Happy Together vol.17
"…ジョンウン"
光が、綺麗だ。
久しぶりの、快晴。
それも曇りから、少しずつ、少しずつ晴れて来て光線が雲を割り
やっと温かい陽射しが空を満たした。
俺は雲が好きで、ずっと見ていたって飽きないと思っている。
むしろ、雲を見ていると体が地上から乖離して行くようで。
静かな、静かな気持になる。
そして心が空にポカン、と浮かんだら
思い切り空の空気を肺に溜めて、叫ぶ。
とても気持ちがいい。
でも、稀に一人は淋しいなとふと感じる事もあって。
そんな時は、この弛んだ重い雲を
眩い光が散らしてしまわないかな、と期待する。
光。
光みたいな、歌声を持つあいつが
この静寂を破らないかな。
そう思う。
今も、重い雲と俺の心は遠い空に浮かんでいた。
そして、願った様に光りは満ちて。
眩しくて、真っ直ぐに目も、耳も向けられない程の。
後は、もうすぐ。
———そばには、きっと。
その光の声で飛翔して、隣で俺に微笑みかけてくれる。
———それは、リョ…
「ジョンウンヒョン!!!」
バシーーン!!!という効果音とと共にイェソンは軽いめまいを感じた。
空では無くて頭の中に光がチカチカと点滅する。
———リョウク。
ああ、ちょっぴりヒステリックな、俺の光。
「イェソンヒョンって呼べって言っただろ…」
イェソンは、雑誌で叩かれた後頭部をさすりながら、何度か瞬きをする。
「雲ばっかり見てるからだよ!何度呼んだら気付くの!"イェソン"には
全く見えないっ。全くもう…!」
「ほら、お客様いらっしゃってるよ!」
リョウクは、白い店内の窓から空ばかり見ていて客に気づかないイェソンに見兼ね
店内に乱入したのであった。
焦って接客を始めるイェソンを見ながらリョウクは小さく頭をふると
カレンダーに何気無く目をやる。
早いな。
いつの間にか、桜の咲く季節が終わったかと思ったらもう夏の方が近い。
リョウクは、なんとなく疲れが溜まっている気がして
頼りない程に細い、自分の肩を軽く揉んだ。
そうしながらも、今日の日付の所に何か小さく予定のメモが書いてある事に
気付いたが、よく見えなくて目を細める。
そしてふと、リョウクは思い立ち
伸びた長めの前髪を耳にかけて、レジスターの1番そばの売り物のメガネを手に取った。
オシャレな眼鏡…。
僕にはこういうのは似合わないだろうな。
そう思いながらもかけてみようとした瞬間、ふわりと手の中の眼鏡を奪われる。
「…失礼します。」
耳元で低くて、気持ちのいい声が囁く。
次の瞬間突然視界がクリアになり、リョウクの目の前には
中腰で屈み込み、唇の片端を上げて笑う店員が居た。
「いかがですか?お客様。」
いつの間にかかけられた眼鏡の位置を、更に調整すべく
イェソンがリョウクの耳元に手を伸ばす。
「い…」
「似合ってるぞ。それ試着用に弱い度が入ってる。見えるか?」
また、イェソンがリョウクの長い前髪を眼鏡からよけるように
人差し指で優しく払った。
「もし気に入ったなら、それやる。」
切れ長の目を更に細くして、イェソンが微笑む。
「い…いい、いらないよ!ヒョンの毛穴まではっきり見えて微妙!」
リョウクはつい、気恥ずかしさを誤摩化してしまった。
「なっ、お、お前!俺は肌には自信があってだな!!」
2人がいつもの様に喧嘩を始めようとした時
店のドアがキイ、と音を立てて開く。
甘ったるい香りが…ふと二人の鼻をついた。
「…おはよ。なに?また喧嘩ごっこでもしてるの。」
訪問者は生意気な口調で目を細め、口を開く。
イェソンが人懐っこく笑い、手を広げた。
「キュヒョナ、早かったな!」
ああ、とリョウクは思い出した。
今日は僕とイェソンヒョンとキュヒョンで、歌を録る日だった——。
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午前7:00
江南の高級高層ホテル。
外は重い雲が立ちこめ、薄暗い空がまだ朝じゃないと
訴えているようだった。
———ヒョクチェが目を開くと、そこにはあまりに整った美しい顔が眠っている。
空気が冷たいのに、自分はとても温かい。
シウォンは、まるで宝物でも抱いているみたいに
包み込むようにヒョクチェを腕の中に抱きしめたまま眠っていた。
背中に添えられた大きな手が、ヒョクチェの動きに反応して
子供をあやすように動く。
甘い、香り。
体の奥を刺激する、甘い、疼き。
”———抱かない。”
昨晩シウォンはそう言った。
安心すると同時に、少し拍子抜けした。
そしたら、感情の蓋が、ぽろりと外れた。
