹っ飛ぶくらいの、衝撃だった。
To be continued...
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