昨日突然起きた出来事を思い出すと、まだ、震える。
体の半分を、失った様な。
心の半分を、一緒にもぎ取られた様な、痛み。
追いかけたら、きっともっと傷つけていた。
応えられるはずも無いのに、応えられたとしても、それは————
シウォンの顔を、ちらりと見やる。
初めて覚えた、奇妙な感情。
サディスティックな、恍惚感。
こんな俺を、愛していると言う、この美しい彫刻の様な男への。
これは、何だろう。
腕を解いて、ベッドから出ようとしてみる。
でもその強い腕は俺を放してはくれなくて。
シウォンの腕は、更に強くヒョクチェを捕えた。
せめて寝返りを打って、ヒョクチェはシウォンに背を向けてみる。
シウォンが目覚めた様な、そんな気配がした。
「…ヒョクチェ?」
「手、放せよ。」
シウォンが、小さく欠伸をしてヒョクチェを宥めるように優しく抱き直す。
「…ん、駄目だ。もうちょっとここにいなさい。」
寝起きの、いつもより低い声で、囁く。
ヒョクチェは胸が痛い程にざわめくのを感じた。
体中の血管が沸騰する様な。
「噛み付くぞ。」
「駄目。」
「やだ。」
「仕方が無いな…」
シウォンが大きく一度伸びをして、ふっと笑った声が聞こえたかと思うと
ヒョクチェを簡単に転がして上から組み伏せた。
「ちょっ…」
シウォンは、くっと篭った笑いを漏らした。
「これで動けない。」
「シウォン!!」
「まだ出て行かないというまでこのままだ。」
「馬鹿!!重いんだよ!」
「そうだろう。早く観念しなさい…」
まだ眠そうな、バスローブを来た寝起きのシウォンの熱い肌が
ヒョクチェのシャツ越しに伝わる。
「あーーーっ!」
ヒョクチェは、どうにかシウォンから逃れようとジタバタともがく。
しかしシウォンは放すどころか更にきつく抱きしめて、くすくすと笑った。
そして、目を開けて真っすぐにヒョクチェの目を見つめる。
「ヒョクチェ、温かい…」
「はぁ?」
「温かいよ。目が覚めて、こんなに安心するのは初めてだ…」
「なんだよ…それ」
「君には暑苦しいかもしれないが、俺は幸せ過ぎてどうにかなりそうだ。」
「…あんたずるいよ、やっぱ…」
「そうだと言ったろう?」
「シウォン」
「なんだい」
ん?と半開きの優しい目を向けたシウォンの顔を、ヒョクチェは両手で捕える。
そして、その薄目の綺麗な上唇に、噛み付いた。
「ヒョク…」
「おいしい」
「…痛い。」
ヒョクチェが、猫の様な目をする。
「餌の時間なんだよね。」
「悪い猫だ。」
「…ちょっと足りないんだけど。」
ヒョクチェがピンク色の舌を少し出して、頂戴、という目をした。
シウォンは無言でその舌に舌を絡ませると暫くそれを楽しんで
深く唇を合わせると、吐息をも貪った。
————ヒョクチェは、自分の本能だけを感じる。
思考なんて、どうでもいい話だ。
理性なんて、今は必要無い。
ここに居るのは、ライオンとただの猫なんだろ。
本能で求め合って何か悪い?
睡眠欲、食欲、性欲。
体が、この男でそれらを満たしてしまいたいと暴れてる。
愛なんて、ただの理性だ。
愛してるなんて言うのは俺には分からない。
愛してるなんて言葉で表せないのが本能と理性の間にある。
理性に頼るなら、多分俺はドンヘを愛してる。
シウォンを愛してる。かもしれない。
でもそんなのはただの脳みそがはじき出した記号だ。
信じない。
理解出来ない。
表現が出来ない。
理性と本能の間の凶悪な何かが、この男を支配したいって、思わせる。
体が動く、いつだってそうだ。
俺の足りない理性と、知性の代わりに、手が、足が、唇が、目が。
動く————。
ヒョクチェはひとしきりシウォンのキスを味わうと、隙の出来た一瞬に
身を翻してベッドから滑り出た。
やられた、という顔をしてシウォンが苦笑いでヒョクチェを横目で見る。
ヒョクチェは、首をポキポキと鳴らしながら一回転させると
嬉しそうに笑って「ごちそうさま」と言った。
シウォンは改めて、敵わない、と思った。
本能の侭に動き回るヒョクチェ。
そこに愛があるのかどうかは分からない。
だがしかし、確固たるヒョクチェの純粋性は未だ失われなくて。
それは全て、瞳が語る。
昨日あんなにも泣いた瞳で、今日は強がって同情を拒む。
愛なんて分からないと言った口で、こんなにも情動を貪る。
——酷く、魅力的だ。
唇に残った、ヒョクチェの甘い唾液を舐めとると
シウォンは甘酸っぱい胸の痛みを感じた。
「朝食を準備しよう。」
それを誤摩化すように、自分に使命を課す。
「うん、俺なんか買って来ようか」
ヒョクチェが生来の生真面目さを、ちらつかせる。
どれが、今の本当のヒョクチェの心だ?
「いや、大丈夫。俺が———」
フロントに電話する、そう言おうとしてベッドから降りようとして
床に足をついた瞬間。
猛烈な激痛がシウォンの脹脛から太ももへと走った。
「っ————!!」
「シウォン?」
床に跪く様にして、シウォンが体を折り崩れる。
ヒョクチェは動揺して、シウォンの傍に走り寄り、体を抱き起こす。
シウォンの美しい額に、汗が一筋流れ落ちたのを、ヒョクチェの目は捉える。
痛みに眉を顰め、言葉を失っているシウォンに愕然とした。
「どうしよう、俺、救急車———」
「ヒョクチェ、…大丈夫、ちょっと携帯を取ってもらえないか…」
顔面を蒼白にして狼狽えるヒョクチェの頬に縋り、シウォンが苦しそうに言った。
シウォンに携帯を渡すと、どこだかに電話をかけて車を手配した様だった。
「シウォン、ベッドに戻ろう。ていうか、どうしたんだよ…」
「ああ…ちょっと手伝ってもらえるかい」
「うん、ほら」
「っあ…!く…」
少し動くと、猛烈に痛いようだった。
本当に痛そうだ。
突然どうして——。
ヒョクチェはシウォンの体を支えて、ベッドに戻すと痛がっている箇所を確認する。
滑らかなブロンズの様な内臑から腿への肌が、一部赤く、腫れ上がっていた。
「これ——もしかして」
「ああ…でも大丈夫だから。心配するんじゃない。」
「俺——」
ヒョクチェの顔が歪んで、泣きそうな表情になる。
屋根から落ちたヒョクチェを抱きとめた時から、少しだけ痛んでいた脚。
シウォンも、まさかこんなに酷くなるとは思っていなかった。
痛みを我慢して、不安に肩を縮めるヒョクチェを抱き寄せる。
「大丈夫だ。」
「でも」
「キスしてくれたら、少しは和らぐかな。」
敢えて、シウォンは冗談めかしてそう笑ってみせる。
「どのくらいで車、来んの…」
「10分くらいだな。」
「俺も一緒に病院行く。」
「大丈夫だ、ヒョクチェ。君は家に帰らないと。」
「やだ。」
「やだよ。」
ヒョクチェが繰り返す。
「…結果を聞いたら、すぐに帰りなさい、いいね?」
シウォンは、これは言っても聞かないなと判断して、そう提案した。
うん、とヒョクチェは頷いて、シウォンの隣で肩を落とす。
「…ほら。おいで。」
シウォンは、余りの可愛らしさに痛みすら忘れそうだった。
片腕を広げてヒョクチェを呼んでみる。
ヒョクチェは傷んでいる場所を伺いながら、素直にシウォンに体を寄せた。
ヒョクチェは、シウォンの体に腕を回す。
沢山の不安がヒョクチェを埋め尽くしているのだろう。
いつの間にか、まるで借りて来た猫の様に大人しくなっている。
———シウォンはヒョクチェのそんな様子を眺めて、
痛みよりも愛おしさから溢れ出てくる微笑みを、止められなかった。
To be continued...
※通勤中に書き溜めていたものを取り急ぎアップ!
シウォンさんって、猛烈に人を抱きしめて寝ちゃう癖が有るんですよね。
レラ様がそれを嫌がって同室を逃げ出した過去あり。(笑)
シウォンさんって、猛烈に人を抱きしめて寝ちゃう癖が有るんですよね。
レラ様がそれを嫌がって同室を逃げ出した過去あり。(笑)
明日続きをアップ出来たらなーと考えてます!煮え切らない終わりですみません(^^;)
ハロウィンパーティへと行ってきます。シウォンコスでも計画すれば良かった。
それってダビデ像みたいな感じですよね…公然猥褻…